Facebook
Twitter
RSS

第83回

197〜199話

2021.07.21更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
「目次」はこちら

20‐1 トップを良くしていくには立派な重臣が必要である


【現代語訳】
孟子は言った。「小人(つまらない連中)が高位にいても、そんなことは気にしなくてよいし、彼らを責めるなど取るに足らないことである。彼らの政策が悪いと非難するにも及ばない(それらは枝葉末節のことである)。ただ、大徳を持つ立派な人だけが、君主の過ちの心を正していけるのである。君が仁となれば一国中が(感化されて)仁となっていき、君が義であれば、一国中が義となっていき、君が正しければ、一国中が正しくなっていく。このように、大徳の人が一たび君を正しくすれば国は正しく安定していくものである」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、人(ひと)(※)は与(とも)に適(せ)むる(※)に足(た)らざるなり。政(まつりごと)は間(かん)する(※)に足(た)らざるなり。惟(ただ)大人(たいじん)のみ能(よ)く君(きみ)の心(こころ)の非(ひ)を格(ただ)す(※)ことを為(な)す。君(きみ)仁(じん)なれば仁(じん)ならざること莫(な)く、君(きみ)義(ぎ)なれば義(ぎ)ならざること莫(な)く、君(きみ)正(ただ)しければ正(ただ)しからざること莫(な)し。一(ひと)たび君(きみ)を正(ただ)しくして而(しか)して国(くに)定(さだ)まる。

(※)人……ここでは小人(つまらない連中)を指す。
(※)適むる……ここでは責めること。
(※)間する……ここでは批難すること。
(※)格す……正す。なお、『大学』に「知(ち)を致(いた)すは物(もの)に格(いた)るに在(あ)り」とある。「格」は「いた(る)」とも読む。『大学』のここの部分の解釈は難しいところがあるが、一応次のように解しておく。「知能を極めていくには、ものごとを正しく確かめることが必要である」。後に王陽明は、ここの解釈をするなかで、孟子の「格」の使い方を参考にしている。だからか、「格」はやはり「ただ(す)」と読ませているようだ。ものごとを正しく確かめていくことは、正しい政治をしていくことになると思う。本章の孟子の考え方を、「少々観念的にすぎないか」との批判もある。孔子以来政治は一人一人、自分自身をただし、身のまわりを良くしていくことで、良くなるとの儒教の考え方(いわゆる修己治人)がある。孟子自身「天下(てんか)の本(もと)は国(くに)に在(あ)り。国(くに)の本(もと)は家(いえ)に在(あ)り。家(いえ)の本(もと)は身(み)に在(あ)り」と強く言っている(離婁(上)第五章)。現代の政治においても、国民一人一人のレベルがその国の政治のレベルになるともいわれ、これは儒教の考えと結論において似てくる。一方で、ここで孟子が論じているように組織は、トップの善し悪しで決まるところがあるという現実もある。国とまでいかなくても、小さな会社、小さな組織にいればよくわかることだ。孟子はこの現実にも着目し、その君を変えるほどの大徳の人(大人)がいて、君を格す(正す)ことで、国は良くなる、王道政治をできるようになると考えたのであろう。その大徳の人は自分のような人との自負もあったろう。本章を読むと、孟子自身の現実を見ての悲哀の気持ちがよく表れている気がする。

【原文】
孟子曰、人不足與適也、政不足閒也、惟大人爲能格君心之非、君仁莫不仁、君義莫不義、君正莫不正、一正君而國定矣。

 

21‐1 世間の評価、評判はあてにならない


【現代語訳】
孟子は言った。「(世の中は思い通りになるものではないので)思ってもいない名誉、評判を得ることがある。かと思うと、どれだけがんばって完璧を求めてたようでいても、非難、批判されることがある(世間の評価、評判ほどあてにならないものはない)」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、虞(おもんぱか)らざるの誉(ほま)れ有(あ)り。全(まった)きを求(もと)むるの毀(そし)り有(あ)り。

【原文】
孟子曰、有不虞之譽、有求全之毀。

 

22‐1 責任感のない(やるつもりがない)人の意見は意味がない


【現代語訳】
孟子は言った。「その人がよく考えもしないで立派な意見をべらべらと話すのは、その人に責任感がないからだ」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、人(ひと)の其(そ)の言(げん)を易(やす)くするは、責(せ)め無(な)き(※)のみ。

(※)責め無き……責任感がない。なお、『論語』にもこれについての言葉は多い。例えば、「君子(くんし)は言(げん)に訥(とつ)にして、行(おこな)いに敏(びん)ならんことを欲(ほっ)す」(里仁第四)とか「子(し)曰(いわ)く、巧言(こうげん)令色(れいしょく)には鮮(すくな)し仁(じん)」とかである。吉田松陰は、この「責め無き」を「自(みずか)ら責(せめ)とし自(みずか)ら任(にん)とする所(ところ)なきなり」つまり、実行しようという決心がないと解している(『講孟箚記』)。

【原文】
孟子曰、人之易其言也、無責耳矣。

【単行本好評発売中!】 
この本を購入する

「目次」はこちら

シェア

Share

感想を書く感想を書く

※コメントは承認制となっておりますので、反映されるまでに時間がかかります。

著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

矢印