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第145回

346〜348話

2021.10.21更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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尽心(上)

1‐1 心を尽くして天命を待つ

【現代語訳】
孟子は言った。「自分の心を尽くして日々向上する者は、その心の本質が善であることを知るようになる。人間の本性が善であることを知ると、天を知ることができる。その心(いわゆる惻隠・羞悪・辞譲・是非の四端の心)を大切に保存し、その本性を損なわないように育てていくことが天に仕える道となるのである。人間には命が短い、長いの違いがあるものだが、それに心をわずらわせることなく、ただ、ひたすら修養に努めて、天命を待つのが、天命を全うすることといえるのだ」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、其(そ)の心(こころ)を尽(つ)くす(※)者(もの)は、其(そ)の性(せい)を知(し)るなり。其(そ)の性(せい)を知(し)れば、則(すなわ)ち天(てん)を知(し)る。其(そ)の心(こころ)を存(そん)し、其(そ)の性(せい)を養(やしな)うは、天(てん)に事(つか)うる所以(ゆえん)なり。殀寿(ようじゅ)(※)弐(うたが)わず(※)、身(み)を修(おさ)めて以(もっ)て之(これ)を俟(ま)つは、命(めい)を立(た)つる所以(ゆえん)なり。

(※)心を尽くす……吉田松陰は「自分の心いっぱい、その限界までを行い尽すことである」とする(『講孟箚記』)。なお、ここに「心」とは、いわゆる「惻隠・羞悪・辞譲・是非の四端」を指すとされている。穂積重遠氏の名著『新訳孟子』では、「吉田松陰の本章の解説は懇切にして悲壮(ひそう)、一読三歎の外ない」とされて、『講孟箚記』から、異例の六ページの引用がなされている。
(※)殀寿……命の短い、長い。
(※)弐わず……気にするものではなく。疑うことなく。

【原文】
孟子曰、盡其心者、知其性也、知其性、則知天也、存其心、養其性、所以事天也、殀壽不貳、修身以俟之、所以立命也。

2‐1 正しい天命を素直に受ける

【現代語訳】
孟子は言った。「人生において(吉凶禍福など)は、すべて天命でないものはない。正しい(自然な)天命を素直に受けるという心構えが大切である。だからこうした天命をよくわかっている者は、危ない岩石や壊れかけた土べいの下に立つようなことはしない(わざわざ自分から死んでしまうようなことはしない)。しかし、自分の歩むべき道を十分尽くして死ぬなら、それは正しい天命というべきである。ところが、道義にはずれて、わざわざ罪を犯して刑罰を受けて死ぬのは、正しい天命とはいえないだろう」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、命(めい)に非(あら)ざる莫(な)きなり。其(そ)の正(せい)を順受(じゅんじゅ)すべし。是(こ)の故(ゆえ)に命(めい)を知(し)る者(もの)は、巖牆(がんしょう)(※)の下(もと)に立(た)たず。其(そ)の道(みち)を尽(つ)くして死(し)する者(もの)は、正命(せいめい)(※)なり。桎梏(しっこく)(※)して死(し)する者(もの)は、正命(せいめい)に非(あら)ざるなり。

(※)巖牆……危ない岩石や壊れかけた土べい。
(※)正命……正しい天命。なお、朱子は、吉凶禍福に招いたものでなく、自然に来るものを正命と述べている。『論語』では、子夏の言葉として「死(し)生(せい)、命(めい)有(あ)り」とある(顔淵第十二)。孔子に教わった言葉だと思われるが、孔子の真意は、ここで孟子が述べているように、「自分の歩むべき道を、十分尽くして死ぬなら、それは正しい天命というべきものである」というものであったろう。努力も養生もしないで、死ぬことは、天命とは言わないのである。
(※)桎梏……刑罰を受ける。「桎」は足かせ、「梏」は手かせ。

【原文】
孟子曰、莫非命也、順受其正、是故知命者、不立乎巖牆之下、盡其道而死者、正命也、桎梏死者、非正命也。

3‐1 求めれば得られるもの

【現代語訳】
孟子は言った。「求める努力をすれば得ることができるが、努力しないで放っておくと、手に入らないものがある。こういうものは、求め努力することが(得るために)役に立つことなのである。これは、求めるものが自分の本性にあるもの(仁、義、礼、智などのいわゆる天爵)だからである。これに反して、求めるには、それ相応の手段や方法が必要であり、またそれを手に入れることができるかどうかは運命による、というものがある。こういうものは、求めて努力しても必ず得られるとは限らないので、求めることは得るための役にはあまり立たない。これは求めるもの(富貴、栄誉などいわゆる人爵)が、自分の外にあるものだからである」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、求(もと)むれば則(すなわ)ち之(これ)を得(え)、舎(す)つれば則(すなわ)ち之(これ)を失(うしな)う。是(こ)れ求(もと)むること得(う)るに益(えき)有(あ)るなり。我(われ)に在(あ)る者(もの)を求(もと)むればなり。之(これ)を求(もと)むるに道(みち)(※)有(あ)り。之(これ)を得(う)るに命(めい)有(あ)り。是(こ)れ求(もと)むること得(う)るに益(えき)無(な)きなり。外(ほか)に在(あ)る者(もの)を求(もと)むればなり。

(※)道……それ相応の手段や方法。筋道。これに対し朱子は、「みだりに求むべからざるを言う」とする。現代アメリカで発達したいわゆる「成功法則」もすばらしいものがあるが、ここでの孟子の説も格調高いものがある。

【原文】
孟子曰、求則得之、舍則失之、是求有益於得也、求在我者也、求之有道、得之有命、是求無益於得也、求在外者也。


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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