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第35回

読書に関するプライドは必要ない

2018.07.05更新

読了時間

【この連載は…】めまぐるしくトレンドが変化する現代。改めて自分に必要なものは何かを見つめなおしてみませんか? 本連載では、作家・書評家の印南敦史さんが、大きなことから小さなことまで、日々の生活で気になった事柄をテーマに「なにが大切で、なにが大切でないか」を考えていきます。

話題になっている、とある小説のことについて話をしているとき、知り合いのKさんがふと、こんなことを言ったのでした。

「読んでないからなんとも言えないけどさー、でも俺、話題になってるとか売れてるとか聞いた時点で読む気を失っちゃうんだよね。だって、そういう本を読むのって、なんか流されてるみたいじゃん。自分の軸がないっていうかさ」

僕もその本は読んでいなかったのですが、けれどまぁ気持ちはわからないでもないなと思いました。というよりも、20代のころにはまったく同じことを口にしていたような記憶があります。

ただし僕の場合、それは「過去形」。つまりその後、考え方がガラッと変わったわけです。いつ、なにがきっかけで変わったのかは定かではありませんけれど、おそらくは読書体験を積み重ねていく過程で、少しずつ変化していったのではないかと思います。

では、どのように変わったのか?

きわめて簡単な話で、「話題になっているから読む気がしない」ではなく、「話題になっているから読むべきだ」と考えるようになったわけです。

この考え方のポイントは、話題になっているもの、売れているものには“根拠”があるということ。

芥川賞や直木賞などの賞を受賞したから話題になっているのかもしれないし、映画化されたから多くの人が興味を示しているのかもしれません。他にもいろいろな根拠があるでしょうが、いずれにしても話題になったり売れたりするということは、その裏側になんらかの理由が隠れているということです。

それはそうですよね。なんの魅力もない作品が賞を取るはずもないし、売れるはずもないのですから。

だとすれば、それを「話題になっているからダメ」と切り捨ててしまうと、とたんに矛盾が生じます。その作品にまつわる根拠を、一方的に否定するだけのことになってしまうからです。

いや、そうは言っても先に触れたように、過去の自分がそういうタイプだったからこそ、ダメ出ししたがる人の気持ちもわかるのです。疑問を投げかけたり否定的な視線を送れば、

・なんとなく自我を保てる気がする
・自分は人と違うと思えるし、差別化できる(ような気がする)
・「人とは違う」と自覚すると、気持ちがちょっと楽になる
・上位に立てる(ような気分になれる)

というような思いを手に入れられるかもしれないのですから。

もちろん、そうすることによって多少なりとも自我が保てるのだとしたら、それはそれで精神的に楽でしょう。が、あくまでそれは一時的なもの。それよりむしろ、あえて話題作を「受け入れる」ほうが、得られるメリットは格段に大きいと思います。

・視野が広がる
・新たな好奇心が生まれる可能性も
・受け入れることで、精神的に余裕ができる
・知識の幅が広がる
・「受ける理由」を実感できれば、時代を読み解く能力がつく
・読んだ人と話題を共有できる
・その結果、人がより集まってくるようになる(人脈が広がる)

たとえば、ぱっと思いつくメリットはこんな感じ。

それまで受け入れようとしなかったものを受け入れることができれば、当然のことながら、目の前に映る景色の幅が広がります。しかも、「好きじゃないから」と思っていたものが、実は好きだったということに気づくかもしれません。

否定していたものを肯定できるようになれれば、それだけ精神が安定し、余裕を持てるようになるでしょう。

いままであった壁を取っ払うわけですから、もちろん知識の幅は広がります。また、「なぜ受けるのか」を実感することは、マーケティング・センスを養うことにもなるはず(大げさに聞こえるかもしれませんが、これは事実だと思います)。

なにより素晴らしいのは、「読んでないから……」と引くのではなく、読んだ人と話題を共有できるようになれること。そうすることで、他の人の、自分とは違う感じ方を知ることもできるはずです。

「閉じている」状態だと「近づきにくい」という印象を人に与えてしまう可能性がありますが、自分がオープンになれば話は別です。必然的に「気さくな人」という印象が強くなり、自分の周囲に人が集まるようになっていくわけです。

こうして考えてみただけでも、話題の本を受け入れることの魅力を実感できるのではないでしょうか?

好みであろうがなかろうが、受けるものには理由があるのです。だからこそ、まずは受け入れ、その理由を探してみる。それだけのことで、視野は大きく広がるはずなのです。

読んでみて、もし「つまらない」「やっぱり共感できない」と感じたのだとしたら、それはそれでいいじゃないですか。それだって、読んでみなければわからないことなのですから。

・本当に興味がないのか、自分を疑ってみる
・話題作を、あえて読んでみる
・その他の興味のない本も、意識的に読んでみる

こういったことが、読書の幅を広げ、ひいては自分自身の人間性をも成長させてくれるのだと思います。繰り返しになりますが、好きか嫌いか、ためになるかならないかは、実際に読んでみなければわからないのですから。

そして、これは、小説であろうがノンフィクションであろうがエッセイであろうが、ビジネス書であろうが自己啓発書であろうが、ジャンルに関係なくすべての本に言えることだと思います。

ちなみに、新刊『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』にも書きましたが、興味のない本を読んでみようというとき、オススメの方法があります。

ブックオフなど新古書店の「108円コーナー」を利用してみること。

ああいったコーナーには、人気作家の作品や、あるいは売れた作品などが大量に並んでいます。

つまり棚を眺めてみるだけで、どんなものが売れたのかがわかるわけです。そして、そのなかから、「普段だったら手に取らないだろうなあ」と思うようなものを選び、買って読んでみる。

そうすれば、好きか嫌いかがわかり、新たな価値観をものにすることができるかもしれないのです。

仮に「失敗だった」と思ったとしても、わずか108円を失うだけのこと。108円でいろいろなことを感じることができるのですから、むしろおトクではないでしょうか。

そして、そんなことを繰り返していくうちにいつの間にか、自分を縛りつけていた「読書に関するプライド」を捨て去ることができるようになるでしょう。

その先に広がった景色は、なかなか心地よいものですよ。


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著者

印南 敦史

作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。ウェブ媒体「ライフハッカー(日本版)」で書評欄を担当することになって以来、大量の本をすばやく読む方法を発見。以後、驚異的な読書量を実現する。著書に『遅読家のための読書術 情報洪水でも疲れない「フローリーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)ほか多数。新刊は『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)

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