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第5回

10〜11話

2021.03.26更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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3‐4 民の生活が安定すれば王者になれる


【現代語訳】
〈前項から続いて〉。「民には一世帯ごとに五畝の宅地を与え、そのまわりに桑の木を植えて養蚕をさせると、五十歳過ぎた者でも絹を着て暮らせます。また、いろいろな家畜を飼わせて、子をはらんでいるときなどに殺さないように配慮して育てると、七十過ぎた者でも肉を食べて暮らせます。一世帯ごとに百畝の田地を与え、夫役は、農繁期にさせないようにすると、五、六人の家族なら、飢えることなどないでしょう。次には、学校での教育を重視し、さらに重ねて道徳、すなわち親を大事にすることや目上を立てることなどの義をきちんと教えれば、白髪まじりの老人が道路で重い荷物を持ち運ぶことなどなくなるでしょう。このように、七十過ぎの者でも絹の服を着られ、肉を食べられ、一般庶民が飢えることも凍(こご)えることもないようになります。このような政治をして、王者とならなかった人など昔から今まで一人もございません」。

【読み下し文】
五畝(ごほ)(※)の宅(たく)、之(これ)に樹(う)うるに桑(くわ)を以(もっ)てせば、五十(ごじゅう)の者(もの)以(もっ)て帛(はく)(※)を衣(き)るべし。雞豚狗彘(けいとんこうてい)(※)の畜(ちく)、其(そ)の時(とき)を失(うしな)う無(な)くんば、七十(しちじゅう)の者(もの)以(もっ)て肉(にく)を食(くら)うべし。百畝(ひゃっぼ)の田(でん)、其(そ)の時(とき)を奪(うば)う勿(な)くんば、数口(すうこう)(※)の家(いえ)、以(もっ)て飢(う)うる無(な)かるべし。庠序(しょうじょ)(※)の教(おし)えを謹(つつし)み、之(これ)に申(かさ)ぬる(※)に孝悌(こうてい)の義(ぎ)を以(もっ)てせば、頒白(はんぱく)の者(もの)道路(どうろ)に負戴(ふたい)せず。七十(しちじゅう)の者(もの)帛(はく)を衣(き)、肉(にく)を食(くら)い、黎(れい)民(みん)(※)飢(う)えず寒(こご)えず。然(しか)り而(しこう)して王(おう)たらざる者(もの)は、未(いま)だ之(こ)れ有(あ)らざるなり。

(※)五畝……約二六〇坪。約百五十坪という説もある。
(※)帛……絹。なお、『帛書』とは紙のない時代において絹に書いてある本のことである。拙著『全文完全対照版 老子コンプリート』参照。
(※)鶏豚狗彘……にわとり、仔豚、食用犬、牝豚。
(※)数口……五、六人の家。
(※)庠序……「庠」も「序」も郷土の学校。我が国でも栃木県にある足利学校の校長は、「庠主」と呼ばれている。なお、前に紹介したように、孔子も『論語』のなかで次のように言っている。「冉(ぜん)有(ゆう)曰(いわ)く、既(すで)に庶(おお)し。又(また)何(なに)をか加(くわ)えん。曰(いわ)く、之(これ)を、富(と)まさん。曰(いわ)く、既(すで)に富(と)めば、又(また)何(なに)をか加(くわ)えん。曰(いわ)く、之(これ)を教(おし)えん」(子路第十三)。このように人口の増加→生活の安定→教育の重視は孔子、孟子など儒教のゆるぎない考え方となっている。
(※)申ぬる……重ねて。
(※)黎民……一般庶民。

【原文】
五畝之宅、樹之以桑、五十者可以衣帛矣、鷄豚狗彘之畜、無失其時、七十者可以食肉矣、百畝之田、勿奪其時、數口之家、可以無飢矣、謹庠序之敎、申之以孝悌之義、頒白者不負戴於道路矣、七十者衣帛、食肉、黎民不飢不寒、然而不王者、未之有也、

3‐5 責任をよく自覚している者のもとには、人が集まる


【現代語訳】
〈前項から続いて〉。「今の諸侯たちは、自分たち裕福な者の犬や豚が、人間の食べ物をたらふく食べていても、知らないふりをして取り締まることもしません。また、道ばたで飢えて倒れている者があっても、救うために米倉を開いて、米穀を放出することもしません。人が餓死しても、『自分のせいではない。凶作の年だからしかたないことだ』と言います。これは、ちょうど人を刺し殺しておいて、『これは自分が殺したのではない。この武器が殺したのだ』と言うのと同じです。もし、王が人が飢えて死んだのを、凶作の年のせいなどとしないで、自分の責任と考えて、誠実に政治をするようであれば、天下の人民は、みんなその王のところに慕い集まってくるでしょう」。

【読み下し文】
狗(こう)彘(てい)(※)人(ひと)の食(しょく)を食(くら)えども、検(けん)(※)するを知(し)らず。塗(みち)に餓莩(がひょう)(※)有(あ)れども、発(はっ)する(※)を知(し)らず。人(ひと)死(し)すれば、則(すなわ)ち我(われ)に非(あら)ざるなり、歳(とし)なりと曰(い)う。是(こ)れ何(なん)ぞ人(ひと)を刺(さ)して之(これ)を殺(ころ)し、我(われ)に非(あら)ざるなり、兵(へい)(※)なりと曰(い)うに異(こと)ならんや。王(おう)歳(とし)を罪(つみ)する無(な)くんば、斯(ここ)に天下(てんか)の民(たみ)至(いた)らん。

(※)狗彘……犬(食用犬)や豚(牝豚)。本書の梁恵王(上)第三章四参照。
(※)検……取り締まること。なお、収検すること。すなわち倉に蓄えることと解する説もある。
(※)餓莩……飢えて倒れている者。
(※)発する……米倉を開いて米穀を放出すること。
(※)兵……ここでは刀などの武器を意味する。なお、『孫子』で「兵とは詭道なり」(計篇)という場合の「兵」は戦争の意味である。また、兵士を指すこともある。

【原文】
狗彘食人食、而不知檢、塗有餓莩、而不知發、人死、則曰非我也、歳也、是何異於刺人而殺之、曰非我也、兵也、王無罪歳、斯天下之民至焉、

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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