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第26回

62〜63話

2021.04.26更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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13‐1 小国でも仁政をやっていれば自主独立も可能である


【現代語訳】
滕の文公が問うて言った。「滕は小国である。斉と楚の大国に挟まれている。斉に仕えたものか、それとも楚に仕えたものなのか」。孟子は答えて言った。「この問題は、私の考えの及ぶところではありません。しかし、やむを得ず、何か言わなければならないとなれば、ここに一つだけ方法があります。それは、この城の堀を深く掘り、この城の壁をさらに高く築いて、民と一緒にこの城を守り、死んでも民が逃げ出さないようにすることです(そのために、普段から仁政をしていることが大切です)」。

【読み下し文】
滕(とう)の文公(ぶんこう)問(と)うて曰(いわ)く、滕(とう)は小国(しょうこく)なり。斉(せい)・楚(そ)に閒(かん)す。斉(せい)に事(つか)えんか、楚(そ)に事(つか)へんか。孟子(もうし)対(こた)えて曰(いわ)く、是(こ)の謀(はかりごと)(※)は吾(わ)が能(よ)く及(およ)ぶ所(ところ)に非(あら)ざる(※)なり。已(や)む無(な)くんば則(すなわ)ち一(いつ)有(あ)り。斯(こ)の池(いけ)を鑿(うが)ち、斯(こ)の城(しろ)を築(きず)き、民(たみ)と与(とも)に之(これ)を守(まも)り、死(し)を効(いた)すも民(たみ)去(さ)らざるは、則(すなわ)ち是(こ)れ為(な)すべきなり。

(※)謀……考えるべき問題。
(※)吾が能く及ぶ所に非ざる……私の考えの及ばないところにある。この言葉について吉田松陰は、孟子の真意は、これはまず文公自身が決断すべきことであって、他人の知恵を借りる問題ではないことであり、まず自らが決断しないと志も定まらないことにあるのだとしている(『講孟箚記』)。

【原文】
滕文公問曰、滕小國也、閒於齊、楚、事齊乎、事楚乎、孟子對曰、是謀非吾所能及也、無已則有一焉、鑿斯池也、築斯城也、與民守之、效死而民弗去、則是可爲也、

 

14‐1 ただ善をなすことだけを心がける(そうすれば将来必ず良いことが起きる)


【現代語訳】
滕の文公が問うて言った。「斉は、我が国境近くにある薛(せつ)を占領してそこに城を築こうとしている。私は、このことを大変恐れているが、どうしたものだろう」。孟子は答えて言った。「昔、周の大王(周の文王の祖父)は邠にいたけれども、蛮族の狄が侵入してくるので、そこを去り、岐山のふもとに移られました。これは自らが好みえらんだのではなく、やむをえなくて移ったのです。善を行っていれば(王が仁政をしていれば)、後世、子孫のなかから必ず王者が出てくるでしょう。だから君子たる者は、事業のもとをつくり始めて、その良き仕事の手がかりを次の世代に残すようにするのです。次の世代がその事業を成功するかどうかは天のみぞ知るです(つまり天命です)。斉がすることは、王にとっては、どうしようもできないことです。王ができることは、ひたすら善をなすことだけなのです」。

【読み下し文】
滕(とう)の文公(ぶんこう)問(と)うて曰(いわ)く、斉人(せいひと)将(まさ)に薛(せつ)(※)に築(きず)かんとす。吾(わ)れ甚(はなは)だ恐(おそ)る。之(これ)を如何(いか)にせば則(すなわ)ち可(か)ならん。孟子(もうし)対(こた)えて曰(いわ)く、昔者(むかし)大王(だいおう)邠(ひん)に居(お)る。狄人(てきひと)之(これ)を侵(おか)す。去(さ)って岐山(きざん)の下(もと)に之(ゆ)きて居(お)る。択(えら)んで之(これ)を取(と)るに非(あら)ず。已(や)むことを得(え)ざればなり。苟(いやしく)も善(ぜん)を為(な)さば、後世(こうせい)子孫(しそん)必(かなら)ず王者(おうじゃ)有(あ)らん。君子(くんし)業(ぎょう)を創(はじ)め統(とう)を垂(た)れ(※)、継(つ)ぐべきを為(な)す。夫(か)の成功(せいこう)の若(ごと)きは則(すなわ)ち天(てん)なり。君(きみ)彼(かれ)を如何(いか)にせんや。彊(つと)めて(※)善(ぜん)を為(な)さんのみ。

(※)薛……国の名。滕国の近くにあったが、当時、斉に占領されていた。
(※)統を垂れ……事業の糸口を始めて子孫に伝える。
(※)彊めて……ひたすら。一生懸命に。なお、「自彊(じきょう)不息(ふそく)(「自彊やまず」とも読む)」は、『昜経』にある有名な言葉で、日本の学校でもよく校訓となっている。自らひたすら努め励み、怠らないことを意味する。

【原文】
滕文公問曰、齊人將築薛、吾甚恐、如之何則可、孟子對曰、昔者大王居邠、狄人侵之、去之岐山之下居焉、非擇而取之、不得已也、苟爲善、後世子孫必有王者矣、君子創業垂統、爲可繼也、若夫成功則天也、君如彼何哉、強爲善而已矣、

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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