第118回
287〜288話
2021.09.09更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
「目次」はこちら
6‐2 君主の賢者の養い方
【現代語訳】
〈前項から続いて〉。万章が問うた。「君主が窮乏を救うために贈り物をされれば、それを受けてもよいとのことでした。私にはわからないのですが、後から後からそれを引き続き贈ってきても、それを受けとっていいものでしょうか」。孟子は答えた。「昔、魯の繆公が子思に対して、使者をたびたびつかわして安否を尋ね、たびたび鼎(かなえ)で烹た肉を贈った。そのたびたびの君命によるものを子思はありがた迷惑に思い、とうとう最後には、使者を手でさし招いて大門の外に出てもらい、子思は北面して臣下の礼をとり、頭を地につけ再拝して、贈り物を辞退して受けなかった。そして言った。『今になってやっと、君が私を犬や馬を養うような養い方をしているのがわかりました』と。このことがあってから、繆公は使いを出して送り物をするようなことはなくなったという。いくら賢者を好んでいようと、挙げ用いることもできず、また、正しい道でもって賢者を養うこともできなければ、本当に賢者を好んでいるとはいえないだろう」。
【読み下し文】
曰(いわ)く、君(きみ)之(これ)を餽(おく)れば則(すなわ)ち之(これ)を受(う)くと。識(し)らず、常(つね)に継(つ)ぐ(※)べきか。曰(いわ)く、繆公(ぼくこう)の子思(しし)に於(お)けるや、亟〻(しばしば)問(と)わしめ、亟〻(しばしば)鼎肉(ていにく)(※)を餽(おく)れり。子思(しし)悦(よろこ)ばず。卒(おわ)りに於(おい)てや、使者(ししゃ)を摽(さしまね)きて、諸(これ)を大門(だいもん)の外(そと)に出(いだ)し、北面(ほくめん)し稽首(けいしゅ)(※)再拝(さいはい)して受(う)けず。曰(いわ)く、今(いま)にして後(のち)、君(きみ)の犬馬(けんば)もて伋(きゅう)(※)を畜(やしな)いたるを知(し)る、と。蓋(けだ)し是(これ)より台(だい)(※)餽(おく)ること無(な)きなり。賢(けん)を悦(よろこ)びて挙(あ)ぐる能(あた)わず、又(また)養(やしな)う能(あた)わずんば、賢(けん)を悦(よろこ)ぶと謂(い)うべけんや。
(※)常に継ぐ……引き続いていつも。
(※)鼎肉……鼎で烹た肉。
(※)稽首……頭を地につける。
(※)伋……子思の名。
(※)台……君主の使い番。
【原文】
曰、君餽之則受之、不識、可常繼乎、曰、繆公之於子思也、亟問、亟餽鼎肉、子思不悦、於卒也、摽使者、出諸大門之外、北面稽首再拜而不受、曰、今而後、知君之犬馬畜伋、蓋自是臺無餽也、悦賢不能擧、又不能養也、可謂悦賢乎。
6‐3 堯にみる賢者を尊ぶ道
【現代語訳】
〈前項から続いて〉。万章が聞いた。「なお、さらにお尋ねしますが、国君が君子を養おうと思ったら、どうすれば真に養うといえますでしょうか」。孟子は答えた。「最初に君命をもって贈り物を届け、君子側は、地に頭をつけ、再拝して、それを受け取る。その次からは、倉役人が引き続いて穀物を切らさないように届け、料理人が肉を切らさないように届ける。しかし、この二度目からは君命の形はとらない(君命だといちいち拝して受け取らなければならない)。(しかし、繆公は、毎回君命であるとしたので)子思は思った。『この鼎肉は、私をわずらわしくさせ、何度も拝させてしまう。これは君子を養う道ではない』と。昔、堯帝は、舜に対して、自分の九人の息子を仕えさせ、二人の娘を嫁にやり、百官・牛羊・倉庫などを備えて、舜を田野のなかに養わせしめた。そして、後に舜を登用し、摂政につけた。これが王公たる者の賢者を尊ぶ道だとされるのだ」。
【読み下し文】
曰(いわ)く、敢(あえ)て問(と)う、国君(こくくん)君子(くんし)を養(やしな)わんと欲(ほっ)せば、如何(いか)にせば斯(すなわ)ち養(やしな)うと謂(い)うべき。曰(いわ)く、君命(くんめい)を以(もっ)て之(これ)を将(おこな)い、再拝(さいはい)稽首(けいしゅ)して受(う)く。其(そ)の後(ご)は廩人(りんじん)(※)粟(ぞく)を継(つ)ぎ、庖人(ほうじん)(※)肉(にく)を継(つ)ぐ。君命(くんめい)を以(もっ)て之(これ)を将(おこな)わず。子思(しし)以(お)為(も)えらく、鼎肉(ていにく)己(おのれ)をして僕僕爾(ぼくぼくじ)(※)として亟〻(しばしば)拝(はい)せしむ。君子(くんし)を養(やしな)うの道(みち)に非(あら)ざるなり、と。堯(ぎょう)の舜(しゅん)に於(お)けるや(※)、其(そ)の子(こ)九男(きゅうだん)をして之(これ)に事(つか)え、二女(にじょ)をして焉(これ)に女(めあ)わせ、百官(ひゃっかん)・牛羊(ぎゅうよう)・倉廩(そうりん)備(そな)え、以(もっ)て舜(しゅん)を畎畝(けんぽ)の中(うち)に養(やしな)わしむ。後(のち)挙(あ)げて諸(これ)を上位(じょうい)(※)に加(くわ)う。故(ゆえ)に曰(いわ)く、王公(おうこう)の賢(けん)を尊(たっと)ぶ者(もの)なり。
(※)廩人……米蔵を司る役人。
(※)庖人……ここでは、料理を司る役人。
(※)僕僕爾……わずらわしい。
(※)堯の舜に於けるや……原文の「堯之於舜」以下四十七文字は、万章(下)第三章三の前に置くべきとする説もある。なお、「使其子」以下数句は、万章(上)第一章二にも似た文章がある。
(※)上位……ここでは摂政を意味する。
【原文】
曰、敢問、國君欲羪君子、如何斯可謂羪矣、曰、以君命將之、再拜稽首而受、其後廩人繼粟、庖人繼肉、不以君命將之、子思以爲、鼎肉使己僕僕爾亟拜也、非羪君子之衜也、堯之於舜也、使其子九男事之、二女女焉、百官・牛羊・倉廩備、以羪舜於畎畝之中、後擧而加諸上位、故曰、王公之尊賢者也。
【単行本好評発売中!】
この本を購入する
感想を書く