第1回
はじめに~人生のさまざまな選択に後悔しないようにするには、どうしたらいいのですか?
2017.02.17更新
進学、就職、結婚、人間関係……人生は分岐点の連続。「優柔不断」「後悔」をきっぱり捨てるブッダの智恵を、初期仏教長老が易しく説きます。
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はじめに
最初に言っておきましょう。この本は仏教について書いた本ではありません。普通に市井で生活している皆さんに、論理的思考の方法をアドバイスする易しい実用教養読本です。ですから、仏教のことが知りたい人向きではありません。
発端は、「人生のさまざまな選択に後悔しないようにするには、どうしたらいいのですか?」というひとつの質問から始まったのです。
私はこう答えました。
「それは簡単です。ふたつのことをやればいいだけです。ひとつは、理性で正しい選択をすること。もうひとつは過ぎたことにクヨクヨしないこと。これだけです」
すると、「その正しい選択が何なのかわからなくて、クヨクヨ悩んでしまうのです。そこをもう少しかみ砕いて、わかりやすく教えていただくことはできないでしょうか」と頼まれました。
坊主というのは、困っている人のために何か少しでも役に立たなければならない立場ですから、「では、『正しい選択ができる能力を上げるには』ということでじっくりお話ししましょう」と言いました。
こうして、語りおろしというかたちでこの本がつくられることになったのです。
選択には、正しい判断力とそれを速やかに実践する行動力が要ります。
その正しい判断力を邪魔する存在が「自我」です。そこで、第1章で自我がどんなトラブル要因を生むのかという話をしています。
正しく判断したいのであれば、感情ではなく「理性」で考えなければいけません。第2章では、理性とはどういうものかを説明しています。
理性は自分自身の自我に気づくところから始まるものなので、第3章では、自我について理解を深めるための思考レッスンを勧めています。
つづく第4章・第5章・第6章では、正しい判断力と行動力の武器となる要素、「意志」「意欲」「知識」「価値観」などのことを語っています。
最近は優柔不断に悩む人が多いというので、第7章ではどうして優柔不断になってしまうのか、どうしたら決断力が身につけられるのかという話をしています。
そして最後の第8章では、人間としてどういう心がけを持つことが正しい選択につながっていくのかということを話しています。
人生にはさまざまな選択があります。この本には、進学、就職、転職、結婚といった人生の転機といわれるような決断の話から、日常生活の中の選択まで、いろいろな悩みごと、相談ごとをケーススタディとして入れています。
しかし、人生相談のように私がそれに解答を出すのではなく、そういう状況になったときにはどう考えたらいいかの思考法を示しました。「仏教の智慧では、こういう考え方になりますよ」ということを提示して、どうするかはそれぞれ皆さんに考えてもらうかたちです。道を選ぶのは、結局、自分自身なのですからね。
数学の問題が解けないときに、答えを教えてもらっても何の役にも立ちません。どんなふうに考えたらいいのかという思考のプロセスを知りたい。それが理解できていれば、その問題だけでなく、類似する応用問題もすべて解けるようになります。それと同じことです。
だいたい、選択というのは何でも大げさに考えすぎないほうがいいのです。
電車で移動していたら、途中駅で年配の女性が乗ってきました。席を譲るかどうか。これもひとつの選択です。
「あの人はお年寄りと言っていい年齢なのだろうか。席を譲ったら、『私はそんなおばあさんじゃありません、失礼だわ』と怒られないだろうか。周りの人から『いい人ぶっている』と思われないだろうか」、そんなことをあれこれ悩んでいたら、席を譲るタイミングを逃します。
さりげなくすっと立って、「どうぞ」と譲り、何もなかったような顔で吊り革につかまっていればいいのです。悩むことは何もないのです。
結婚も、「この人と一緒になったら、人生が失敗にならないだろうか。もっと自分に合ういい人がいるのではないか」などと悩んだら、怖くなって踏み切れませんよ。
この選択が人生を左右するなんてことは、まずないのです。それがなぜかということは、本書を読み進めていただけばわかると思います。
なにげなく、さりげなくやっていることが、すべて正しい選択──、そういうしなやかな生き方を目指して、この本をヒントに、生きる知恵を開発していってください。
本書の企画を提案してくださった誠文堂新光社編集局出版部の青木耕太郎さん、私の拙い話を素晴らしい文章にまとめてくださった阿部久美子さんに、心から感謝をいたします。出版してくださった株式会社誠文堂新光社の皆様にも、心から感謝いたします。三宝のご加護がありますように。
アルボムッレ・スマナサーラ
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