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よみものどっとこむ

第6回

客も家人ももてなす畳敷きの家

2016.10.25更新

読了時間

■文豪たちが好んで住んだ家


 愛知県にある博物館「明治村」。江戸時代から継承された日本古来の文化と、西欧の新しい文化が溶け合った、明治時代の由緒ある多数の建物が移築、保存されています。


 明治村にある建物は60棟以上。そのほとんどが西洋風の建築物ではありますが、そのなかでも特に目を引いたのが一棟の日本建築の家。


 その建物は、森鴎外や夏目漱石が借家していたこともあり、夏目漱石はここで「我輩は猫である」を発表し、その名を高めたといいます。作中にある、猫のくぐり戸などがあるのが特徴のその家ですが、当時の典型的な中流住宅であったといわれています。


■住まう人も丁寧にもてなす畳


 一歩家の中に足を踏み入れ、驚いたのが、玄関から上がってすぐが畳敷きだったこと。

奥の座敷まで行くには、縁側沿いの長い廊下を通ります。玄関から廊下に通じる、いわゆる「ホール」部分が、畳敷きなのです。


 家へ上がるなり、柔らかい畳を足で踏む感触は、丁寧にもてなされる高級旅館をおとずれたような錯覚におちいります。入ったらすぐ畳なので、今では家の中で使うのが常識となっているスリッパを使用する必要がありません。


 他の部屋もすべて畳敷き。押入れ付きの畳の部屋は、家具をそれほど必要としません。畳は、素足で歩いても気持ち良く、冬でもそれほど冷たくありません。ラグも不要です。板張りでなく、畳敷きの家は、客人だけでなく、住まう人を優しく包んでくれそうです。


■たった2畳の個室のマジック


 この鴎外と漱石が住んだ家には、台所から中廊下を挟んだところに女中部屋があります。平面図で見ると、その小さな部屋はなんとたったの2畳。2畳では、布団を敷くことができません。一体どうなっているんだろうと部屋を覗くと、平面図では収納に見えたあと1畳分の下の部分が畳敷きになっています。ちょうど、2畳の部屋に、ふすまのない1間の押入れが付いていて、押入れの下段が部屋と続きの畳敷きになっているような構造です。寝る時は、押入れの下段の部分に足、または頭を入れて、布団を敷くような形になるのでしょう。もちろん、押入れの中段部分より上は収納として機能しています。


 2畳の個室で寝ることができ、収納もある。2畳の女中部屋は、これ以上ない簡素で完結したシンプルの骨頂でした。


■シンプルな畳部屋の真骨頂、茶室


 小さくて簡素な 部屋といえば、茶室。

千利休が作ったといわれる茶室「待庵」は2畳。これ以上小さくできない、究極のコンパクトなもてなしの空間です。時折、ピンとした澄んだ空気を味わうために私がしばしば訪れる博物館の茶室は、4畳半。待庵よりは少し大きい間取りの茶室です。

収納、唯一の飾る場でもある床の間もあり、隣には3畳の次の間と、きちんとお茶を点てられるよう水屋(流し)も付いています。これにトイレと浴室があれば、コンパクトながら実際に住まうことができそうです。


 窓からは、外の景色を眺めることができます。にじり口から見える景色は、入り口の枠を額縁に見立てて切り取った絵画のように美しく、客人を楽しませるのに十分です。コンパクトながら、畳敷きの完結した空間は、それ以上の家具をまったく必要としません。


 畳敷きの部屋は、究極の機能美を備えたもてなし空間になり得ます。

もし、漱石の家がフローリングなら、名作「我輩は猫である」は違ったものになっていたのかもしれません。もし畳でなかったら、女中部屋には2畳以上の大きな部屋が必要だったでしょう。茶室が畳でなく、フローリングなら、あれほど美しく心地よい空間が生まれたでしょうか。


■畳敷きの部屋=和室でなくても良い


 畳といえば、すぐに和室を想像しがちです。でも、和室にだけでなく、畳を、フローリングやカーペットなどの床材の一つとして、もっと自由に使えば、部屋の自由度はもっと高まります。洋風の空間にも、もちろん畳は使うことができます。フチなしの畳や、カラフルな畳、昔ながらのい草でなく、和紙でできた畳もあります。こうした畳を使えば、いわゆる和室っぽくならず、好みのインテリアに馴染んだ畳敷きの部屋を作ることができます。


 日本の文化にフィットしている畳。床材に畳を選ぶことで、部屋をより柔軟に、自由に、そして心地よく使うことができます。こうした便利なツールとして、畳という床材を、もっと見直してもいいのかもしれません。

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著者

尾崎 友吏子

ブログ「cozy‐nest小さく整う暮らし」主宰。にほんブログ村「シンプルライフ」「ミニマリスト」「ワーキングマザー育児」カテゴリーで上位人気を誇る。1970年生まれ。ニューヨーク州立大卒。不動産業などを経て、現在は建設業に従事。二級建築士、インテリアコーディネーター、整理収納アドバイザー1級。著書に『3人子持ち働く母のモノを減らして家事や家計をラクにする方法』(KADOKAWA)がある。

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