Facebook
Twitter
RSS

第121回

292~293話

2021.09.14更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
「目次」はこちら

8‐1 尚友

【現代語訳】
孟子が万章に言った。「一地方の優れた人物は、同じ一地方の優れた人物を友とする。一国の優れた人物は、同じ国内の優れた人物を友とする。天下の優れた人物は、天下の優れた人物を友とする。天下の優れた人物を友としても、まだ足りないというときは、昔の人をさかのぼって論究し、友とする。その人の詩を吟じ、その人の書を読むにあたっては、その人を(人となりを)よく知らなくてはならない。だからその人の時代を論究していかなければならない。これが尚友ということである」。

【読み下し文】
孟子(もうし)万章(ばんしょう)に謂(い)いて曰(いわ)く、一郷(いっきょう)の善士(ぜんし)(※)は、斯(ここ)に一郷(いっきょう)の善士(ぜんし)を友(とも)とす。一国(いっこく)の善士(ぜんし)は、斯(ここ)に一国(いっこく)の善士(ぜんし)を友(とも)とす。天下(てんか)の善士(ぜんし)は、斯(ここ)に天下(てんか)の善士(ぜんし)を友(とも)とす。天下(てんか)の善士(ぜんし)を友(とも)とするを以(もっ)て、未(いま)だ足(た)らずと為(な)すや、又(また)古(いにしえ)の人(ひと)を尚論(しょうろん)(※)す。其(そ)の詩(し)を頌(しょう)し、其(そ)の書(しょ)を読(よ)むも、其(そ)の人(ひと)を知(し)らずして、可(か)ならんや。是(ここ)を以(もっ)て其(そ)の世(よ)を論(ろん)ず。是(こ)れ尚友(しょうゆう)(※)なり。

(※)善士……優れた人物。代表する人。善い行いの人。
(※)尚論……昔のことを論究する。
(※)尚友……古人を友とすること。現代でも「尚友」はよく使われているがその語源。例えば、「書を読んで古人を友とすること」(『広辞苑』岩波書店)を意味する。吉田松陰の『士規七則』の一つにも「人(ひと)古今(こきん)に通(つう)ぜず、聖賢(せいけん)を師(し)とせずんば、則(すなわ)ち鄙夫(ひふ)のみ。読書(どくしょ)尚友(しょうゆう)は君子(くんし)の事(こと)なり」とある。

【原文】
孟子謂萬章曰、一郷之善士、斯友一郷之善士、一國之善士、斯友一國之善士、天下之善士、斯友天下之善士、以友天下之善士、爲未足、又尚論古之人、頌其詩、讀其書、不知其人、可乎、是以論其世也、是尚友也。

9‐1 卿の役割・職務

【現代語訳】
斉の宣王が、卿たる者の役割、職務について尋ねた。孟子は答えた。「王は、どの卿についてお尋ねですか」。王は言った。「卿にもいろいろあるのか」。孟子は言った。「卿といっても同じではありません。同姓、つまり親族の卿もあり、異姓の卿もあります」。王は言った。「同姓の卿について、その役割、職務について教えてもらいたい」。孟子は言った。「君に大きな過ちがあれば、それを諫めます。何度諫めても、聞き入れないならば、君を、一族のなかのふさわしい人と変えるのです」。これを聞いて、王はさっと顔色を変えた。そこで孟子は言った。「王よ。驚かないでください。王が私にわざわざ尋ねられたので、正しい道理とされる一般論を答えないわけにはいきませんでした」。すると、王の顔色も普通に戻り、次は異姓の卿について尋ねられた。孟子は言った。「異姓の卿は、君に過ちがあればそれを諫めます。何度諫めても聴き入れられないならば、身を引いて立ち去るのです」。

【読み下し文】
斉(せい)の宣王(せんおう)、卿(けい)を問(と)う。孟子(もうし)曰(いわ)く、王(おう)何(なん)の卿(けい)を之(これ)問(と)うや。王(おう)曰(いわ)く、卿(けい)同(おな)じからざるか。曰(いわ)く、同(おな)じからず。貴(き)戚(せき)の卿(けい)(※)有(あ)り、異姓(いせい)の卿(けい)有(あ)り。王(おう)曰(いわ)く、貴戚(きせき)の卿(けい)を請(こ)い問(と)う。曰(いわ)く、君(きみ)大過(たいか)有(あ)れば、則(すなわ)ち諫(いさ)む。之(これ)を反覆(はんぷく)して聴(き)かざれば、則(すなわ)ち位(くらい)を易(か)う。王(おう)勃然(ぼつぜん)として色(いろ)を変(へん)ず。曰(いわ)く、王(おう)異(あや)しむこと勿(な)かれ。王(おう)、臣(しん)に問(と)う。臣(しん)敢(あえ)て正(せい)を以(もっ)て対(こた)えずんばあらず。王(おう)色(いろ)定(さだ)まり、然(しか)る後(のち)異姓(いせい)の卿(けい)を請(こ)い問(と)う。曰(いわ)く、君(きみ)過(あやま)ち有(あ)れば則(すなわ)ち諫(いさ)め、之(こを反覆(はんぷく)して聴(き)かざれば則(すなわ)ち去(さ)る。

(※)貴戚の卿……同姓の卿。つまり、親族の卿。

【原文】
齊宣王、問卿、孟子曰、王何卿之問也、王曰、卿不同乎、曰、不同、有貴戚之卿、有異姓之卿、王曰、請問貴戚之卿、曰、君有大過、則諫、反覆之而不聽、則易位、王勃然變乎色、曰、王勿異也、王問臣、臣不敢不以正對、王色定、然後請問異姓之卿、曰、君有過則諫、反覆之而不聽則去。


【単行本好評発売中!】 
この本を購入する

「目次」はこちら

シェア

Share

感想を書く感想を書く

※コメントは承認制となっておりますので、反映されるまでに時間がかかります。

著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

矢印