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第146回

349〜351話

2021.10.22更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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4‐1 学問は努力して真心と人を思いやることで始まっていく

【現代語訳】
孟子は言った。「万物の道理(すべての善性)はすべて自分に備わっている。我が身を反省して、誠に欠けるところがない(道理に合った正しい行いをしている)ならば、人生これより大きな喜びはない。また、まだそこまでに至っていない人であっても、大いに努力、勉強して、真心と思いやりを他人に推し及ぼしていけば、それが仁に近づく一番近い方法となる」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、万物(ばんぶつ)皆(みな)我(われ)に備(そな)わる。身(み)に反(はん)して誠(まこと)なれば、楽(たの)しみ焉(これ)より大(だい)なるは莫(な)し。強恕(きょうじょ)(※)して行(おこな)う、仁(じん)を求(もと)むること焉(これ)より近(ちか)きは莫(な)し。

(※)強恕……大いに努力、勉強して、真心と思いやりを他人に推し及ぼしていくこと。吉田松陰は、「大儀なることを勉強してすると、人の情を思いやりて己の行いをすることにより学問は始まる」として、これが孟子のいう「強恕」の道なのであるとする(『講孟箚記』)。なお、本章の解釈においては、離婁(上)第十二章を参考にしたい。そこでは、「誠(まこと)は、天(てん)の道(みち)なり。誠(まこと)を思(おも)うは、人(ひと)の道(みち)なり」とし、「至誠(しせい)にして動(うご)かざる者(もの)は、未(いま)だ之(これ)有(あ)らざるなり。誠(まこと)ならずして、未(いま)だ能(よ)く動(うご)かす者(もの)は有(あ)らざるなり」と述べる。本当の学問、勉強は、このためにするのだということをよくわからせてくれる。前章に続き、まことに格調の高い文章である。

【原文】
孟子曰、萬物皆備於我矣、反身而誠、樂莫大焉、強恕而行、求仁莫近焉。

5‐1 道理の根本を学ぶ意味

【現代語訳】
孟子は言った。「実際の行いは、立派にできているものの、なぜ良いことをするべきなのかという道理はよくわからないでいる。実際に行うべきことは何度も習っていても、その道理については詳しく理解していない。一生涯、道によって生きてはいるけれども、その道の本当のことを知らない。このような人は多いものだ」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、之(これ)を行(おこの)うて而(しか)も著(あきら)かならず、習(なろ)うて而(しか)も察(つまび)らかならず(※)、終身(しゅうしん)之(これ)に由(よ)りて、而(しか)も其(そ)の道(みち)を知(し)らざる者(もの)、衆(おお)きなり(※)。

(※)察らかならず……詳しく理解していない。「さっ(せず)」とも読む。離婁(下)第十九章参照。
(※)衆きなり……(人が)多い。なお、吉田松陰は、学問せず思弁せざれば(根本をよく学んで思索しわかっていないと)天下の大乱、人倫の至変(人生上の大きな倫理問題)、忠孝の大関係(大問題)などが起きたときに、判断を間違える恐れがあると指摘している(『講孟箚記』)。

【原文】
孟子曰、行之而不著焉、習矣而不察焉、終身由之、而不知其道者、衆也。

6‐1 恥を知れ

【現代語訳】
孟子言った。「人は恥じる心がなければならない。恥じることがないと思っているのが恥なのであり、そのように考えられれば、(自然と)恥をかかないように生きられる」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、人(ひと)は以(もっ)て恥(は)ずること無(な)かるべからず。恥(は)ずること無(な)きを之(これ)恥(は)ずれば(※)、恥(はじ)無(な)し。

(※)恥ずること無きを之恥ずれば……恥じることがないと思っているのが恥なのであり、そのように考えられれば。なお、この孟子の「恥」の考え方は、日本人、特に武士道で大切にされたのに対し、中国ではそうでもなかった。例えば、自分の利益になれば、噓をつくことも平気である傾向にあるのが中国人である。これに対し、日本人は噓をつくことは自分の利益になることでも噓をつくことは恥となるのである。日本文化を「恥の文化」というのに対し、中国人は「面子を重んじる」といわれていることが多い。「面子を重んじる」とは、自分の優位を否定されてしまうことである。つまり、利益・不利益に結びつくもので、面子をつぶされることは、力のなさや不利益となることを意味している。一方の日本人の「恥」は、世間への尊厳性を否定されたり、不道徳とされていることを認定されることで、利益とは直接結びつくものではない。新渡戸稲造の『武士道』では次のように述べられている。「廉恥心(恥と思う心)は少年教育において大事にされる徳の一つであった。『笑われるぞ』『体面を汚すな』『恥ずかしくないのか』などは、過ちを犯した少年に対して正しい行動を求める最後の訴えであった」(野中訳)。

【原文】
孟子曰、人不可以無恥、無恥之恥、無恥矣。


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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