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第1回

「やることにがっかり」な妖怪図鑑:【赤殿中】【がんばり入道】

2021.06.30更新

読了時間

  「妖怪は怖い」だけじゃない! 古くから語り継がれてきた妖怪たちの「弱いところ」「人間臭いところ」「ダメなところ」を楽しく学べる本『がっかり妖怪大図鑑』刊行を記念して、全5回にわたってゆかいで楽しい妖怪を紹介します。
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妖怪のふるまいは、ときに意味不明で、こっけいにしか見えないことがあります。
どうしてそんなことをするのか、本当にがっかりです
2章「やることにがっかり」より、2体を紹介します。

かわいいイタズラしかしない
【赤殿中(あかでんちゅう)】


  イラスト:今井美保


 四国の徳島県は、化け狸がたくさんいることで知られています。どれだけいるのか、正確な数は不明ですが、数百匹はいるようです。
 そして、徳島県の化け狸には、ふつうサイズの狸である本狸と、小さな体をした豆狸の、二種類がいるといわれます。
 体の大きさがちがうだけで、化け狸の能力は変わりませんし、人間へのイタズラはどちらも大好きです。ただ、徳島県の豆狸の場合は、あまり害のない、たわいのないイタズラがほとんどなのです。
 たとえば、鳴門市には、赤殿中という豆狸がいます。
 赤い殿中羽織を着た子どもに化けるのがとくいで、夜道を歩く人がいると、「おんぶして」と、声をかけます。無視をすると、しつこくまとわりついて、とても迷惑なのですが、おんぶをしてあげると、赤殿中はうれしそうにはしゃいで、その人の肩を軽くたたくのでした。
 赤殿中がするイタズラは、これだけなのです。
 こんなかわいらしいイタズラなら、思わずおんぶをしてあげたくなりますね。

【がっかりポイント】
化け狸なのに、カワイすぎるところにがっかり!

【データ】
出没地域:徳島県鳴門市大麻町大谷
出現時代:昭和のはじめくらいまで?
参考資料:『阿波の狸の話』
メモ:殿中羽織は、そでのない羽織で、ちゃんちゃんこのような着物のことです。西日本では“でんち”の名前で知られています。

 

頭が小判に変化!
【がんばり入道】

 



  イラスト:しげおか秀満


 がんばり入道は、トイレにひそむ妖怪です。その姿は、鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』に、トイレの窓をのぞく、腰から下が幽霊のような入道として描かれています。
 エッチな妖怪のように思われがちですが、そうではありません。がんばり入道は、トイレに近づくお化けを、おいはらう妖怪のようなのです。
 なぜなら、大晦日の夜、トイレで「がんばり入道、ホトトギス」と唱えると、翌年はトイレにお化けが出ないといわれているからです。がんばり入道は、ほかのお化けがいないか、つねにトイレを見張っているといえるでしょう。
 でもそこは妖怪、あやしい話もあります。松浦静山の『甲子夜話』という本によれば、大晦日の丑三つ時に、がんばり入道の名前を唱えると、便器の下から入道の頭だけが出てくるというのです。さらに、その頭を着物の左袖に入れ、ふたたび取り出すと、頭は小判になっているというから、おどろかずにはいられません。
 がんばり入道は、こわいのかありがたいのか、よく分からない妖怪といえますね。


【がっかりポイント】
トイレの見張り役とはいえ、気持ち悪い感じにがっかり!

【データ】
出没地域:日本各地?
出現時代:江戸時代ごろ?
参考資料:『江戸文学俗信辞典』
メモ:昔のトイレは汲み取り式です。便器の下には穴があり、その下には排泄物をためておくタンクがありました。



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著者

村上 健司

1968年、東京都生まれ。 全国の妖怪伝説地を訪ね歩くライター。 世界妖怪協会会員、お化け友の会世話役、古典遊戯研究会紙舞会員。 著書多数。

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