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よみものどっとこむ

第4回

抱え込むことは必要ない

2017.10.04更新

読了時間

【この連載は…】めまぐるしくトレンドが変化する現代。改めて自分に必要なものは何かを見つめなおしてみませんか? 本連載では、作家・書評家の印南敦史さんが、大きなことから小さなことまで、日々の生活で気になった事柄をテーマに「なにが大切で、なにが大切でないか」を考えていきます。

この連載は、誠文堂新光社のWくんという編集者から連絡をもらったところからスタートしました。有名なヒップホップDJと同じ名字です。いきなり関係のない方向に話が飛んでしまいましたが、その時点で、ヒップホップが好きな僕は彼に少し期待感を寄せたわけです(期待の仕方がおかしい)。

実際に会ってみたら、その予感があながち外れてはいなかったことを実感しました。というのも、Wくんは信頼に値する男だったのです。具体的にいえば、物静かで誠実、絵に描いたように真面目(ヒップホップと関係ないけど)。

もちろん、企画そのもののおもしろさにも心惹かれたからこそOKしたのです。が、それ以前に、「この編集者と仕事をしたい」と思わせる不思議な魅力がWくんにあったわけです。

とはいえ当然ですが、ただ彼を褒めちぎるためにこの文章を書いているわけではありません。ですが、早い話が彼は今回の「抱え込むことは必要ない」というテーマにピッタリの男なのです。

どこの世界にも、「抱え込んでしまう人」がいるものです。そして、そんなタイプにはいくつかの共通点があります。

1:真面目
2:完全主義
3:コミュニケーションが苦手

真面目で完全主義なので、きちんとできないと納得できない。しかもコミュニケーションがあまり得意ではないということもあり、誰かにその仕事を頼みたいと思っても、うまく伝達することができない(少なくとも自分の望む形では伝えられない)。そんな感じ。

そのため、なんらかの仕事を人に頼まなくてはならないと考えた時点で、大きな不安に苛まれてしまうのです。

他人を信用していないということでは決してないのだけれども、うまく伝える自信がないのだとしたら、その相手がニーズを完璧に理解し、その仕事を希望どおりにこなしてくれる確率は低くなります。だから頼んだ本人は結局のところ、「自分でやったほうが早い」「自分でやれば安心だ」という発想に陥ってしまうということ。

そして、Wくんがまさにそういうタイプだったのです。常に不安を抱えているような表情を見るにつけ、「ああ、この人は典型的な“抱え込んでしまう人”だな」と感じたわけです。

ちなみに自信を持ってそういい切れるのは、誰あろう僕自身が“抱え込んでしまう人”だから。独立してから20年くらいはひとりで仕事をしていますが、それ以前は小さな広告代理店の制作部で管理職をしていました。しかし、そのときのていたらくといったら……。

「世界一、人を使うのに向いていない人」というカテゴリーでギネスが受賞できるのではないかというほど、上に立って指図をしたりすることに向いていなかったのです。

ですからいまでも、あのころのことを思い返すと頭を抱えたくなります。穴があったら入りたいどころか、深い深い穴を掘って中に飛び込み、10トンくらいの重さの蓋で塞いでしまいたくなるような感じ。

あのころの自分にかけていたものは、間違いなくリーダーシップです。そもそも自分に絶対的な自信が“ない”ので、「リーダーはどうあるべきか」と考えることができないし、考えてみたところでよくわからなかったのです。端的にいえば「頼りない上司」だったわけで、下で働いていてくれた人たちに対しては申し訳なさでいっぱいです。

でも今回はリーダーシップの話をしたいわけではないので、そのことはとりあえず封印しておくことにしましょう。そんなことよりも真剣に考えて見るべきは、“抱え込んでしまう人”の闇の深さについてです。

繰り返しになりますが、“抱え込んでしまう人”はよくも悪くも真面目です。ちなみにこの場合の「真面目」とは、悪い意味でのそれだといってもいいかもしれません。いずれにしても真面目だからこそ、「粗相をするまい」という思いだけが先に立ってしまい、まるで風船のようにぱんぱんに膨張してしまうのです。

でも(自分だってその部類なんだから偉そうにいえた義理ではありませんが)、ちょっと立ち止まって考えてみましょう。ぱんぱんに膨張してしまったのだとしたら、そのぶん目の前にあるものが見えにくくなってしまうはずです。そして、「そんな状況をなんとかしなくてはいけない」とまた焦ってしまうと、さらに視界が狭くなっていくでしょう。

どんな職種であれ、仕事をするときに求められるべきは客観性と冷静さです。物事を落ち着いて把握することができないと、どんどんおかしな方向に進んでしまうからです。

しかも恐ろしいのは、むしろそこから先。そこまでであれば、単に自分が苦悩するだけなのだから、まだ被害は少ないといえるかもしれません。しかし、ぱんぱんに膨らんだ風船は、最終的にどうなるでしょうか?  いうまでもなく、「これ以上は無理」というところまで到達したら、あとは破裂するだけです。

破裂したら、もちろん破裂した本人にもダメージはあります。しかし、それだけでは収まりません。大きな破裂音が響くし、溜まっていた空気が一気に押し出されるので突風が起こるかもしれない。雰囲気も穏やかなものではなくなり、つまりは周囲に迷惑をかけてしまうことになります。

「自分でやったほうが早い」という考え方は、絶対的な主観です。そう思えば一時的にでも自分が楽になれるから、そのために自分をごまかしているようなものです。でも、そうすることで周囲に被害が及ぶのだとしたら、果たしてそれは正しいのでしょうか? そんなはずはないし、それどころか信頼を失うことにもなりかねません。

だから、抱え込まないほうがいいのです。

「そんなこと、頭ではわかってるんだよ。でも、うまくいかないんだから仕方がないじゃん!」

そんな反論が聞こえてきそうです。たしかにそのとおりですよね。抱え込まなくて済むのであれば、そんなに楽な話はないのですから。

では、どうしたらいいのか?

答えは、意外とシンプルなものだと僕は思います。「自分でやったほうが早い」と抱え込むのではなく、「自分だけでやれるはずがない」と認めてしまえばいいのです。

「完璧にこなさなければ“いけない”」というように、謎の断定をしてしまうから苦しくなるのです。でも、そもそも人間は不完全なものであり「できなくて当然」。むしろ、そっちが正しい。だからそれを認めたうえで、「じゃあ、どうしたらいいのか」と考えてみればいいだけの話です。

自分のマイナスな部分を認めてしまえば、いくらか気持ちは楽になります。また、そこからは「○○さんに相談してみようかな」というような発想が生まれてくるかもしれません。いずれにしても、認めてしまえば、そこが突破口になりうるのです。

ですから、抱え込みがちな方はぜひとも、「自分でやったほうが早い」を「できなくて当然」に置き換えてみてください。それだけで気持ちが楽になるでしょうし、そこがスタートラインになるのだということもわかるはずだから。

あ、ちなみに先に触れたとおり、僕自身もまだまだ完璧ではありませんから、ここに書いていることは、不器用な自分に宛てたメッセージでもあります。

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著者

印南 敦史

作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。ウェブ媒体「ライフハッカー(日本版)」で書評欄を担当することになって以来、大量の本をすばやく読む方法を発見。以後、驚異的な読書量を実現する。著書に『遅読家のための読書術 情報洪水でも疲れない「フローリーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)ほか多数。

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