第164回
402〜404話
2021.11.18更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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10‐1 利と徳に用意周到でありたい
【現代語訳】
孟子は言った。「利によく通じていて用意周到な者は、いかに凶年であっても、これを殺すことはできない。徳によく通じていて普段から修養して人間ができている人は、世の中がよこしまで乱れていても、これを乱すことはできない」。
【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、利(り)に周(あまね)き(※)者(もの)は、凶年(きょうねん)も殺(ころ)すこと能(あた)わず。徳(とく)に周(あまね)き者(もの)は、邪世(じゃせい)も乱(みだ)すこと能(あた)わず。
(※)周き……よく通じている。あまねく通じている。十分に満ち足りる。なお、吉田松陰は、「一句(いっく)は治国(ちこく)の要(よう)、一句(いっく)は修身(しゅうしん)の効(こう)」であるとする(『講孟箚記』)。孟子自身は、徳のことを述べるために利について述べたのかもしれないが、松陰が言うように、両方が重要なことである。佐藤一斎に言わせると「予楽」(梁恵王(下)第四章二の注釈参照)で、健康にも周き者は病にも負けないとなるだろう。
【原文】
孟子曰、周于利者、凶年不能殺、周于德者、邪世不能亂。
11‐1 名を重んずることも大事
【現代語訳】
孟子は言った。「名を大事に思い、名誉を好む人というのは、たとえ千乗の国(大国)でも他人に譲ることがある。いやしくも、それだけの人物でないと、一杯の飯や一椀の汁のようなほんのわずかな物でも、欲しがって顔に出てしまうものである」。
【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、名(な)を好(この)むの人(ひと)(※)は、能(よ)く千乗(せんじょう)の国(くに)を譲(ゆず)る。苟(いやしく)も其(そ)の人(ひと)に非(あら)ざれば、簞食(たんし)豆羮(とうこう)も色(いろ)に見(あら)わる。
(※)名を好む人……名を大事に思い、名誉を好む人。本章の解釈では、ここの「名を好む人」を肯定的にとらえた。続きの文章を含めて素直に読むとそうなるのではないかと考える。これに対し、名誉を好む人は、千乗の国でも譲ることがあるが、真に無欲な人でないと、一杯の飯や一椀の汁などのちょっとした物にもその欲が出てしまうものである(つい、本心が出てしまう)と解する説もある。朱子をはじめとして、こちらのほうが多いかもしれない。吉田松陰もそのようである。
【原文】
孟子曰、好名之人、能讓千乘之國、苟非其人、簞食豆羹見於色。
12‐1 仁者・賢者を登用しなければならない
【現代語訳】
孟子は言った。「仁者・賢者を信じ、登用しなければ、国に人材がいなくなり、その国は空虚となる。また、礼儀というのがなくなると、上下の区別や秩序というものがなくなり、世の中は混乱する。政治や政策がないも同然だと、国の財政は不足することになる」。
【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、仁(じん)賢(けん)を信(しん)ぜざれば、則(すなわ)ち国(くに)空虚(くうきょ)なり。礼義(れいぎ)無(な)ければ、則(すなわ)ち上下(じょうげ)乱(みだ)る。政事(せいじ)無(な)ければ、則(すなわ)ち財(ざい)用(よう)足(た)らず。
【原文】
孟子曰、不信仁賢、則國空虚、無禮義、則上下亂、無政事、則財用不足。
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