Facebook
Twitter
RSS

第88回

211〜213話

2021.07.28更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
「目次」はこちら

4‐1 大きな問題のある君からは去る


【現代語訳】
孟子は言った。「(君たる者が)罪がないのに士(役人)を殺すようなことがあったら、その危険は大夫(士の上位にある貴族)までに及ぶ。大夫はその危険を避けて国を立ち去ると良い。(君たる者が)罪がないのに民を殺すようなことがあったら、その危険は士にまで及ぶ。士はその危険を避けて、ほかの国に移ると良い」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、罪(つみ)無(な)くして士(し)を殺(ころ)さば、則(すなわ)ち大夫(たいふ)以(もっ)て去(さ)るべし。罪(つみ)無(な)くして民(たみ)を戮(りく)(※)せば、則(すなわ)ち士(し)以(もっ)て徙(うつ)る(※)べし。

(※)戮……殺すこと。
(※)徙る……移る。なお、『論語』にも「危邦(きほう)には入(はい)らず、乱邦(らんぽう)には居(お)らず」(泰伯第八)とある。この章においても前章で紹介したような吉田松陰の見方のように、これは、君主への警告、教えと見る見解が多い(特に日本で)。しかし、私はこうした儒教というか、中国人の考え方には個人主義的性向、無政府的性向がどこか存在していて、それは日本人との大きな違いの一つであることを率直に認めていいと思う。武士道の精神の影響が強い日本人は、あくまでその君とか、組織、国家を良くし、変えようと命を懸けるところがあるが、儒教の影響の強い(日本は儒教ばかりでなく、老子、神道、仏教などが、多く雑じり合っている)、あるいは中国人的個人主義的傾向(国や政府と自分はあまり一体と見ない)からすれば、本章のように状況を見て自分の対策を立て、必要であれば移ってしまえばよいことになる。つまり、あまりに君がひどい場合は、放伐とか易姓革命などを選択することになるのだ(孟子から始まる思想)。中国哲学の権威だった小島祐馬氏も「儒家においては、個人が天下国家のために活動することは、その奨励するところであるが、一朝、その活動に故障を生じた場合、個人主義に立ち帰ることもまた容認するところであり、むしろそれを高尚な賞讃すべき態度とするようである」とし、「このように無政府的思想の要素は、古今を通じて、中国社会に存在を続けている」とされる(『中国思想史』小島祐馬著 KKベストセラーズ)。

【原文】
孟子曰、無罪而殺士、則大夫可以去、無罪而戮民、則士可以徙。

 

5‐1 トップが立派な人であれば国や組織も良くなる


【現代語訳】
孟子は言った。「君が仁となれば、(民も感化されるので)一国中の者たちが仁にならないことはない。君が義となれば、(民も感化されるので)一国中の者たちが義とならないことはない(このことを君たる者は強く自覚しておいてほしい)」。

(注)本章は離婁(上)第二十章と同じ趣旨のものだが、ここでは君に向けての戒めである(離婁(上)第二十章は臣に向けての教えである)。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、君(きみ)仁(じん)なれば仁(じん)ならざること莫(な)く、君(きみ)義(ぎ)なれば義(ぎ)ならざること莫(な)し。

【原文】
孟子曰、君仁莫不仁、君義莫不義。

 

6‐1 本当の礼、本当の義がわかる人間になる


【現代語訳】
孟子は言った。「礼を装っているが実は非礼であったり(まやかしの礼)、義を装っているが実は非義(まやかしの義)といったものを、ちゃんとわかり、それをしないのが本当の大人、つまり真の人格者である」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、非礼(ひれい)の礼(れい)、非義(ひぎ)の義(ぎ)は、大人(たいじん)(※)為(な)さず。

(※)大人……真の人格者。何が本当の礼であるかニセモノの礼であるか、また何が本当の義であるか、ニセモノの義であるか。それが見分けられるのが大人つまり真の人格者であろう。そのために日々の学問と修養が大切であると孟子は言いたいのである。例えば、新渡戸稲造も、著書の『武士道』のなかで義から派生した日本人がよく使ういわゆる「義理」が、しばしば都合の良い〝詭弁〟となることを恐れた。このように、礼と義は、常に何が正しいかを自問していなければならないものなのである。なお、尽心(下)第三十七章二の「郷原」、同三の「原人」なども、見せかけは立派のようであるが、実は偽善者を強く批判している。これも本章の参考になる。

【原文】
孟子曰、非禮之禮、非義之義、大人弗爲。


【単行本好評発売中!】 
この本を購入する

「目次」はこちら

シェア

Share

感想を書く感想を書く

※コメントは承認制となっておりますので、反映されるまでに時間がかかります。

著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

矢印