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第22回

53〜55話

2021.04.20更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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8‐1 残賊の王はもはや一夫にすぎない(易姓革命論)


【現代語訳】
斉の宣王が問うて言った。「昔、殷の湯王は前の夏王朝の桀王を放遂し、周の武王は前の殷王の紂王を征伐したというが、本当のことだろうか」。孟子は答えて言った。「言い伝えではそうあります」。王は言った。「家来がその主君を殺していいものか」。孟子は言った。「仁をそこなう者は、これを賊といい、義をそこなう者は、これを残といいます。残賊の人は、もう王ではなく、ただの一夫すなわち天命が去り、民から見放された一人の卑賤の者にすぎません。ですから武王が一夫にすぎない紂という者を誅したことは聞いていますが、君たる人を誅したということは聞いておりません」。

【読み下し文】
斉(せい)の宣王(せんおう)問(と)うて曰(いわ)く、湯(とう)、桀(けつ)を放(はな)ち、武王(ぶおう)、紂(ちゅう)を伐(う)つ。諸(これ)有(あ)りや。孟子(もうし)対(こた)えて曰(いわ)く、伝(でん)に於(お)いて之(こ)れ有(あ)り。曰(いわ)く、臣(しん)にして其(そ)の君(きみ)を弑(しい)す、可(か)ならんや。曰(いわ)く、仁(じん)を賊(そこな)う(※)者(もの)之(これ)を賊(ぞく)と謂(い)い、義(ぎ)を賊(そこな)う者(もの)之(こ)れを残(ざん)と謂(い)う。残賊(ざんぞく)の人(ひと)、之(これ)を一夫(いっぷ)(※)と謂(い)う。一夫紂(いっぷちゅう)を誅(ちゅう)するを聞(き)く、未(いま)だ君(きみ)を弑(しい)するを聞(き)かざるなり。

(※)賊う……ない。ないがしろにする。
(※)一夫……ただの人。天命が去り、民から見放された一人の卑賤の者。本章は「湯武放伐論」として、中国の革命思想(易姓革命)の基本となったものである。中国でも日本でも批判が多かったが、前にも紹介したように(梁恵王(下)第三章三参照)、吉田松陰はこの討伐論と中国と日本の考え方の違いを見事に説明している。

【原文】
齊宣王問曰、湯、放桀、武王、伐紂、有諸、孟子對曰、於傳有之、曰、臣弑其君、可乎、曰、賊仁者謂之賊、賊義者謂之殘、殘賊之人、謂之一夫、聞誅一夫紂矣、未聞弑君也、

 

9‐1 目先の自分の欲のために、それまで学んできた正しい道を捨ててはいけない


【現代語訳】
孟子が斉の宣王に面会して言った。「王が大きな宮殿をつくろうとするなら、必ず、大工の棟梁に命じて大木を求めさせましょう。そして棟梁が大木を手に入れれば、王は喜んでよくその責任を果たした者であるとなされるでしょう。しかし、大工がその材木を切って小さくしてしまうと、王は怒って、その責任を果たせない者となされるでしょう(もう大きな宮殿はつくれなくなるから)。さて、人が幼少のころから学んで、一人前になってその学んできた正しい大きな道を行おうとするとき、王がその者に、『しばらく、お前の学んできたことは捨ておいて、私の言うことに従え』と命じたならば、どうでしょうか」。

【読み下し文】
孟子(もうし)、斉(せい)の宣王(せんおう)に見(まみ)えて曰(いわ)く、巨室(きょしつ)を為(つく)らば、則(すなわ)ち必(かなら)ず工師(こうし)(※)をして大木(たいぼく)を求(もと)めしめん。工師(こうし)大木(たいぼく)を得(え)ば、則(すなわ)ち王(おう)喜(よろこ)びて、以(もっ)て能(よ)く其(そ)の任(にん)に勝(た)うと為(な)さん。匠人(しょうじん)(※)斲(けず)りて之(これ)を小(しょう)にせば、則(すなわ)ち王(おう)怒(いか)りて、以(もっ)て其(そ)の任(にん)に勝(た)えずと為(な)さん。夫(そ)れ人(ひと)幼(よう)にして之(これ)を学(まな)び、壮(そう)にして之(これ)を行(おこな)わんと欲(ほっ)す。王(おう)曰(いわ)く、姑(しばら)く(※)、女(なんじ)の学(まな)ぶ所(ところ)を舎(お)いて(※)、而(しか)して我(われ)に従(したが)え。則(すなわ)ち何如(いかん)。

(※)工師……大工の棟梁。
(※)匠人……普通の大工。
(※)姑く……しばらく。ちょっとの間。
(※)舎いて……捨ておいて。

【原文】
孟子、謂齊宣王曰、爲巨室、則必使工師求大木、工師得大木、則王喜、以爲能勝其任也、匠人斲而小之、則王怒、以爲不勝其任矣、夫人幼而學之、壯而欲行之、王曰、姑舍女所學、而從我、則何如、

 

9‐2 自分よりよくわかった人の考えをよく聞く


【現代語訳】
〈前項から続いて孟子は言った〉。「今ここに、まだ磨いていない玉があったとします。その玉はそれがたとえ万鎰もする高価なものであっても、王は必ずこれを玉を磨く専門家に磨かせるでしょう。しかし、国家を治めるということになると、『しばらくお前の学んできたことは捨ておいて、私の言うことに従え』と命じられます。これは、素人である者が、玉を磨く専門家に、玉の磨き方を教えるのとどう違うのでしょう」。

【読み下し文】
今(いま)此(ここ)に璞玉(はくぎょく)(※)有(あ)らんに、万鎰(ばんいつ)(※)と雖(いえど)も、必(かなら)ず玉人(ぎょくじん)をして之(これ)を彫琢(ちょうたく)せしめん。国家(こっか)を治(おさ)むるに至(いた)りては、則(すなわ)ち曰(いわ)く、姑(しばら)く女(なんじ)の学(まな)ぶ所(ところ)を舎(お)いて、而(しか)して我(われ)に従(したが)え、と。則(すなわ)ち何(なに)を以(もっ)て玉人(ぎょくじん)に玉(たま)を彫琢(ちょうたく)することを教(おし)うるに異(こと)ならんや。

(※)璞玉……まだ磨いていない玉。
(※)万鎰……とても高価なことを指す。一鎰は二十両とする説と二十四両とする説がある。なお、『孫子』に、「勝兵(しょうへい)は鎰(いつ)を以(もっ)て銖(しゅ)を称(はか)るが若(ごと)く、敗兵(はいへい)は銖(しゅ)を以(もっ)て鎰(いつ)を称(はか)るが若(ごと)し」とある(形篇)。銖は鎰の四百八十分の一(拙著『全文完全対照版 孫子コンプリート』参照)。

【原文】
今有璞玉於此、雖萬鎰、必使玉人彫琢之、至於治國家、則曰、姑舍女所學、而從我、則何以異於敎玉人彫琢玉哉、

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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