第44回
解説(4)
2018.03.16更新
【 この連載は… 】 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孫子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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四、孫子を実践して生きる
以上のように私は、孫子を読むたびに感銘している。読めば読むほど、その深い知恵に教えられる。
私の感銘する教えを七つにまとめてみると、以下のようなものになる。
- (1)戦争は、できるだけ避け、戦争の手段ではなく、外交、人間関係、経済の繁栄を強化して解決していくことを優先する。
- (2)国と国民、特に一般大衆への愛情を持つ(命と財産は最も大事とする)。また一般の兵士についても生命、財産を守ることを考える。
- (3)相手が攻めてこないことを念じているだけではだめで、相手が攻めてこないように力を蓄え、もし攻めてきても必ず勝てるように普段から備えておくことが大事である。
- (4)実際に戦争になっても、できるだけ味方のみならず敵も傷つけずに勝つことを考える。
- (5)戦いでは、詭道を用い、正と奇を駆使して必勝する。軍隊は法令を厳守することで強くなるものであり、兵の勢い、兵力の大きさで勝つようにすべきである。また、軍隊は兵士個人の力に依存するものではない。
- (6)相手のみならず、自分のことをよく知る。情報収集に怠りなく、判断は冷静、合理的に行う。
- (7)未来を明るく考え、子孫を繁栄させていくことを信じ、以上を全力で取り組む。
最後に私が孫子の中で特に好きな言葉を二つほど挙げておきたい(孫子は全文がすばらしいものではあるが)。
一つは、「将とは、智、信、仁、勇、厳なり」(第一章計篇)である。これは将軍のみならず私たち一般人の目指すべき人格のことを指すのであろう。私はそう思って自分にいい聞かせている。
もう一つは、やはり第一章計篇にある「将は聞かざること莫(な)きも、これを知るものは勝ち、知らざる者は勝たず」という言葉である。
いろいろなよいことを聞き、読み、知っているだけでは意味がない。自分なりによく理解し、納得し、現実に実践できる人のみが勝つし、うまくいくというものだ。
要するに孫子の兵法は字づらで知っているだけでは不十分なものであるから、よく自分の血肉にして、日々の実践に利用せよ、ということである。
そうすることで勝てる人(あるいはすべてがうまくいく人)、勝てる組織、勝てる国になれるのである。
私たちは、この教えのように何度も繰り返し孫子を読み、自分のものにしていくことで、この世のほとんどのことはうまくいく、よくなっていくに違いない。
長期間のご愛読ありがとうございました。
この孫子新訳によって、読者の皆様の人生が少しでも豊かになることをお祈りいたします。
(編集部)
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