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第23回

新社会人に過度な気負いは必要ない

2018.04.04更新

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【この連載は…】めまぐるしくトレンドが変化する現代。改めて自分に必要なものは何かを見つめなおしてみませんか? 本連載では、作家・書評家の印南敦史さんが、大きなことから小さなことまで、日々の生活で気になった事柄をテーマに「なにが大切で、なにが大切でないか」を考えていきます。

新しい年度がスタートし、新社会人の姿をよく見かけるようになりました。

先日ふと思ったんですけど、よくよく考えてみると最近の新社会人って、昔にくらべて洗練されてませんか? 10数年前なら、いかにもスーツを着慣れない、そして学生っぽさの抜けきれない子が多かったように思うんですよ。

でも、あのころにくらべると、いまの子たちはスーツの着こなしにも無理がないじゃないですか。スーツの型の流行とも関係あるのかもしれないけれど、いかにも清々しく見えるのです。

ってな話はともかく、この時期になると気にかかることもあるのです。まとめサイトなどを開くと、新社会人が書いたとおぼしきネガティブ・フレーズがいくらでも目に飛び込んでくること。

なかには「入社一日目にして退職を決心」なんていうヘッドラインが立っていることもあって、なんだかビックリ。もちろん、ネタとしてウケを狙っているだけかもしれませんけれど、そこまで悲観的になる必要はないんじゃないかなと思ってしまったりもするわけです。

とはいえもちろん、不安だという気持ちもわからないではありません。僕もかつてある会社に就職した際、新入社員挨拶の席で「とにかく気合いを入れなくちゃ!」と必要以上に気を張ってしまい、どこかの応援団かというほどの大声で挨拶をして全社員を凍りつかせたりしたことがありますし。

でもね、そんな失敗をたくさんしてきたからこそ(そう、失敗はそのことだけではないのだ)思うこともあるのです。

たしかに社会に出る以上、学生時代の常識はほぼ通用しなくなるでしょう。そしてスタートの時点では、「こうやって進んでごらん」と親切に手取り足取り教えてくれる人はまずいません。

やがて先輩や上司が助言をしてくれることになるでしょうけれど、彼らに頼る以前に、まず自分で判断し、行動する必要性が生じてくるわけです。だから、どうしたらいいのかわからなくなってしまう。

しかも、初期段階で気が張りまくっているものだから、「さあ、どうしよう?」というときに突飛な行動に出てしまったりする。その結果、「……ああ、失敗した……」と落ち込みまくり、ひどい場合は「もう辞めたい」と考えたりもしてしまうわけです。

そりゃそうですよね。学生時代とは違って、会社からお金をいただく立場になったのですから。お金をいただくということは、それなりの実績を残さなければいけないということなのですから。なのに謎の失敗を繰り返してしまったりしたら、そりゃー辞めたくもなりますわ。

しかし、おそらくそれは違うのです。多くの場合、考えすぎなのです。なぜって、「この新人に仕事をさせて、お金を払おう」と決めて採用した時点で、その会社は新人の失敗なんかお見通しだからです。いいかえれば会社にとって新人とは、「失敗して当たり前」の存在なのです。

そして、この考え方を突き詰めていくと、やがて「失敗しないと覚えない」という真実にたどり着きます。ここが重要。

よく引き合いに出されることですが、いくら教習所(関係ないけど最近は“車校”って呼ぶらしいですね)で好成績をとっても、実際にドライバーとして運転をしない限り運転技術は身につきません。教習所内のコースは所詮箱庭だし、路上教習にだって教官がついてくれます。

でも、実際に運転するとしたら、信じられるものは自分しかないわけです。そして不安を抱えながら運転し、ヒヤッとした思いをしたり、車体をちょっと擦ってしまったり、そういう失敗を重ねた結果、少しずつ技術が身についていくものなのです。

ちなみにこれは、なんにでもあてはまることです。たとえば、DJをする際にもいえることだと僕は思っています。期待する観客を前に、緊張してミスッて音を止めてしまうとか、そういう恥ずかしい経験をすると、「もう二度と、あんな思いはしたくない」という気持ちがどんどん強くなっていくということ。

おそらくその後も数回は恥をかくんですけど、でも、そんなことを繰り返していくうちに、度胸がついて、コツがわかり、大勢の人の前でも物怖じしなくなるのです。

仕事だってそうなのです。たとえば僕は小さな広告代理店の制作部にいたことがあるのですが、ほとんど経験のない新人も、どんどん打ち合わせに行かせるようにしていました。

もちろん上司としては「あいつで大丈夫かな」という不安もないわけではありませんが、実際に現場に出向かせ、緊張させ、失敗させたほうが、確実に力がつくからです。

つまり上司というものは、そこまで考えて部下に指示を与えているわけです。その新人がなにかやらかしたとしても、それで会社がつぶれるようなことはありませんし、「これで失敗したら会社がなくなる」というレベルの仕事が新人に与えられることは、どう考えてもありえません。

会社にも上司にも新人にも、なにひとつメリットがないからです。なのに、そんな選択をするはずがないのです。

クライアント側もそうで、相手が新人だとわかっていれば、「これから、この子は我が社のためにがんばってくれるんだな」と温かい目で見てくれるものです。

だから、ちょっと失敗したとしても、いきなり上司に「契約破棄だ!」なんて電話が入ることはまず考えられません。調子に乗ってクライアントの頭を叩いたとか、そういうことなら話は別ですが。

つまり、上司もクライアントも、「新人は失敗して当然」「新人なんだから話が下手で当然」「多少は世間知らずでも、まあ許そう」と考えているものなのです。

そりゃー甘えてはいけませんけれど、少なくとも「一度の失敗も許されない!」と気を張りすぎる必要はないのです。

だからこそ、緊張の連続で疲れ切っているという新入社員のみなさんにお伝えしたいのは、「気を張る必要はないんだよ」ということ。

厳しくて意地悪く思える上司や先輩も、おそらく失敗することをわかったうえで、失敗したら自分が尻拭いをするという覚悟のうえで、厳しい指示を出しているのですから。

だから断言しておきます。「過度な気負いは必要ない」って。


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著者

印南 敦史

作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。ウェブ媒体「ライフハッカー(日本版)」で書評欄を担当することになって以来、大量の本をすばやく読む方法を発見。以後、驚異的な読書量を実現する。著書に『遅読家のための読書術 情報洪水でも疲れない「フローリーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)ほか多数。新刊は『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)

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