Facebook
Twitter
RSS

第117回

285〜286話

2021.09.08更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
「目次」はこちら

5‐1 仕事の目的

【現代語訳】
孟子は言った。「仕える(仕事をする)ということは、本来貧しいから生活のためにするものではない(正しい道を行うためである)。しかし、ときには生活のためにする場合がある。また、妻を迎え結婚するのは、(身の回りの)世話をしてもらう必要からするのではない(子孫を得て祖先の祭りを絶やさぬためである)。しかし、ときによっては世話をしてもらうためにする場合もある。貧しいから生活のために仕える者は(道を行うためではないので)、尊い位を辞し、富を辞して、貧しい俸禄に甘んじるべきである。尊い位を辞し、富を辞して、貧しい俸禄に甘んじるには、どういう職がいいのか。それは門番か夜警が最も良いであろう。孔子もかつて、生活のために倉庫係になったことがある。そのときこう言われた。『出納が正しく行われ、計算がきちんと合うようにすればいい』と。また、牧畜係になったこともある。そのとき、こう言われた。『飼っている牛や羊が丈夫で元気に成長してくれればいい』と。自分の地位が低いのに(それだけのものしか要求されてないのに)、むやみに高言するのは、分を越え、職を逸脱することである。しかし、反対に、中央の高い地位にありながら、道が行われていないというのは、職務怠慢の恥ずべきことなのである」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、仕(つか)うるは貧(ひん)の為(ため)に非(あら)ざるなり。而(しか)れども時(とき)有(あ)りてか貧(ひん)の為(ため)にす。妻(つま)を娶(めと)るは養(やしな)いの為(ため)に非(あら)ざるなり。而(しか)れども時(とき)有(あ)りてか養(やしな)いの為(ため)にす。貧(ひん)の為(ため)にする者(もの)は、尊(そん)を辞(じ)して卑(ひ)に居(お)り、富(とみ)を辞(じ)して貧(ひん)に居(お)るべし。尊(そん)を辞(じ)して卑(ひ)に居(お)り、富(とみ)を辞(じ)して貧(ひん)に居(お)るには、悪(いずく)に宜(よろ)しき。抱関撃拆(ほうかんげきたく)(※)なり。孔子(こうし)嘗(かつ)て委吏(いり)(※)と為(な)る。曰(いわ)く、会計(かいけい)当(あ)たるのみ、と。嘗(かつ)て乗田(じょうでん)(※)と為(な)る。曰(いわ)く、牛(ぎゅう)羊(よう)茁(さつ)として(※)壮長(そうちょう)するのみ、と。位(くらい)卑(いや)しくして言(げん)高(たか)き(※)は、罪(つみ)なり。人(ひと)の本朝(ほんちょう)(※)に立(た)ちて、道(みち)行(おこな)われざるは、恥(はじ)なり。

(※)抱関撃柝……門番夜警。
(※)委吏……倉庫係。
(※)乗田……牧畜係。
(※)茁として……丈夫で元気に成長する。
(※)言高き……地位を超えてむやみに高言すること。なお、『論語』にも、「子(し)曰(いわ)く、其(そ)の位(くらい)に在(あ)らざれば、其(そ)の政(まつりごと)を謀(はか)らず」とある(泰伯第八、憲問第十四)。
(※)本朝……中央。国の朝廷。

【原文】
孟子曰、仕非爲貧也、而有時乎爲貧、娶妻非爲羪也、而有時乎爲羪、爲貧者、辭尊居卑、辭富居貧、辭尊居卑、辭富居貧、惡乎宜乎、抱關擊柝、孔子嘗爲委吏矣、曰、會計當而已矣、嘗爲乘田矣、曰、牛羊茁壯長而已矣、位卑而言高、罪也、立乎人之本朝、而衜不行、恥也。

6‐1 俸禄は働きがあってこそのもの

【現代語訳】
万章は問うた。「士たる身分の者が、仕えていない諸侯に身を寄せるものではないというのは、どういうことですか」。孟子は答えた。「そうしたくても、あえてそうしないものなのである。なぜなら諸侯が国を失って出奔したときに、ほかの諸侯に身を寄せるのは(身分が対等であるから)礼であるが、士たる者が、諸侯に身を寄せるのは(身分が違うので)礼とはならないからである」。万章はさらに聞いた。「君主が、士の窮乏を見て、穀物を贈与してきたらこれを受けてよいでしょうか」。孟子は答えた。「受けてよい」。万章は言った。「受けてよいというのはどうしてですか」。孟子は言った。「君主たる者は、他国からの流民に対しては、当然、救済するものであるからだ」。万章は聞いた。「救済ならこれを受け、俸禄としてならこれを受けてはならないというのはどうしてですか」。孟子は答えた。「そうしたくても、あえて受けないのだ」。万章はさらに聞いた。「よくわかりませんので、しつこいようですが教えてください。そのあえて受けないというのはどうしてですか」。孟子は答えた。「門番や夜警の者は、皆一定の職務があって、それで君主から俸禄を受けている。こうした一定の職務がないにもかかわらず、君主から俸禄を賜るというのは、不恭つまり不謹慎であるのだ」。

【読み下し文】
万章(ばんしょう)曰(いわ)く、士(し)の諸侯(しょこう)に託(たく)せざる(※)は、何(なん)ぞや。孟子(もうし)曰(いわ)く、敢(あえ)てせざるなり。諸侯(しょこう)国(くに)を失(うしな)いて而(しか)る後(のち)諸侯(しょこう)に託(たく)するは、礼(れい)なり。士(し)の諸侯(しょこう)に託(たく)するは、礼(れい)に非(あら)ざればなり。万章(ばんしょう)曰(いわ)く、君(きみ)之(これ)に粟(ぞく)を餽(おく)れば則(すなわ)ち之(これ)を受(う)けんか。曰(いわ)く、之(これ)を受(う)けん。之(これ)を受(う)くるは何(なん)の義(ぎ)ぞや。曰(いわ)く、君(きみ)の氓(たみ)に於(お)けるや、固(もと)より之(これ)を周(すく)(※)うべければなり。曰(いわ)く、之(これ)を周(すく)えば則(すなわ)ち受(う)け、之(これ)を賜(たま)えば(※)則(すなわ)ち受(う)けざるは、何(なん)ぞや。曰く(いわ)く、敢(あえ)てせざるなり。曰(いわ)く、敢(あえ)て問(と)う、其(そ)の敢(あえ)てせざるは何(なん)ぞや。曰(いわ)く、抱関(ほうかん)撃柝(げきたく)の者(もの)は、皆(みな)常(つね)の職(しょく)有(あ)りて以(もっ)て上(かみ)に食(は)む。常(つね)の職(しょく)無(な)くして上(かみ)より賜(たまわ)る者(もの)は、以(もっ)て不恭(ふきょう)と為(な)せばなり。

(※)託せざる……身を寄せるものではない。仕えずしてその禄をもらうことはできない。
(※)周……窮乏を見て穀物を贈与する。救う。
(※)賜えば……(仕事もないのに)俸禄として受ければの意味。

【原文】
萬章曰、士之不託諸侯、何也、孟子曰、不敢也、諸侯失國而後託於諸侯、禮也、士之託於諸侯、非禮也、萬章曰、君餽之粟則受之乎、曰、受之、受之何義也、曰、君之於氓也、固周之、曰、周之則受、賜之則不受、何也、曰、不敢也、曰、敢問、其不敢何也、曰、抱關撃柝者、皆有常職以食於上、無常職而賜於上者、以爲不恭也。


【単行本好評発売中!】 
この本を購入する

「目次」はこちら

シェア

Share

感想を書く感想を書く

※コメントは承認制となっておりますので、反映されるまでに時間がかかります。

著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

矢印