第37回
88〜89話
2021.05.17更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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5‐1 税を少なくし、民のことに配慮した政治をする
【現代語訳】
孟子は言った。「(君主が)賢者を尊重し、有能な人を使い、こうした俊傑たちがそれ相応の地位に就いて政治をすることになれば、天下の人材は、皆喜んで、この朝廷で仕事をしたいと願うであろう。市場では、店の税は取っても商品の税を取らない、あるいは市場の取り締まりの法令のみをつくって、店の税も取らないようにすれば、天下の商人は皆喜んでこのような市場に商品を置いて取り引きしたいと願うだろう。関所では、人や物の検査をするだけで、関税、通行税などを取らないようにすれば、天下の旅人は皆喜んで、そのよう道を通りたいと願うだろう。農民には、(井田法により)公田からの収穫を税金とし、私田からは税を取らないようにすれば、天下の農民は皆喜んで、このような国で、農地を耕したいと願うだろう。住宅については、特別の付加税を取らなければ、天下の民は皆喜んで、その国の住民となりたいと願って移住してくることだろう」。
【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、賢(けん)を尊(たっと)び能(のう)を使(つか)い、俊傑(しゅんけつ)位(くらい)に在(あ)れば、則(すなわ)ち天下(てんか)の士(し)、皆(みな)悦(よろこ)びて其(そ)の朝(ちょう)に立(た)たんことを願(ねが)わん。市(し)は廛(てん)して征(せい)せず(※)、法(ほう)して廛(てん)せざれば、則(すなわ)ち天下(てんか)の商(しょう)、皆(みな)悦(よろこ)びて其(そ)の市(し)に蔵(ぞう)せんことを願(ねが)わん。関(かん)は譏(き)して(※)征(せい)せざれば、則(すなわ)ち天下(てんか)の旅(りょ)、皆(みな)悦(よろこ)びて其(そ)の路(みち)に出(い)でんことを願(ねが)わん。耕(たがや)す者(もの)は助(じょ)して(※)税(ぜい)せざれば、則(すなわ)ち天下(てんか)の農(のう)、皆(みな)悦(よろこ)びて其(そ)の野(や)に耕(たがや)さんことを願(ねが)わん。廛(てん)に夫里(ふり)の布(ふ)(※)無(な)ければ、則(すなわ)ち天下(てんか)の民(たみ)、皆悦(みなよろこ)びて之(これ)が氓(たみ)(※)と為(な)らんことを願(ねが)わん。
(※)廛して征せず……店の税は取るが、商品の税は取らない。「廛」には、店舗と住宅の意味があり、ここでは店舗の意であり、後に出てくる廛は住宅の意味である。
(※)譏して……人や物の検査をして。
(※)助して……周代の助法でもって。すなわち周代の井田法は、一井九百畝を百畝ずつに分けて、まわりの八百畝を八家族が私田として耕し、まんなかの百畝を公田とし八家で耕し、その収穫を税として納めたとされる。畝については梁恵王(上)第三章四参照。
(※)夫里の布……特別の付加税。夫布と里布(特別の人夫税と地税)を特別の付加税として全面的に取っていたとされる。
(※)氓……他地域から流れてくる民、移民。
【原文】
孟子曰、尊賢使能、俊傑在位、則天下之士、皆悦而願立於其朝矣、市廛而不征、法而不廛、則天下之商、皆悦而願藏於其市矣、關譏而不征、則天下之旅、皆悦而願出於其路矣、耕者助而不税、則天下之農、皆悦而願耕於其野矣、廛無夫里之布、則天下之民、皆悦而願爲之氓矣。
5‐2 天下に敵なしの「天吏」を目指す
【現代語訳】
〈前項から続いて孟子は言った〉。「本当によく、この五つのことを実行したならば、隣国の民も、その君主を仰ぐことは、まるで自分たちの父母を仰ぐようなものとなろう。となると隣国の民は子弟のようなものとなり、その子弟を率いて、子弟たちの父母を攻めるなどということは、人間始まって以来、成功したことがないのである。このようになると、その君主には天下に敵などいないことになる。天下に敵がいない君主は、天吏(天命を行う役人)というべきものである。こうなった君主が王者とならないことなど、昔から今までに決してなかったことである」。
【読み下し文】
信(しん)に(※)能(よ)く此(こ)の五者(ごしゃ)を行(おこな)わば、則(すなわ)ち隣国(りんごく)の民(たみ)、之(これ)を仰(あお)ぐこと父母(ふぼ)の若(ごと)くならん。其(そ)の子弟(してい)を率(ひき)いて、其(そ)の父母(ふぼ)を攻(せ)むるは、生民(せいみん)ありてより以来(いらい)、未(いま)だ能(よ)く済(な)す者(もの)有(あ)らざるなり。此(かく)の如(ごと)くんば、則(すなわ)ち天下(てんか)に敵(てき)無(な)し。天下(てんか)に敵(てき)無(な)き者(もの)は、天吏(てんり)なり。然(しか)り而(しこう)して王(おう)たらざる者(もの)は、未(いま)だ之(こ)れ有(あ)らざるなり。
(※)信に……本当によく。誠に。「信」を「まこと」と読む場合も多い。
【原文】
信能行此五者、則隣國之民、仰之若父母矣、率其子弟、攻其父母、自有生民以來、未有能濟者也、如此、則無敵於天下、無敵於天下者、天吏也、然而不王者、未之有也。
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