第160回
391〜392話
2021.11.12更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
「目次」はこちら
45‐1 親・仁・愛の違い
【現代語訳】
孟子は言った。「君子は禽獣草木のようなものに対しては愛するけれども、仁するということはない(愛憐するが、時と場合によっても必要な限度で殺したり、伐ったり、刈ったりしなくてはならないため)。また、民(つまり、親族でない普通の人々)に対しては、仁の心を持つけれども親族でないので、礼儀をわきまえる(親しむことはない)。(親・仁・愛は対象によって異なるので)まず、人は親族を親しみ、それを推し及ぼして人々を仁し、人々を仁して後にものを愛するのである」。
【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、君子(くんし)の物(もの)に於(お)けるや、之(これ)を愛(あい)すれども仁(じん)せず。民(たみ)に於(お)けるや、之(これ)を仁(じん)すれども親(した)しまず。親(しん)を親(した)しみて民(たみ)を仁(じん)し、民(たみ)を仁(じん)して物(もの)を愛(あい)す。
【原文】
孟子曰、君子之於物也、愛之而弗仁、於民也、仁之而弗親、親親而仁民、仁民而愛物。
46‐1 世の中には急いでやるべきことがある。それを間違えない
【現代語訳】
孟子が言った。「知者は何でも知らないことはないのであるが、自分に求められる急務から深く知ろうとするので、まだ知らないこともあろう。仁者は何でも愛さないものはないのであるが、賢者を親しみ愛することを自分の急務とするから、まだ愛の及ばないところもあろう。堯・舜のような智者でも、すべての物にあまねく行き渡らなかったのは、先にすべき務めを急としたからである。堯・舜のような仁者でも、すべての人をあまねく愛することができなかったのは、賢者を親しみ愛することを急務としたからである。ところが、最も大事な三年の喪を行うこともできずに、緦麻(三ヵ月の喪)や小功(五ヵ月の喪)をどうのこうのと論じてみたり、自分は大飯をがつがつ食らい、大口を開けて吸い物を流し込むなどの無作法をしながら、他人に干し肉を歯でかみきるような小さな無作法をしないようにやかましく言ったりする。こういうのを、何が先にすべき本務なのかを知らない者というのである」。
【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、智者(ちしゃ)は知(し)らざること無(な)きなり。当(まさ)に務(つと)むべきを之(これ)急(きゅう)と為(な)す。仁者(じんしゃ)は愛(あい)せざること無(な)きなり。賢(けん)を親(した)しむを急(きゅう)にするを之(これ)務(つと)めと為(な)す。堯(ぎょう)・舜(しゅん)の知(ち)にして物(もの)に徧(あまね)からざるは、先務(せんむ)を急(きゅう)にすればなり。堯(ぎょう)・舜(しゅん)の仁(じん)にして人(ひと)を愛(あい)するに徧(あまね)からざるは、賢(けん)を親(した)しむを急(きゅう)にすればなり。三年(さんねん)の喪(も)を能(よ)くせずして、緦(し)・小功(しょうこう)(※)を之(これ)察(さっ)し、放(ほう)飯(はん)(※)流歠(りゅうせつ)(※)して、歯決(しけつ)(※)すること無(な)きを問(と)う(※)、是(これ)を之(これ)務(つと)めを知(し)らずと謂(い)う。
(※)緦・小功……いずれも喪服であって、緦は三ヵ月、小功は五ヵ月の喪服。
(※)放飯……大飯をがつがつ食らう。
(※)流歠……大口を開けて吸い物を流し込む。
(※)歯決……干し肉を歯で噛み切る。
(※)問う……ここでは、やかましく言うこと。責めること。
【原文】
孟子曰、知者無不知也、當務之爲急、仁者無不愛也、急親賢之爲務、堯・舜之知而不徧物、急先務也、堯・舜之仁不徧愛人、急親賢也、不能三年之喪、而緦・小功之察、放飯流歠、而問無齒決、是之謂不知務。
【単行本好評発売中!】
この本を購入する
感想を書く