第4回
「名前と姿にがっかり」な妖怪図鑑:【おしめ洗い幽霊】【どうもこうも】
2021.07.21更新
「妖怪は怖い」だけじゃない! 古くから語り継がれてきた妖怪たちの「弱いところ」「人間臭いところ」「ダメなところ」を楽しく学べる本『がっかり妖怪大図鑑』刊行を記念して、全5回にわたってゆかいで楽しい妖怪を紹介します。
「目次」はこちら
冗談みたいな名前や、おもしろおかしい姿の妖怪がいます。
最初からしゃれで作られたユニークな妖怪もいます。
いろいろがっかりです。
第7章「名前と姿にがっかり」より、2体を紹介します。
産女のなかまかも?
【おしめ洗い幽霊】
イラスト:今井美保
東京都大田区雪谷に、昔はおしめ地蔵という地蔵があったそうです。
なぜそんな地蔵があるのかといえば、そこにおしめ洗い幽霊が出たからなのでした。
夜道を歩いていると、とつぜん女の幽霊があらわれて、「おしめを洗え!」というのです。
資料には、ただ“出た”としかないので、ほかになにをする妖怪なのかよく分かりませんが、とにかく、そんな幽霊が出ただけでも、十分にこわかったことでしょう。
土地の人たちは、この女の幽霊をおしめ洗い幽霊とよんでおそれ、供養のために地蔵を建ててあげたのでした。
こんなきみょうな名前の幽霊ですが、どうやらこれは産女(84ページ)という妖怪のなかまだと思われます。
産女はお産で命を落とした母子の幽霊で、水辺や道ばたにあらわれては、道行く人に赤ん坊をだいてくれとたのむのです。
山口県萩市福栄には、赤ん坊を背負って、池でおしめを洗う産女の話がありますし、おしめ洗い幽霊=産女で、たぶんまちがいないでしょう。
【がっかりポイント】
おしめを人に洗わせる理由が分からなくてがっかり!
【データ】
出没地域:東京都大田区雪谷
出現時代:〜大正時代
参考資料:『佐野市史』民俗編
メモ:おしめは赤ん坊のおむつのことです。今のような使い捨てではなく、長い布だったので、洗濯をする必要がありました。
モデルは昔話の天才医者?
【どうもこうも】
イラスト:茶柱立太
どうもこうもは、江戸時代に作られた妖怪の絵巻物に、姿と名前だけが書かれている妖怪です。
一つの首に二つの頭がついた人の姿をしているのですが、これがなにをする妖怪なのかは、分かっていません。おそらく、ユニークな姿をしたキャラクターとして描かれただけだと思われます。
ただ、この妖怪と関係がありそうな、「どうもこうも」という昔話があるのです。 昔、童孟と孔孟という二人の天才医者がいて、あるときどちらが日本一の医者かをきそって、腕くらべをします。
まず、童孟が孔孟の首を切り落とし、みごとにつなげます。孔孟も、童孟の首を切って、もと通りにつなげます。
つぎに、おたがいの首を切り落とし、自分の首を先につないだ方が勝ちという勝負をはじめるのですが……。
同時に首を切り落としてしまったので、どちらも首をつなげることができず、どうにもこうにもならない結果に終わったという話です。
たぶん、妖怪のどうもこうもは、この昔話を題材にして描かれたものなのでしょう。
【がっかりポイント】
どうにもこうにもならない妖怪でがっかり!
【データ】
出没地域:絵巻物の妖怪
出現時代:不明
参考資料:『日本昔話通観』21 徳島・香川
メモ:どうもこうもは、尾田郷澄という人の『百鬼夜行絵巻』や、北斎季親という人の『化物尽絵巻』といった絵巻物に描かれています。
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