第3回
庭園をより深く楽しむお勧め本
2018.11.08更新
『しかけに感動する「京都名庭園」』の著者・烏賀陽百合さんと、華道家・書芸家・写真家でもある清水南龍さんによるトークイベントをもとに再構成したものです。日本庭園に携わるおふたりが語る室外の世界をお楽しみください。
(このトークイベントは、2018年8月28日に銀座蔦屋書店にて行われました。)
烏賀陽 今日は蔦屋書店さんでのトークショーということで、お勧めの本をみなさんに紹介したいと思います。まず、私がご紹介するのは『正岡子規の句集』です。昨日、根岸にあります子規庵に行きまして、お話を伺ってきたのですが、みなさん行かれたことはありますか?
清水 うん。
烏賀陽 子規は晩年、結核を患っていて、寝たきりでした。なので、彼が見られる景色は部屋からのお庭だけ。子規の晩年の句はこのお庭から見た景色を詠んでいるものが多いんです。それもあって、お庭には、ヘチマや鶏頭が植えられているんですけど、私はそれらを植えたのはてっきり子規の妹さんの律さんだと思っていたのですが、どうやら、寝たきりの子規を訪ねて、いろいろな方が会いに来ていたようで、その方たちが子規が喜ぶだろうと、お土産にいろいろな植物を持ってきて、植えていったそうなんです。だから、いろんな人の愛情がお庭には出ているそうなんです。
清水 それはいい話ですね。
烏賀陽 お庭の後ろにあるストーリーを聞くと、より深く庭を楽しめるというか、そこに込められた愛情を知ることが出来て嬉しいんです。それを書き残していきたいなとも思っています。
清水 どうやって作ったかというのを知って貰うのはいいことですよ。
烏賀陽 それを知ってから句集を読み直すと、正岡子規の植物の描写ってなんて繊細なんだろうって改めて感じます。ミクロの世界なんですよね。ひとつひとつを細かくみているというのがわかるんです。私が好きな句で、
“南天に雪吹き付けて雀鳴く”(正岡子規)
南天に雀が止まって鳴いたとき、雪がふぁっと飛んで雪が吹き付けてる、という情景を感じる句なんですけど、なんて細かい一瞬を捉えることができるんだろう思いますよね。じっくり景色を見てないと詠めない歌だと思います。
清水 歴史を食べるといいますけど、文化の心を感じられますね。
烏賀陽 そのとおりです。是非、句集と共に子規庵に足を運んでください。
清水 私がまずお勧めするのは隈研吾の『境界』です。私は結界にもの凄くこだわっているのですが、結界っていうと、仕切るってイメージかもしれませんが、「切る」んじゃなくて、繋げるための線引きなんです。みなさんは結界を作るためにハサミで切っていくというイメージを持ってらっしゃるかも知れませんが、絶対に結界は切っちゃいけない。そのことがとてもよくわかるのが『境界』です。
烏賀陽 清水さんがよく仰っている「間」もそうですね。
清水 そうです。それともう一冊。ピカソの画集です。私の生け花は、“借景”すなわち、山の景色から庭の景色にいって、そこから凝縮したものだけをしつらえるのですが、それは伝統からすると亜流です。伝統の流れを単純に受け入れられない自分がいてそうしてるんですが、まあ、天の邪鬼なんでね(笑)。ピカソの絵もそうです。しっかりとした土台があったからこそ、キュビズムにいったわけです。私も基本は全て習っていますし、日本いけばな芸術協会のメンバーでもあるんですけど、伝統通りにそのままやっても違う。分解して再構成するという考え方なんです。ピカソがやったことは、お花のなかに全部あるんです。それはひとことで言うと、想像力です。そこは私たちが海外の人よりも際立っているところだと思いますよ。
烏賀陽 日本人は想像力が豊かですよね。
清水 “見立てる力”といいますかね。
烏賀陽 意外だと思われるかも知れませんが、外国の方は“見立てる力”が難しいと言われる。例えば大徳寺の瑞峯院さんに、石が並べてあって線を繋げていくと十字架になるお庭があるんですけど、線を繋ぐという見立てがわからないんですよね。石と石を繋げるだけなのに、それが難しいみたいなんです。
清水 日本人が、と言うよりも、日本という環境に住んでいると手に入れられるものなんでしょうね。この国の持っている感受性の方向性というのは、見立てる力をよりいっそう引きだしている気がします。
烏賀陽 そうですね。自然石が美しく見える、鯉に見える、龍に見えるというのは日本独特の世界だと思います。お花の世界もそうなんですね。見立てる力が日本文化を育てると思います。
(おわり)
関連書籍
『しかけに感動する「京都名庭園」』 著者:烏賀陽 百合
誠文堂新光社 定価:1,600円(+税)
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