第148回
355〜357話
2021.10.26更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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10‐1 豪傑の士は自ら発奮して自ら行動を起こす
【現代語訳】
孟子は言った。「(周の)文王のような聖王の興こった後にその影響を受けて発奮、行動する者は、まだ凡傭な人である。かの豪傑の士(本当に才智のある者)とされる人は、文王のような人が出ないときでも、自ら発奮して起き上がるものである」。
【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、文王(ぶんおう)を待(ま)ちて而(しか)る後(のち)に興(おこ)る者(もの)は、凡民(ぼんみん)なり。夫(か)の豪傑(ごうけつ)の士(し)(※)の若(ごと)きは、文王(ぶんおう)無(な)しと雖(いえど)も猶(な)お興(おこ)る。
(※)豪傑の士……滕文公(上)第四章八に陳良のことを「豪傑の士」と呼んでいる。孟子は、昔の聖王たちを重んじ学ぶが、自らも豪傑の士としての、気概を持って、発奮、行動しようとの思いがよく伝わってくる文章である。
【原文】
孟子曰、待文王而興者、凡民也、若夫豪傑之士、雖無文王猶興。
11‐1 お金は大事だけれども、もっと大事なことがあるとわかっておく
【現代語訳】
孟子は言った。「すでにある程度の(並の)富や財産があって、それに韓氏や魏氏のような大金持ち(大資産家)の富をつけ加えたとしても、そういうことに価値があるとは思わず、満足することもなく、それよりも自分は道に欠けるところがないだろうかということに心が向く人は、はるかに人並み以上の人である」。
【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、之(これ)に附(ふ)するに韓(かん)・魏(ぎ)の家(いえ)(※)を以(もっ)てするも、如(も)し其(そ)の自(みずか)ら視(み)ること欿然(かんぜん)(※)たらば、則(すなわ)ち人(ひと)に過(す)ぐること遠(とお)し。
(※)韓・魏の家……韓氏・魏氏は、もともと晋の六卿中の二卿であったが、その後独立して国を建てている。当時の富豪の代名詞でもあったようである。梁の恵王は、この魏氏の子孫である(梁恵王(上)第一章一、五章一参照)。
(※)欿然……道に欠けるところがないだろうかということに心が向いて、満足しないさま。自らかえりみて、満足しない様。自らかえりみて、満足しない様。なお、ずっと後の世に同じようなことを、イギリスのアダム・スミスが言っていて面白い(『道徳感情論』岩波文庫参照)。
【原文】
孟子曰、附之以韓・魏之家、如其自視欿然、則過人遠矣。
12‐1 人は正しい事業のための苦労であれば、うらまないものである
【現代語訳】
孟子は言った。「民の生活をよくしていこうとする事業に、民を使役させても、民はたとえ苦労はしても怨むものではない。民の生命を守ることを目的として、ある人を死刑にしなくてはならなかった場合、民は殺す者を怨むようなことはない」。
【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、佚道(いつどう)(※)を以(もっ)て民(たみ)を使(つか)えば、労(ろう)すと雖(いえど)も怨(うら)みず。生道(せいどう)(※)を以(もっ)て民(たみ)を殺(ころ)せば、死(し)すと雖(いえど)も殺(ころ)す者(もの)を怨(うら)みず。
(※)佚道……民の生活を良くしていこうとする事業。例えば、道路、堤防、架橋の工事や河川の修理など。なお、『論語』の曰第二十に、孔子が子張に問われ、こう答えるところがある。「労(ろう)すべきを択(えら)びて之(これ)を労(ろう)す。又(また)誰(だれ)をか怨(うら)まん」。
(※)生道……民の生命を守ることを目的とする道。
【原文】
孟子曰、以佚道使民、雖勞不怨、以生道殺民、雖死不怨殺者。
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