第6回
12〜14話
2021.03.29更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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4‐1 政治が悪くて民を死に至らせるのは殺人と同じだ
【現代語訳】
梁の恵王が言った。「できることなら、私は心を落ちつけ心静かに先生の教えを受けたいものだ」。孟子は答えて言った。「では、質問しますが、人を殺すのに棒でなぐり殺すのと、刃で斬り殺すのと違いはあるでしょうか」。恵王が言った。「殺すことに変わりはなく違いはない」。さらに孟子は聞いた。「それでは、刃で斬り殺すのと、政治が悪くて民を死に至らせるのと違いはあるでしょうか」。恵王は答えた。「それも、人を殺すことにおいて違いはない」。
【読み下し文】
梁(りょう)の恵王(けいおう)曰(いわ)く、寡人(かじん)願(ねが)わくは安(やす)んじて(※)教(おし)えを承(う)けん。孟子(もうし)対(こた)えて曰(いわ)く、人(ひと)を殺(ころ)すに梃(てい)(※)を以(もっ)てすると刃(やいば)と、以(もっ)て異(こと)なる有(あ)るか。曰(いわ)く、以(もっ)て異(こと)なる無(な)なきなり。刃(やいば)を以(もっ)てすると政(まつりごと)と、以(もっ)て異(こと)なる有(あ)るか。曰(いわ)く、以(もっ)て異(こと)なる無(な)きなり。
(※)安んじて……心を落ちつけ、心静かに。
(※)梃……棒。杖(つえ)。
【原文】
梁惠王曰、寡人願安承敎、孟子對曰、殺人以梃與刄、有以異乎、曰、無以異也、以刄與政、有以異乎、曰、無以異也、
4‐2 王は民の父母である
【現代語訳】
〈前項から続いて〉。孟子は続けた。「王の調理場には肥えた肉があり、うまやには肥えた馬がつながれています。しかるに民は飢えている様子がありありで、野には飢えてたおれ死んだ者がいます。これは獣をひきいて人間を食わしているようなものです。獣どうしが共食いをするのでさえ、人は憎むものです。ましてや、民の父母ともいうべき王が政治を行いながら、獣を率いて人を食わせているようなことではいけません。それで、どうして民の父母などといえるでしょうか」。
【読み下し文】
曰(いわ)く、庖(ほう)(※)に肥肉(ひにく)有(あ)り、庖(きゅう)(※)に肥馬(ひば)有(あ)り。民(たみ)に飢食(きしょく)有(あ)り、野(の)に餓莩(がひょう)(※)有(あ)り。此(こ)れ獣(けもの)を率(ひき)いて人(ひと)を食(は)ましむるなり。獣(けもの)相(あい)食(は)むすら、且(か)つ(※)人(ひと)之(これ)を悪(にく)む。民(たみ)の父母(ふぼ)と為(な)りて政(まつりごと)を行(おこな)い(※)、獣(けもの)を率(ひき)いて人(ひと)を食(は)ましむるを免(まぬが)れず。悪(いずく)んぞ其(そ)の民(たみ)の父母(ふぼ)たるに在(あ)らんや。
(※)庖……調理場。台所。
(※)庖……うまや。なお、日本でも典庖(てんきゅう)という馬寮の長官を務める官職があった。「典庖九十九ヵ条(江戸時代の武士がよく学んだ)」で名高い武田信玄の弟・武田信繁は左馬助という官職名から典厩様と呼ばれた。
(※)餓莩……飢えて倒れ、死んだ者。餓死者。
(※)且つ……それさえも。
(※)政を行い……政治を行う。具体的な政策を実施する。なお、原文の「行政」は、現在日本語で使われている「行政」の出典とも見られている。
【原文】
曰、庖有肥肉、廏有肥馬、民有飢色、野有餓莩、此率獸而食人也、獸相食、且人惡之、爲民父母行政、不免於率獸而食人、惡在其爲民父母也、
4‐3 王が民を餓死させるようでは話にならない
【現代語訳】
〈前項から続いて〉。「孔子が言われた。『最初に俑(木の人形)をつくって死人と一緒に埋めることを考えた人は、その子孫が絶えてしまうことになろう』と。人間そっくりのものをつくって埋めることには、残酷な心があると見えるからです。ましてや、生きている民を飢えて死なせるようなことがあってはなりません」。
【読み下し文】
仲尼(ちゅうじ)(※)曰(いわ)く、始(はじ)めて俑(よう)(※)を作(つく)る者(もの)は、其(そ)れ後(のち)無(な)からんか、と。其(そ)の人(ひと)に象(かたど)りて之(これ)を用(もち)うるが為(ため)なり。之(これ)を如何(いかん)ぞ、其(そ)れ斯(こ)の民(たみ)をして飢(う)えて死(し)なしめんや。
(※)仲尼……孔子の字。『論語』に次のような箇所がある。「衛(えい)の公孫朝(こうそんちょう)、子貢(しこう)に問(と)うて曰(いわ)く、仲尼(ちゅうじ)は焉(いずく)にか学(まな)べる」(子張第十九)。
(※)俑……木の人形。俑としては秦の始皇帝のいわゆる「兵馬俑」が有名。なお、孔子が言ったのは、俑(ひとがた)を埋める風習がそのうちに人自体を埋める〝殉死〟の悪習を生むことになるという危惧であると解する説もある。
【原文】
仲尼曰、始作俑者、其無後乎、爲其象人而用之也、如之何、其使斯民飢而死也、
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