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第90回

217〜219話

2021.07.30更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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10‐1 孔子は中庸の人であった


【現代語訳】
孟子は言った。「孔子は、極端なことをしない人だった」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、仲尼((ちゅうじ)は已甚(はなはだ)しきを為(な)さざる者(もの)なり。

【原文】
孟子曰、仲尼不爲已甚者。

 

11‐1 大人は「言うこと必ず信、行うこと必ず果」と決めつけない


【現代語訳】
孟子は言った。「言うことに偽りなく、行いにおいて必ず結果を出すことは美徳に違いないが、大徳の人、本物の人物は、必ずしも前に自分の言ったこと、始めたことにこだわらない。ただ、正しいことがわかったら、事のよろしきに合わせて行うという義に従って動くのである」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、大人(たいじん)なる者(もの)は、言(げん)必(かなら)ずしも信(しん)ならず(※)、行(おこな)い必(かなら)ずしも果(か)ならず。惟(ただ)義(ぎ)の在(あ)る所(ところ)のままなり。

(※)言必ずしも信ならず……必ずしも前に自分の言ったことにこだわらない。なお、『論語』にはこうある。「曰(いわ)く、言(い)うこと必(かなら)ず信(しん)、行(おこな)うこと必(かなら)ず果(か)。硜硜(こうこう)然(ぜん)として小人(しょうじん)なるかな」(子路第十三)。これは子貢がどのような人を「士」というのかと尋ねたなかでの孔子の返答の一部である。硜硜然とは、ここでは小さくまとまっていることを意味している。ここでの孟子の言葉は、孔子の言ったことを裏返して言ってはいるが、孔子のほうが「言必信、行必果」を肯定しているニュアンスがある。中国の政治家はよくこの『論語』の言葉を使う。「ちゃんと実行しろよ」という上から目線も感じる中国にとっては便利な言葉だ。かつて周恩来が田中角栄にこの言葉を書いた色紙を与え、これをもらった田中角栄は、とても喜んだが、そこには小人という意味も続いていたため、中国側になめられているとの批判も受けた。また、最近も、中国の外相が韓国の大統領にこの言葉を使っている(約束を実行せよと言いたかったようだ)。これに対し韓国のある新聞は、ここの孟子の言葉を挙げて、中国側に言い返したらどうかと論評している(いつもの韓国の立場からすると日本には何でも文句を言うが、中国に対してはそんな反論ができるはずがない)。

【原文】
孟子曰、大人者、言不必信、行不必果、惟義所在。

 

12‐1 大徳の人は赤ん坊のような純真さを失わない


【現代語訳】
孟子は言った。「大徳の人は、赤ん坊のような純真な心を、いつまでも失わない」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、大人(たいじん)なる者(もの)は、其(そ)の赤(せき)子(し)の心(こころ)を失(うしな)わざる者(もの)なり。

【原文】
孟子曰、大人者、不失其赤子之心者也。


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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