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第139回

332話〜333話

2021.10.13更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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7‐1 覇者は王者に対する罪人である

【現代語訳】
孟子は言った。「春秋時代の五覇、すなわち斉の桓公、晋の文公、秦の穆公、宋の襄公、楚の荘王は、三王すなわち夏の禹王、殷の湯王、周の文王、武王の罪人というべきである。また、今日の諸侯は、五覇の罪人というべきものである。さらに、今日の大夫は、今日の諸侯の罪人である」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、五覇(ごは)(※)は、三王(さんおう)(※)の罪人(ざいにん)なり。今(いま)の諸侯(しょこう)は、五覇(ごは)の罪人(ざいにん)なり。今(いま)の大夫(たいふ)は、今(いま)の諸侯(しょこう)の罪人(ざいにん)なり。

(※)五霸……春秋の五人の覇者。
(※)三王……夏、殷、周を興した三人の王を指すが、周の文王と武王は父子一体とみるのが普通。

【原文】
孟子曰、五霸者、三王之罪人也、今之諸侯、五霸之罪人也、今之大夫、今之諸侯之罪人也。

7‐2 五人の覇者は三人の王者の罪人である

【現代語訳】
〈前項から続いて孟子は言った〉。「天子が諸侯の領地を見まわることを巡守といい、諸侯が天子のところに自分の職務を報告するために参朝するのを述職という。ほかにも天子は、春になると耕作の状態を見ては、農具などの不足しているのを補ってやり、秋には収穫の状態を見て、人手の足りないところは助けてやるようにもした。さて、天子は巡守をする際に、諸侯の領地内に入って見るのだが、土地は良く開発され、田畑が良く治められ、老人を良く養い、賢者を尊び、才能に優れた者が位を得られているとわかれば、その諸侯に褒美を与えた。褒美には、土地を与えた。反対に諸侯の領地内にったとき、土地は荒れ果て、老人は放っておき、賢者を用いず、税ばかりしぼる者が位に置かれたていたりすると罰することをした。また、定期的に行われるはずの述職をひとたび怠ると爵位を下げ、再び怠れば領地を削った。さらに三度目となると天下の軍隊を差し向ける。このように天子には懲罰で諸侯を討つことはあるが、自ら軍隊を率いて相手と戦うという伐はなかったのである。また、諸侯は天子の命令で軍隊を動かすが、自分勝手に戦うことはしない。しかるに五覇は、諸侯の身でありながら、天子の命を承けもせずに諸侯を引き連れて、問題とするほかの諸侯を伐っているのである(実質は天子の行う討をやっていることになる)。だから、私は、五覇は三王から罪人とされるに値する者だとするのである」。

【読み下し文】
天子(てんし)の諸侯(しょこう)に適(ゆ)くを巡狩(じゅんしゅ)(※)と曰(い)い、諸侯(しょこう)の天子(てんし)に朝(ちょう)するを述職(じゅつしょく)(※)と曰(い)う。春(はる)は耕(たがや)すを省(かえり)みて足(た)らざるを補(おぎな)い、秋(あき)は斂(おさ)るむるを省(かえり)みて足(た)らざるを助(すけ)く。其(そ)の彊(さかい)に入(い)るに、土地(とち)辟(ひら)(※)け、田野(でんや)治(おさ)まり、老(ろう)を養(やしな)い賢(けん)を尊(たっと)び、俊傑(しゅんけつ)位(くらい)に在(あ)れば、則(すなわ)ち慶(けい)有(あ)り。慶(けい)するに地(ち)を以(もっ)てす。其(そ)の彊(さかい)に入(い)るに、土地(とち)荒蕪(こうぶ)し、老(ろう)を遺(す)て(※)賢(けん)を失(うしな)い、掊克(ほうこく)(※)位(くらい)に在(あ)れば、則(すなわ)ち譲(せめ)(※)有(あ)り。一(ひと)たび朝(ちょう)せざれば、則(すなわ)ち其(そ)の爵(しゃく)を貶(おと)し、再(ふたた)び朝(ちょう)せざれば、則(すなわ)ち其(そ)の地(ち)を削(けず)り、三(み)たび朝(ちょう)せざれば、則(すなわ)ち六師(りくし)(※)之(これ)を移(うつ)す。是(こ)の故(ゆえ)に天子(てんし)は討(とう)じて伐(ばつ)せず。諸侯(しょこう)は伐(ばつ)して討(とう)せず。五覇(ごは)は、諸侯(しょこう)を摟(ひ)きて(※)以(もっ)て諸侯(しょこう)を伐(ばつ)する者(もの)なり。故(ゆえ)に曰(いわ)く、五覇(ごは)は、三王(さんおう)の罪人(ざいにん)なり。

(※)巡狩……梁恵王(下)第四章二参照。
(※)述職……梁恵王(下)第四章二参照。
(※)辟……開墾されている。開発されている。
(※)老を遺て……老人を放っておく、大切にしない。
(※)掊克……税ばかりしぼる者。これに対して不良の人とする説もある。また、自ら誇って、好んで人をしのぐ者と解する説もある。
(※)譲……ここでは罰すること。責めること。
(※)六師……天子の軍。六軍とも言う。
(※)摟きて……引き連れて。

【原文】
天子適諸侯曰巡狩、諸侯朝於天子曰述職、春省耕而補不足、秋省斂而助夫給、入其疆、土地辟、田野治、養老尊賢、俊傑在位、則有慶、慶以他、入其疆、土地荒蕪、遺老失賢、掊克在位、則有讓、一不朝、則貶其爵、再不朝、則削其地、三不朝、則六師移之、是故天子討而不伐、諸侯伐而不討、五霸者、摟諸侯以伐諸侯者也、故曰、五霸者、三王之罪人也。


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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