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第143回

340〜342話

2021.10.19更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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11‐1 自分のところだけがよければ良いという考えをしてはいけない

【現代語訳】
白圭は言った。「私の治水は、伝説にあるような禹の治水より優っています」。孟子は言った。「あなたのその発言は間違っています。禹の治水は、水の流れる道を守り、自然に流して、それでいてうまくいくようにしたものです。だから禹は、四方の海を水の流れ入る谷としてそこに流し込んだのです。それに対し、あなたの治水は、隣国をもって谷とし、そこに水を流し入れたものです。水が上流に向かって逆流するのは洚水といいます。洚水は、今でいう洪水です。これは仁者の憎むところのものです。だからあなたの治水は自慢できるものでなく、間違っているものなのです」。

【読み下し文】
白圭(はっけい)曰(いわ)く、丹(たん)(※)の水(みず)を治(おさ)むるや、禹(う)より愈(まさ)れり。孟子(もうし)曰(いわ)く、子(し)過(あやま)てり。禹(う)の水(みず)を治(おさ)むるは、水(みず)の道(みち)なり。是(こ)の故(ゆえ)に禹(う)は四海(しかい)を以(もっ)て壑(たに)(※)と為(な)せり。今(いま)、吾子(ごし)(※)は鄰国(りんごく)を以(もっ)て壑(たに)と為(な)す。水(みず)逆行(ぎゃっこう)する、之(これ)を洚水(こうずい)と謂(い)う。洚水(こうずい)とは、洪水(こうずい)なり。仁人(じんじん)の悪(にく)む所(ところ)なり。吾子(ごし)過(あやま)てり。

(※)丹……白圭の名。
(※)壑……谷。水はけ場。
(※)吾子……あなた。我が子。白圭を「吾子」と呼んだのは、親しみを込めて言ったのではなく、子どもじみたことを言う白圭を子ども扱いした感じで言ったように取れる。

【原文】
白圭曰、丹之治水也、愈於禹、孟子曰、子過矣、禹之治水、水之道也、是故禹以四海爲壑、今、吾子以鄰國爲壑、水逆行、謂之洚水、洚水者、洪水也、仁人之所惡也、吾子過矣。

12‐1 一つの小さなことにこだわりすぎない

【現代語訳】
孟子は言った。「君子は、一つの小さな真実にこだわりすぎることはない。一つのことに固執しては、おかしなことにもなりかねないからである」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、君子(くんし)は亮(まこと)(※)ならず。執(と)ることを悪(にく)めばなり。

(※)亮……小信。小さな真実。「諒」と同じ。『論語』でも孔子は次のように述べている。「子(し)曰(いわ)く、君子(くんし)は貞(てい)にして諒(りょう)ならず」(衛霊公第十五)。これを私は次のように訳した。「君子は正しい道理の部分では譲らないが、他のことで融通の利かない硬直者ではない」(拙著『全文完全対照版 論語コンプリート』参照)。ただし、本章については、別の読み方もできる。「君子(くんし)は亮(りょう)ならずんば、悪(いずく)にか執(と)らん」などと読み、「君子が誠でなければ、何の取りえがあろうか」などと訳す(朱子や吉田松陰は、この説を採っている)。他にも「君子(くんし)は亮(りょう)ならず。悪(いずく)にかか執(と)らん」と読む場合がある。

【原文】
孟子曰、君子不亮、惡乎執。

13‐1 人の話を聞くことのできる善人が国、組織を良く治める

【現代語訳】
魯の国では、(孟子の弟子である)楽正子に、政治をやらせることになった。孟子は言った。「私は、それを聞いて、喜んでうれしくて眠れなかった」。それを聞いて公孫丑が聞いた。「楽正子は強い意志の人なのですか」。孟子は答えた。「いや、そうではない」。公孫丑はさらに聞いた。「では、知慮の深い人なのですか」。孟子は答えた。「いや、そうではない」。公孫丑はまた聞いた。「では、博聞識見の高い人なのですか」。孟子は答えた。「いや、そうではない」。そこで公孫丑は聞いた。「そうすると、どうして先生はうれしくて夜も眠れなかったのですか」。孟子は言った。「楽正子は、人となりが善を好む人間だからだ」。公孫丑が聞いた。「善を好むぐらいで、国の政治をするのに十分なのですか」。孟子は答えた。「善を好めば、天下を治めるにも十分余りある。だから魯一国を治めるぐらい何てことはない。政治を担当する者が、善を好む人であれば、四海の内(天下)の皆が、千里の道も物ともせずにやってきて、善となることをこれに告げるだろう。これに対して政治を担当する者が善を好まなければ、人はこう言うだろう。『あの人は自己独善の人であり、何でも自分はそんなことすでに知っていると言うだろう』と。このように自己独善で人の意見を聞こうとしない人の声や顔色は、人を千里以上の遠くまで遠ざけてしまい近づけさせない。こうなると賢者は千里以上まで遠のいているのに、近づいて来るのは、賢者を讒言する者やおべっかを使うか腹のなかは違っているという人ばかりとなる。こういう連中が一緒にいるとなると、国はうまく治めようと思っても、治まるわけがないことになる」。

【読み下し文】
魯(ろ)、楽正子(がくせいし)をして政(まつりごと)を為(な)さしめんと欲(ほっ)す。孟子(もうし)曰(いわ)く、吾(わ)れ之(これ)を聞(き)き、喜(よろこ)びて寐(い)ねられず。公孫丑(こうそんちゅう)曰(いわ)く、楽正子(がくせいし)は強(きょう)(※)なるか。曰(いわ)く、否(いな)。知慮(ちりょ)有(あ)るか。曰(いわ)く、否(いな)。聞識(ぶんしき)多(おお)きか。曰(いわ)く、否(いな)。然(しか)らば則(すなわ)ち奚(なん)為(す)れぞ喜(よろこ)ばしくて寐(い)ねられざる(※)。曰(いわ)く、其(そ)の人(ひと)と為(な)りや善(ぜん)を好(この)めばなり。善(ぜん)を好(この)めば足(た)るか。曰(いわ)く、善(ぜん)を好(この)めば天下(てんか)に優(ゆう)なり。而(しか)るを況(いわ)んや魯国(ろこく)をや。夫(そ)れ苟(いやし)くも善(ぜん)を好(この)めば、則(すなわ)ち四海(しかい)の内(うち)、皆(みな)将(まさ)に千里(せんり)を軽(かる)しとして来(き)たり、之(これ)に告(つ)ぐるに善(ぜん)を以(もっ)てせんとす。夫(そ)れ苟(いやしく)も善(ぜん)を好(この)まざれば、則(すなわ)ち人(ひと)将(まさ)に曰(い)わんとす、訑訑(いい)(※)たり。予(われ)既(すで)に已(すで)に之(これ)を知(し)れり。訑訑(いい)の声音(せいおん)顔色(かおしょく)は、人(ひと)を千里(せんり)の外(そと)に距(ふせ)ぐ(※)。士(し)千里(せんり)の外(そと)に止(とど)まらば、則(すなわ)ち讒諂(ざんてん)面諛(めんゆ)の人(ひと)(※)至(いた)らん。讒諂面諛(ざんてんめんゆ)の人(ひと)と居(お)らば、国(くに)治(おさ)まらんことを欲(ほっ)するも得(う)べけんや。

(※)強……強い意志の人。強毅果断。
(※)寐ねられざる……眠れない。寝られない。「寐」は眠ることであるが、「寝」は眠ること、横になることの両方に使われる。なお、孟子と弟子の関係を孔子と弟子たちの関係に比べて、稀薄なところがあるようにもいわれることがあるが、この章を見るとそうとも思えない。ただ、孟子はとても弁がたち、そのうえ自意識と覚悟がとても強いので、弟子をあまり、ほめたりしないようだ。そこが孔子とは違うとも言えるし、冷たくも見えるのだろう。なお、梁恵王(下)第十六章二、尽心(下)第二十五章参照。
(※)訑訑……自己独善。自分は何でも知っていると思い込んでいて、人の意見を聞かないさま。
(※)距ぐ……近づけさせない。
(※)讒諂面諛の人……賢者を讒言する者やおべっかを使うが腹のなかは違っているという人。「讒」は賢者を讒言すること。「諂」はおべっかを使うこと。「面諛」は、口だけうまいことを言うが、腹のなかは違っていること。なお、孟子の本章で述べていることは、現在でもまったくその通りである。孟子の「性善説」によると、人は皆、本来すばらしいものを有しているが、それをうまく育てずに、欲が勝ちすぎて、こうした「讒諂面諛の人」がいる。国政でも、民間の組織でも永遠の問題である。そこをズバリと本質から「善人」であるべきことが政治をする者、組織の上の者の一番の資質であることをわからせてくれる見事な章である。もちろん「善人」であることを大前提にして正しい知識や強い意志があってうまく判断、実行されていくことになる。

【原文】
魯、欲使樂正子爲政、孟子曰、吾聞之、喜而不寐、公孫丑曰、樂正子强乎、曰、否、有智慮乎、曰、否、多聞識乎、曰、否、然則奚爲喜而不寐、曰、其爲人也好善、好善足乎、曰、好善優於天下、而況魯國乎、夫苟好善、則四海之内、皆將輕千里而來、告之以善、夫苟不好善、則人將曰、訑訑、予旣已知之矣、訑訑之聲音顏色、距人於千里之外、士止於千里之外、則讒諂面諛之人至矣、與讒諂面諛之人居、國欲治可得乎。


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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