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第49回

116〜117話

2021.06.02更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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8‐1 個人的な質問と断られても、正論を述べる(油断してはいけない)


【現代語訳】
(斉の臣である)沈同が、自分の個人的な質問であるとして、孟子に問うた。「燕は伐つべきでしょうか」。孟子は答えた。「伐ってもいいと思います。燕王の子噲は、天子の命令によらないのに勝手に燕の国を人に与えることはできません。燕の宰相たる子之も、天子の命令もないのに、勝手に燕の国を譲り受けてはなりません。例えば、ここに一人のあなたに仕える者がいたとします。あなたは、この者を大変気に入ったとして、王に告げることなしに、密かにこの者に禄や爵を与え、この者も王の命令もないのに、あなたからそれを受け取ったとすればどうでしょうか。こういうことは許されますか。子噲が勝手に子之に国を譲ったのも、このことと何の違いがあるでしょうか」。

【読み下し文】
沈同(しんどう)其(そ)の私(わたくし)を以(もっ)て問(と)う(※)て曰(いわ)く、燕(えん)伐(う)つべきか。孟子(もうし)曰(いわ)く、可(か)なり。子噲(しかい)は人(ひと)に燕(えん)を与(あた)うることを得(え)ず。子之(しし)は燕(えん)を子噲(しかい)に受(う)くることを得(え)ず。此(ここ)に仕(つか)うるもの有(あ)り。而(しか)して子(し)之(これ)を悦(よろこ)び、王(おう)に告(つ)げずして、私(ひそ)かに之(これ)に吾子(ごし)の禄爵(ろくしゃく)を与(あた)え、夫(か)の士(し)や、亦(また)王(おう)の命(めい)無(な)くして、私(ひそ)かに之(これ)を子(し)に受(う)くれば、則(すなわ)ち可(か)ならんか。何(なに)を以(もっ)て是(これ)に異(こと)ならんや。

(※)私を以て問う……自分の個人的な質問であるとして問う。沈同は個人的な質問としているが、本当は王から聞いてくるように命じられたのかもしれない。その後の展開から見るとその可能性は大きい。

【原文】
沈同以其私問曰、燕可伐與、孟子曰、可、子噲不得與人燕、子之不得受燕於子噲、有仕於此、而子悦之、不告於王、而私與之吾子之祿爵、夫士也、亦無王命、而私受之於子、則可乎、何以異於是。

 

8‐2 うかつに話をしてはいけない


【現代語訳】
〈前項から続いて〉。斉が燕を伐った。ある人が孟子に問うた。「先生が、斉に燕を伐つことを勧めたということですが、本当ですか」。孟子は答えた。「斉が燕を伐つことは、勧めていない。ただ、沈同が『燕を伐つべきでしょうか』と質問したので、私は、『伐つべきだ』と答えた。そのために彼は、燕を伐ったのだろう。しかし、もし彼が、『誰が燕を伐つべきだろうか』と聞けば、私はこう答えただろう。『天命を実行する天吏であればこれを伐ってよい』と。今ここに、人殺しをした者があるとする。ある人がこの件で問うたとする。『この犯人は死刑にすべきでしょうか』と。私は答えるだろう。『死刑にすべきだ』と。彼が、もし、『誰がこの犯人を死刑にするべきでしょうか』と聞けば私はこう答えるだろう。『裁判長ならば死刑を宣告、執行すべきである』と。今は、燕と同じように乱れた斉が、燕を伐ってしまったのである。どうして、そんなことを私が勧めようか」。

【読み下し文】
斉人(せいひと)、燕(えん)を伐(う)つ。或(ある)ひと問(と)うて曰(いわ)く、斉(せい)を勧(すす)めて燕(えん)を伐(う)たしむ。諸(これ)有(あ)りや。曰(いわ)く、未(いま)だし。沈同(しんどう)問(と)う、燕(えん)伐(う)つべきか、と。吾(わ)れ之(これ)に応(こた)えて曰(いわ)く、可(か)なり、と。彼(かれ)然(しか)り而(しこう)して之(これ)を伐(う)てるなり。彼(かれ)如(も)し孰(たれ)か以(もっ)て之(これ)を伐(う)つべき、と曰(い)わば、則(すなわ)ち将(まさ)に之(これ)に応(こた)えて曰(い)わんとす、天吏(てんり)(※)たらば則(すなわ)ち以(もっ)て之(これ)を伐(う)つべし、と。今(いま)人(ひと)を殺(ころ)す者(もの)有(あ)らんに、或(あ)るひと之(これ)を問(と)うて曰(いわ)く、人(ひと)殺(ころ)すべきか、と。則(すなわ)ち将(まさ)に之(これ)に応(こた)えて曰(い)わんとす、可(か)なり、と。彼(かれ)如(も)し孰(たれ)か以(もっ)て之(これ)を殺(ころ)すべきと曰(い)わば、則(すなわ)ち将(まさ)に之(これ)に応(こた)えて曰(い)わんとす、士師(しし)たらば則(すなわ)ち以(もっ)て之(これ)を殺(ころ)すべし、と。今(いま)燕(えん)を以(もっ)て燕(えん)を伐(う)つ。何(なん)為(す)れど之(これ)を勧(すす)めんや。

(※)天吏……天命を実行する天吏。天から命じられた者。
(※)燕を以て燕を伐つ……燕と同じように乱れた斉が燕を伐つ。前者の燕は斉を指す。本章の孟子の弁には批判も多い。しかし、一応、理屈は立っている(ただ、「未だし」と答えているのは、少し歯切れが悪い。孟子自身も、「しまった」と思っているニュアンスを感じる)。また、孟子からすると、燕は間違っているので、何とかすべきだと考えていた。沈同が聞いてきたときは、まだ斉の王に王道を実行させるのだという期待があったのだろう(梁恵王(下)第十章参照)。しかし、実際の行動結果を見ると非道そのもので、とても王道、天吏のようなものではなかった。だから、「燕を以て燕を伐つ」、と表現したのであろう(孟子の失望の大きさを表現している)。孟子は斉の王に、うまく利用されてしまった感がある。穂積重遠氏は次のように述べられている。「話を半分だけにしておいて、誤解を起させ、しまいまでききたださないからいけないのだというのは、ずいぶん意地悪くもあり、また強弁とも聞こえるが、議論とし文章としてはおもしろい」(『新訳孟子』 講談社学術文庫)。法律家らしい見方である。

【原文】
齊人、伐燕、或問曰、勸齊伐燕、有諸、曰、未也、沈同問、燕可伐與、吾應之曰、可、彼然而伐之也、彼如曰孰可以伐之、則將應之曰、爲天吏則可以伐之、今有殺人者、或問之曰、人可殺與、則將應之曰可、彼如曰孰可以殺之、則將應之曰、爲士師則可以殺之、今以燕伐燕、何爲勸之哉。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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