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第114回

279〜280話

2021.09.03更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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3‐2 君の友人の扱い方

【現代語訳】
〈前項から続いて孟子は言った〉。「ただ兵車百乗を持つ大夫だけでなく、小国の君でも同じような例がある。例えば、費の恵公はこう言った。『私は子思に対しては、これを師として敬う。顔般に対しては、友として付き合っている。王順と長息は、私の家来である』と。しかし、ただ小国の君だけがそうではない。大国の君でも、同じような例がある。晋の平公の、亥唐に対する交友がそれである。亥唐がお入りくださいと言えば入り、お坐りくださいと言えば坐り、お食べくださいと言えば食べた。そして、亥唐の出す食べ物が、たとえ粗末な飯や野菜の吸い物でも、必ず満腹するまで食べた。これはおそらく賢者(亥唐)のすすめであるから、満腹するまで食べないわけにはいかなかったのだろう。これは賢者を友とする態度としては悪くないのであるが、平公の場合はここで終わっているのが残念である。さらに進んで亥唐を登用して、天の与えた位を亥唐と共有し、天の与えた職を分担し、天の与えた俸禄を分与するというところまではいかなかったのだ。これでは、士人が賢者を尊ぶやり方であって、王公が賢者を尊ぶやり方ではないのである」。 

【読み下し文】
惟(ただ)百乗(ひゃくじょう)の家(いえ)のみ然(しか)りと為(な)すに非(あら)ざるなり。小国(しょうこく)の君(きみ)と雖(いえど)も、亦(また)之(これ)有(あ)り。費(ひ)の恵公(けいこう)曰(いわ)く、吾(わ)れ、子思(しし)に於(お)いては、則(すなわ)ち之(これ)を師(し)とす。吾(わ)れ、顔般(がんはん)に於(お)いては、則(すなわ)ち之(これ)を友(とも)とす。王順(おうじゅん)・長息(ちょうそく)は、則(すなわ)ち我(われ)に事(つか)うる者(もの)なり、と。惟(ただ)小国(しょうこく)の君(きみ)のみ然(しか)りと為(な)すに非(あら)ざるなり。大国(たいこく)の君(きみ)と雖(いえど)も、亦(また)之(これ)有(あ)り。晋(しん)の平公(へいこう)の亥唐(がいとう)に於(お)けるや、入(い)れと云(い)えば則(すなわ)ち入(い)り、坐(ざ)せと云(い)えば則(すなわ)ち坐(ざ)し、食(くら)えと云(い)えば則(すなわ)ち食(くら)う。疏食(そし)菜羮(さいこう)と雖(いえど)も、未(いま)だ嘗(かつ)て飽(あ)かずんばあらず。蓋(けだ)し敢(あえ)て飽(あ)かずればあらざるなり。然(しか)れども此(ここ)に終(お)わるのみ。与(とも)に天位(てんい)を共(とも)にせざるなり。与(とも)に天職(てんしょく)を治(おさ)めざるなり。与(とも)に天禄(てんろく)を食(は)まざるなり、士(し)の賢(けん)を尊(たっと)ぶ者(もの)なり。王公(おうこう)の賢(けん)を尊(たっと)ぶに非(あら)ざるなり。

【原文】
非惟百乘之家爲然也、雖小國之君、亦有之、費惠公曰、吾、於子思、則師之矣、吾、於顏般、則友之矣、王順・長息、則事我者也、非惟小國之君爲然也、雖大國之君、亦有之、晉平公之於亥唐也、入云則入、坐云則坐、⻝云則⻝、雖疏⻝菜羹、未嘗不飽、蓋不敢不飽也、然終於此而已矣、弗與共天位也、弗與治天職也、弗與⻝天祿也、士之尊賢者也、非王公之尊賢也。

3‐3 天子(帝)の友との付き合い方

【現代語訳】
〈前項から続いて孟子は言った〉。「舜は、平民の身分から引き上げられて、帝(堯)に謁見(えっけん)した。帝は、わざわざ離宮に泊まっている娘むこ(堯の娘の夫である舜)を訪ねたり、また舜を招いて饗宴を催した。帝(堯)と舜は互いに賓客となったり、主人役となったりした。これは、天子が普通の平民でありながらも賢を尊んで友とするやり方である。身分の下の者が上の者を敬することを貴を貴ぶといい、身分の上の者が下の者を敬することを賢を尊ぶという。貴を貴ぶことも、賢を尊ぶことも、その道理は同じである」。

【読み下し文】
舜(しゅん)尚(あ)げられて(※)帝(てい)に見(まみ)ゆ。帝(てい)、甥(せい)(※)を弐室(じしつ)に館(かん)し、亦(また)舜(しゅん)を饗(きょう)し、迭(たがい)に賓主((ひんしゅ)となる。是(こ)れ天子(てんし)にして匹夫(ひっぷ)を友(とも)とするなり。下(しも)を用(もっ)て上(かみ)を敬(けい)する、之(これ)を貴(き)を貴(たっと)ぶと謂(い)う。上(かみ)を用(もっ)て下(しも)を敬(けい)する、之(これ)を賢(けん)を尊(たっと)ぶと謂(い)う。貴(き)を貴(たっと)び賢(けん)を尊(たっと)ぶ、其(そ)の義一(ぎいつ)なり(※)。

(※)尚げられて……平民の身分から引き上げられて。このほかにも、天子の娘を妻にさせたとする説や平民から引き上げられて天子の娘を妻にさせたの両方とする説などがある。
(※)甥……ここでは、娘むこ。なお、現代日本では、兄弟姉妹の息子を甥と言っている。
(※)其の義一なり……道理は同じ。お互いを尊敬し合うということで、両者のあり方は同じであるということ。

【原文】
舜尙見帝、帝、館甥于貳室、亦饗舜、迭爲賓主、是天子而友匹夫也、用下敬上、謂之貴貴、用上敬下、謂之尊賢、貴貴尊賢、其義一也。


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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