第10回
アーティスト・インタビュー vol.9 TORIENA
2017.05.11更新
【この連載は…】ゲーム機の内蔵音源チップから誕生した音楽ジャンル「チップチューン(Chiptune)」。その歴史を紐解く待望の書籍『チップチューンのすべて』(2017年5月11日発売)の一部を、全10回にわたってお届けします。
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連載第2回目以降からは、国内のチップチューン・シーンを支えるアーティストの方々へのインタビューを、書籍に先立ち一部公開していきます。チップチューンとの出会いや楽曲の制作秘話などに迫ります。
▼プロフィール
TORIENA(トリエナ)
1993年生まれ。京都を拠点にチップチューンミュージックの作曲活動を行う。GAMEBOY実機とDTMを使ったポップでハードな作曲を得意とし、暴れまくるスタイルが特徴。音楽以外では、ロゴデザインやCDジャケットなど、自らのアートワークをすべて自身でプロデュースしている。カプコン社やコナミ社に楽曲の提供も行う。2013年よりNNNNNNNNNNと共にオリジナルレーベル「MADMLIKY RECORDS」を主宰。
■最若手アーティストのチップチューン像
── TORIENAさんはもはや80~90年代のビデオゲームに原体験がない世代です。そういう世代のTORIENAさんにとって、チップチューンってどんな存在なんでしょうか?
作り始める前と後で、大分印象が変わりました。最初はやっぱり「ピコピコ」「ゲーム」。初めて聴いたのは、小学生くらいの時にヴィレッジヴァンガードで流れていたYMCKの曲なので、第一印象は「かわいい」「おしゃれ」。でもその頃は、まだ深く突き刺さってはいませんでした。
── 音楽的なルーツとしてはテクノポップ、ロック、ニューウェーブ。あとアニソンなんかも雑食的に聴いていたそうですね。
雰囲気が自分の好みに合っていたら、ジャンル問わずなんでも聴くという感じでした。聴いていたもの全部に共通していたのは「電子音」。
小学生の頃は秋葉原のオタク・カルチャー的なものばかり追いかけていたんですが、中学生になるあたりで、ちょっとませてきて。中学生って、ちょうど音楽にはまりはじめる時期じゃないですか。そこからいろいろ聴くようになったんですね。で、ちょうどこの頃にバンドブームがあって、その後ぐらいから電子音がポップスの中にどんどん入ってくるんです。そんななかでポリシックス(POLYSICS)に出会って、そこからスペースシャワーTVの番組をきっかけにテクノポップに興味を持つようになり、ピー・モデル(P-MODEL)やダフト・パンク(Daft Punk)にはまっていきました。
私、結構オタク気質なので、好きになると、とことん調べたくなる欲求があって。中学生くらいの時にYouTubeが出てきてるんですよ。それで動画を検索しまくるようになって、やがてテクノポップだけじゃなくニューウェーブからロックまで、電子音が入る音楽全般に興味が広がっていきました。高校に上がった頃にはエレクトロニカとかミニマルとか好きになってましたね。いまでも好きなんですけど。
── 同年代には同じような趣味の人っていなかったのでは。
尖りまくっていましたよ。おしゃれに気を遣い始める年頃には『KERA』を読んでいて、全身真っ黒にして髪の毛もマッシュボブ、前髪もアシメにして。あんまり友達もいなくて、浮いていたと思います(笑)。その頃から、絵を描くのが好きでしたね。MDで大音量の音楽を聴きながら絵を描くっていうことを、家ではずっとやっていました。
── まだライブに行ったりとかはしなかった?
高校時代の最後に札幌でネットレーベル系の小さなイベントに行ったんです。そこで初めて電子音楽のライブを見て、すごい衝撃を受けて。「自分は電子音の音楽を作る為に生まれてきたんだ」という勘違いをしちゃいました(笑)。電子音には魂がないとかって言われますけど、むしろ逆で、すごく魂を感じたんです。人間がいないと生み出せない音だからこそ、命が宿っているっていうか。そこから一生懸命アルバイトして、Cubaseを買いました。当時はまだ和音とか構成の作りかたがよくわからなかったので、短い繰り返しのフレーズを作るだけで満足していましたけどね。
■ライブに始まり、ライブで育つ
── そうこうするうちにチップチューンに出会う、いや、再会すると言ったほうが正しいかな。
京都の大学に通い始めて、バンド・サークルに入りました。そこで仲良くなった女の先輩が「チップチューンを作りたい、こういうのなんだけど」って、曲をどんどん聴かせてくれたんです。当時京都のチップチューン界隈ではNNNNNNNNNNが結構目立ってたんですけど、あの人はサークルの先輩だよってことも聞かされて。
ある時、カフェ・ラ・シエスタ(京都のチップチューン・シーンの拠点的存在になっているバー)に遊びにいったら、マスター航太さん(同店の店長兼ゲームボーイ・ミュージシャン)が「LSDj」のことを教えてくれて、カートリッジまでくれたんです。その時は使い方を理解できなくて、しばらく放置していたんですが、数ヶ月後に例のサークルの先輩が「シエスタでライブできることになったから一緒に出よう」って誘ってきて、曲を準備しないといけなくなりました。いざやってみると、意外とやりやすくて、自分に合っているなと。
初ライブは2012年2月、ぎりぎり大学1回生の時だったんですけど、その時は30分のセットを「LSDj」でひとつの音楽データにまとめて、それを流しながらひたすら動いていました。高校の時札幌で観たライブが、かなりフィジカルなスタイルだったので、あれが普通だと思って、とにかくがむしゃらに動いていたんです。それがすごく楽しくて、そのまま味を占めるっていう。
── 活動の開始がいきなりライブ。そういうのも以前の世代にはなかったかたちだと思います。
あの日のことは忘れられないですね。同日にUSKさん、NNNNNNNNNN、私の3人でB2Bをやったのが、すごく思い出深いです。自分のデータを、USKさんに教えてもらいながらその場でミックスしたりもしました。「ちゃんとやれ」とかヤジを飛ばされたりもして、当時はそういうノリに慣れてないから、ひどくヘコみました(笑)。
── スキル面に関しても、USKくんやNNNNNNNNNNくんに教え込まれた?
波形や打ち込みを直接教わることは、ほとんどなかったです。でも、もっと動きをこうしたほうがいいとか、もっと視野広げろとか、わりと精神論的なことは叩き込まれた感じです。私すごく負けず嫌いで、後輩ながらも絶対に彼らを越えたいっていう気持ちがあったんですね。みんなかっこよかったし。で、大学生って暇じゃないですか。毎日8時間くらい「LSDj」を触るようになって、週に2曲くらい作っていました。
── 楽曲制作に関して自分なりの作法みたいなものってありますか?
最初にルート音を決めて、そこから和音を頭の中で組んでいって、それに合った音色を選ぶみたいな。私コードもよくわからないんですが、不響和音にならない、聴いていて気持ち悪くならないということを一番大事にしています。でも入れたい音は入れる。理論的にはおかしいかもしれないな、と思いつつも。
■「TORIENA」と「中の人」
── 女性のチップチューン・ミュージシャンは、まだまだ稀有な存在です。
男子校のなかに女子がいるみたいな感覚はありますね(笑)。ただ、女性っていう要素が大きすぎて、曲そのものに目を向けられているのかどうかわからない時があります。もし私が男だったら、私の作っているものはどう評価されるんだろうって考えたりしますね。大事なのは、トラックがいいかどうかなので、そこは過小にも過大にも評価されたくない。
── ライブ・パフォーマンスはトラックの出来だけじゃなくて、盛り上げ方に左右されるところもあります。
ステージ上では「TORIENA」と「中の人」は違うと思っていて。ポップな「TORIENA」を、あくまでキャラクターとして楽しんでもらえればと思っています。
チップチューンのライブを始めて1年くらいは、他に女性がいないから、どうライブしていいのかわからないところがありました。ただ曲の作り方以外に、見た目の部分でも努力できるところはあると思ったんですね。髪の毛ぼさぼさよりは、綺麗に整えている方がいいし、Tシャツ短パンよりは可愛いもの着たほうが明らかにプラスじゃないですか。でも、あまり着飾ると今度は「チャラくなった」とか「アイドルっぽくなった」とか言われたりする。それは嫌だったので、どこまで着飾るべきか、踏ん切りがつかない時期が続いていました。吹っ切れたのは、2013年に2.5D(渋谷PARCO運営のソーシャルTV局)でファッション・カルチャーのイベントに出た時ですね。それ以降は衣装とかも作るようになりました。
── 当初は「女子であること」の特権を拒否したかった。
世の中にはかっこいいものが沢山あるのに、上辺だけのものに人気が集まりやすいのがずっと許せなくて。活動をはじめて1~2年は「なんで自分は女なんだろう?」って思っていました。どうしても色眼鏡で見られるじゃないですか。女の子で、若くてっていう。そういうフィルターは本当に嫌でした。でも2.5Dの時に、「頑なに守りに入っていても何も生まれないし、私にしか出来ないことがあるかもしれない」って思ったんですよ。
私はもともと内弁慶タイプで、言葉で表現するのが苦手なんです。でもゲームボーイに接して、それが自分の言葉にできない思いを音に昇華できるツールであることに気付きました。だからこそ、めちゃくちゃ曲作りをするようになった。それまではずっと地味に暮らしていたから、最初のうちはライブでも「恥ずかしい」「照れくさい」っていう部分がありました。思いきりが足りなかった。でも回数を重ねていくうちに、方法がわかってきたんです。「これが私なりの音楽表現だ」って、自信を持ってやっていけるようになりました。いまは「ライブも会話だ」と思っています。音を出して、みんなが体を揺らしてくれているってことは、コール&レスポンス。だから全力でやりたい。
……この続きは書籍でお楽しみください。
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