第3回
「正体にがっかり」な妖怪図鑑:【小豆とぎ婆】【ぬらりひょん】
2021.07.14更新
「妖怪は怖い」だけじゃない! 古くから語り継がれてきた妖怪たちの「弱いところ」「人間臭いところ」「ダメなところ」を楽しく学べる本『がっかり妖怪大図鑑』刊行を記念して、全5回にわたってゆかいで楽しい妖怪を紹介します。
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妖怪は、本体とはちがう姿であらわれることがあります。
正体をあばいてみたら、ものすごくがっかりすることもあったとか……。
第5章「正体にがっかり」より、2体を紹介します。
正体の正体は外国人の木像!
【小豆とぎ婆】
イラスト:今井美保
夜の川のほとりで、ザクザクショキショキと、小豆を洗う音を立てる妖怪がいます。
小豆とぎ、あるいは小豆洗いとよばれることが多く、全国各地に出現しました。
基本は姿を見せずに、音だけを立てる妖怪なのですが、土地によっては婆の姿であらわれるので、小豆婆とか小豆とぎ婆とよばれています。
たとえば、栃木県佐野市上羽田町の小豆とぎ婆は、川のほとりでザッザーと小豆を洗う音を立てました。ところが川のほとり以外にも、龍江院という寺の観音堂から、小豆を洗う音が聞こえるというウワサがあったのです。
なぜなら、そのあたりに出た小豆とぎ婆は、観音堂に置かれたカテキ様という、あやしい木像が正体だと思われていたからです。
でも、大正時代になると、カテキ様の像はキリスト教の神学者・エラスムスだったことが判明します。九州に漂着したオランダ船の装飾品の像が、なぜか佐野の龍江院に納められていたのでした。
頭巾をかぶった見なれない人物像が、昔の人には妖怪に見えたのでしょうね。
【がっかりポイント】
キリスト教の神学者の像が妖怪と思われていてがっかり!
【データ】
出没地域:栃木県佐野市上羽田町
出現時代:昭和のはじめくらいまで?
参考資料:『佐野市史』民俗編
メモ:小豆とぎや小豆洗いは、「小豆とぎやしょか、人取って食いやしょか」と歌うことがあるので、人をつかまえて食べることがあるのかもしれません。
妖怪の総大将というけれど
【ぬらりひょん】
イラスト:今井美保
妖怪の総大将で、かってに人の家に上がりこんでお茶をすする妖怪─などといわれてはいますが、そういう説明をした古い本はありません。
もともとぬらりひょんは、江戸時代の絵巻物などに、名前と絵だけが描かれた妖怪です。滑瓢という言葉から、ぬらりくらりとした妖怪と想像されているにすぎません。
家に上がってお茶を飲むなどの設定は、児童書などで作られたものなのでした。
こんな感じで、後の時代に設定が作られた妖怪は、あんがい少なくないのです。
【がっかりポイント】
結局、なんだかよく分からない妖怪でがっかり!
【データ】
出没地域:書籍
出現時代:不明
参考資料:『鳥山石燕 画図百鬼夜行全画集』
メモ:滑瓢という言葉は、“ぬらりくらりとしてつかまえどころがない”という意味です。そこからつかまえどころのない妖怪のことも意味するようになったそうです。
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