Facebook
Twitter
RSS

よみものどっとこむ

第16回

「思い出のもの」をどう残す?

2017.03.27更新

読了時間

【 この連載は… 】 住まいを工夫すると、ライフスタイルが変わる。小さくてもゆとりある暮らしのキーワードは「ミニマムライフ」そして「自由」。時間と共に変化していく空間やモノと長く付き合う、心地よい住まいづくりの方法を紹介します。


 大切な人からの手紙、賞状やトロフィー、昔の手帳や日記、 大切な日に身につけていた服、大切な人からもらったアクセサリー。人生を積み重ねるにつれ、思い出や経験はどんどん蓄積されます。 それに従って、思い出にまつわるものもだんだん集積されていきます。


子どもが小さく可愛かった時に来ていた服、子どもが好きだったおもちゃ、子どもの絵や作文、なぐり書き、イベントのたびに撮りためたビデオや写真。子どもがいると、大人だけの生活に輪をかけて、どうしてもものが増えてしまいます。その中でも、整理収納のお困りごとの上位になるのが、子どもの作品や写真の整理。実際、よくご相談をいただくことがあります。


■思い出のものは捨てにくい


 一定期限の間に使わないものは、それから先も使わない可能性が非常に高いので、一旦処分する。家にガラクタを溜め込まないために大切なことです。とはいえ、思い出にまつわるものは、捨てにくいのです。買ったものなら、一旦手放しても、必要があればまた買い直すことはできるけれど、思い出のものは、代替えが効かないからです。一度失ったら、戻せないがゆえ、もっとも手放しにくいもの。慎重になるのは当然です。

 そして、ものにまつわる思い出の比重は、とても主観的。人によって、取っておきたいものも、取っておきたい量も異なります。だから、選別が難しいのです。


 東日本大震災の、壮絶な津波で、家や家財道具一切を失った被災者が、がれきの中から一生懸命探し出していたのは、家族の歴史を刻んだ写真。その映像を見た時、心が切なくなりました。我が家でも、ものとしての一番の宝物は、小さかった子どもたちの写真だと思うからです。


 思い出が詰まった大切なものとはいえ、家に置くならそれだけ部屋のスペースを圧迫します。収納スペースや家の広さは限度があります。思い出をすべて取っておくなら、家はどんどん大きくしていかなければなりません。だから、すべてを取っておくのは、現実的ではありません。もし、すべてを取っておくスペースがあったとしても、あなたがこの世を去る時、その膨大な量のあなたの思い出を、誰かが整理しなければならないでしょう。あなたが大切にしているものでも、その誰かにとってはそれほど大切ではないかもしれないし、もしかしたらほとんどガラクタに見えるかもしれません。


 以前、整理収納アドバイザーの資格のために講義を受けていた会場で、遺品整理のお仕事をしている人にお話を聞く機会がありました。亡くなった大切な人が大切にしていたものを遺族が選別する作業は、ものの多さに比例して困難になるそうです。数が多ければそれだけ時間と手間がかかり、結局大切なものを選ぶことができないまま、すべてがゴミ処理行き、というケースが多いらしいのです。


■枠を決めて持つ


 思い出は、すべてを取っておくのではなく、いつかは選別する必要があります。限りあるスペースの中で、持つ上限を決めておくと簡単です。この棚におさまるだけ、この箱におさまるだけ。持つ数ではなく、収納スペースの枠を決めて、その範囲で取っておくもの、手放すものを決めるのがよいでしょう。我が家では、夫と私の思い出は、書類箱一つにおさまる量と決めています。入れるものは自由。たとえ、それがデジタル化された写真やビデオなどの情報でも同じこと。デジタルとはいえ、その情報を置いておくには、物理的なスペースが必要です。


■先延ばしせず即時に選ぶ


「いつか整理しよう」と思っていても、その整理する量はどんどん増えていきます。先延ばしにすればするほど、量は増える一方。自分は年をとり、体力も気力も失せていきます。ある思い出の整理は、早ければ早いほど良いし、これから積み重なる大切な思い出の整理も、「今」 が一番の整理どきです。


■デジタルでも場所と手間をとる


 現在では、ほとんどの情報はデジタル化することができるようになりました。本当に便利です。たくさん写真を撮っても、印刷に出さずに、パソコンやカメラ、SDカードの中に入れておけます。書籍や大切な情報も、デジタル化して保管して、スマホやタブレットで閲覧することができます。写真なら、昔のフィルム写真のように、フィルムの最後まで撮り終わるまで待って、写真屋さんに持って行って現像を依頼して・・・そんな手間をかけなくても、撮った画像がすぐに確認できます。何枚撮影しても、印画紙が溜まり収納に困ることもありません。


 デジタル化によって、情報を保管する場所やアクセスする時間を節約することはできます。でも、保管場所や管理する時間がまったくゼロになるわけではありません。デジタルとはいえ、チリも積もれば場所をとります。冗漫に撮影された動画は撮るだけ撮って整理されなければ、ほとんど見ることはありません。動画の編集は、慣れなければかなり手間のかかる作業です。


 デジタルデータは、ハードディスクやメモリの損傷で、一瞬にして失うリスクがあるので、複数の場所にバックアップを取っておく必要があります。データの容量が大きければ大きいほど、バックアップ作業が大変になります。結局、面倒なバックアップ作業を怠ってしまい、データが壊れた時にはすべてを失うという、悲しいことにならないようにしたいもの。そのためにも、デジタルデータも不要なものはあらかじめ保管しないようにするのが賢明です。


■デジタル写真を整理する


 撮った写真をすぐに確認できるデジタル写真のメリットを最大限に活かします。パソコンやハードディスクに、写真データを移す前に、撮ったデバイス(デジタルカメラやスマホなど)で、その日のうちに写真を簡単に整理してしまいましょう。


 例えば、子どもの運動会の日、デジカメで100枚ほど写真を撮ったとします。その中でも、ベストな数枚を残して、あとは撮ったデバイス上で消去します。ほとんど同じショット、似たショット、ぶれている、すこし欠けている。そんな写真は迷わず消去。手元には、ベストな写真のアルバムが残ります。1日分のベストアルバムなら数が少ないので、容量もそれほど占拠されないし、あとで転送や消去するのも簡単になります。


 動画の場合は、より注意が必要です。データ容量も大きくなり、編集やバックアップを取る手間も静止画の比ではないからです。

インターネット上の動画は、長さが1分以内だと最後まで見られる確率が高くなり、5分以上だと動画の最初のほうで視聴を断念する確率が高まります。1分、長くても5分程度の長さに編集したほうが、あとで振り返って良く見ることが多くなるでしょう。


 なお、我が家の場合は、カメラのレンズを通して撮影する我が子でなく、肉眼で記憶に焼き付けるのに専念するようにします。もちろん、本人や家族に見せるためにも動画や写真も撮りますが、それほど多くは残しません。


■残したいものは変化する


 不思議なのは、決まっただけしか持たないと決めておくと、以前大切だと思っていたものが、たまに見直すにつれ、これはもうとっておかなくてもいいか、と思える時が来ることです。我が家の3人の子どもたちの、幼稚園からとっておいた絵画などの作品は、大きな画用紙が入るサイズの袋一つに収めています。 長男が中学を卒業し、進学する高校が決まった春休み、長男と一緒に作品を整理しました。以前は、大切に取っておきたかった絵も、さらに選別することができました。「高校に入学することが決まったということは、小学校と中学校は卒業していて当然。だから卒業証書もいらない」という長男の一言で、小学校と中学校の卒業証書も手放しました。卒業証書がなくても、小学校と中学校を卒業した事実は変わらないし、その証書がなくても、とくに証明を出すアテもなかったからです。


■思い出のありか


 思い出は、「もの」そのものではありません。「もの」は、あくまでその記憶を象徴するだけです。思い出の収納場所は、押入れや納戸ではなく、心の中。「思い出のもの」の役割は、心にある記憶を引き出す、いわばトリガー(引き金)の役目を果たします。心の中に大切にしまってある思い出の扉をひらくきっかけを与えるもの。だから、思い出にまつわるすべてを保管しておく必要はありません。何を、どれぐらい残したいかは、あなた次第です。


 本連載は、今回が最終回となります。

シェア

Share

感想を書く感想を書く

※コメントは承認制となっておりますので、反映されるまでに時間がかかります。

著者

尾崎 友吏子

ブログ「cozy‐nest小さく整う暮らし」主宰。にほんブログ村「シンプルライフ」「ミニマリスト」「ワーキングマザー育児」カテゴリーで上位人気を誇る。1970年生まれ。ニューヨーク州立大卒。不動産業などを経て、現在は建設業に従事。二級建築士、インテリアコーディネーター、整理収納アドバイザー1級。著書に『3人子持ち働く母のモノを減らして家事や家計をラクにする方法』(KADOKAWA)がある。

矢印