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第43回

102〜104話

2021.05.25更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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2‐1 仮病を使うときもありうる


【現代語訳】
孟子が(斉の)王に朝見に行こうとしていた。そこに、王からの使者がよこされてきて言った。『本来、私のほうから出かけて会うべきである。しかし、風邪をひいてしまって、外の風にあたるのは良くない。もし、先生のほうで朝廷に来てくださるのなら、私も朝廷に出かけてお会いしたい。どうだろうか。会ってもらえないだろうか』と。(王は風邪を理由に呼びつけようとしていることがわかった)孟子は答えて言った。「あいにく、私も病気になりまして、朝廷に行くことができません」。

【読み下し文】
孟子(もうし)将(まさ)に王(おう)(※)に朝(ちょう)(※)せんとす。王人(おうひと)をして来(き)たらしめて、曰(いわ)く、寡人(かじん)就(つ)いて見(み)るが如(ごと)き(※)者(もの)なり。寒疾(かんしつ)(※)有(あ)り、以(もっ)て風(ふう)す可(べ)からず。朝(ちょう)すれば将(まさ)に朝(ちょう)を視(み)んとす。識(し)らず、寡人(かじん)をして見(み)ることを得(え)しむべきや、と。対(こた)えて曰(いわ)く、不幸(ふこう)にして疾(やまい)有(あ)り、朝(ちょう)に造(いた)る能(あた)わず。

(※)王……ここでは、斉の宣王とされている。
(※)朝……臣下が君主に会うこと。
(※)就いて見るが如き……私の方から出かけて会うべき。
(※)寒疾……風邪。「疾」は病気。なお、孟子の「疾」は仮病であるが、王も仮病を口実にしているようだ。それを見抜いた孟子が、王の師たるプライドを持っていることを示したと思われる。『論語』でも聖人とされる孔子も仮病を使って、自分の気持ちを伝えるところがある。「孺悲(じゅひ)、孔子(こうし)に見(まみ)えんと欲(ほっ)す。孔子(こうし)、辞(じ)するに疾(やまい)を以(もっ)てす。命(めい)を将(おこな)う者(もの)、戸(こ)を出(い)づ。瑟(しつ)を取(と)りて歌(うた)い、之(これ)をして之(これ)を聞(き)かしむ」(陽貨第十七)。孔子を学ぶ孟子だから必要と考えるなら当然、仮病を使うときもあると考えたわけだろう。

【原文】
孟子將朝王、王使人來、曰、寡人如就見者也、有寒疾、不可以風、朝將視朝、不識、可使寡人得見乎、對曰、不幸而有疾、不能造朝。

 

2‐2 意地を通すときもある


【現代語訳】
〈前項から続いて〉。次の日、孟子は(斉の大夫である)東郭氏の家に弔問に出かけようとした。(弟子の)公孫丑は言った。「昨日は、病気だといって朝廷に出ることをお断りしてあるのに、今日は弔問に行かれれるのは、おかしくないでしょうか」。孟子は言った。「昨日は病気だったが、今日は良くなった。だから弔問には行かなくてはならないのだ」。孟子が出かけた後、王からお見舞いの使者と医者がよこされた。留守をしていた孟仲子は答えて言った。「昨日は、王から朝廷に出てくるようにと命令があったのですが、あいにく病気のため行くことができませんでした。しかし、今日は、少し良くなりましたので、急いで朝廷に向かいました。しかし、病後のことですから、うまく行けたかどうかは、私にはよくわかりません」。そして孟仲子は、数人の者をやって孟子の帰りを待ちうけさせたうえ、こう言わした。「どうか、家には帰らずに朝廷に行くようにしてください」。孟子は、家には帰れないし、かといって朝廷には行く気にはならないため、やむをえず、(斉の大夫である)景丑氏の家に行って泊まった。

【読み下し文】
明日(みょうにち)出(い)でて東郭氏(とうかくし)を弔(ちょう)せんとす。公孫丑(こうそんちゅう)曰(いわ)く、昔者(せきしゃ)(※)は辞(じ)するに病(やまい)を以(もっ)てし、今日(こんにち)は弔(ちょう)す。或(ある)いは不可(ふか)ならんか。曰(いわ)く、昔者(せきしゃ)は疾(や)みしも、今日(こんにち)は愈(い)えたり。之(これ)を如何(いかん)ぞ弔(ちょう)せざらんや。王(おう)、人(ひと)をして疾(やまい)を問(と)い、医(い)をして来(き)たらしむ。孟仲子(もうちゅうし)(※)対(こた)えて曰(いわ)く、昔者(せきしゃ)王(おう)命(めい)ありしも、采薪(さいしん)の憂(うれ)い(※)有(あ)りて、朝(ちょう)に造(いた)ること能(あた)わざりき。今(いま)は病(やまい)少(すこ)しく愈(い)えたり。趨(はし)りて朝(ちょう)に造(いた)れり。我(われ)識(し)らず、能(よ)く至(いた)れりや否(いな)やを。数人(すうにん)をして路(みち)に要(よう)せしめ(※)て曰(いわ)く、請(こ)う、必(かなら)ず帰(かえ)ること無(な)くして、朝(ちょう)に造(いた)れ。已(や)むことを得(え)ずして景丑(氏(けいちゅうし)に之(ゆ)きて宿(しゅく)せり。

(※)昔者……ここでは昨日のこと。「きのう」と読む人もある。
(※)孟仲子……孟子の従兄弟であり、弟子でもあったとされている。孟子の子という説もある。
(※)采薪の憂い……病気。病気になって自ら薪をとることができないこと、つまり病気になること(朱子説)。ほかにも薪をとる労働をしたために疲れたこととする説もある。
(※)要せしめ……待ちうけさせ。

【原文】
明日出弔於東郭氏、公孫丑曰、昔者辭以病、今日弔、或者不可乎、曰、昔者疾、今日愈、如之何不弔、王、使人問疾、醫來、孟仲子對曰、昔者有王命、有采薪之憂、不能造朝、今病小愈、趨造於朝、我不識、能至否乎、使數人要於路曰、請、必無歸、而造於朝、不得已而之景丑氏宿焉。

 

2‐3 自分の行動は根拠のある強い信念からである


【現代語訳】
〈前項から続いて〉。景子は言った。「内にあっては父子の関係、外にあっては君臣の関係、この二つは人の道で最も大切な道徳です。父子においては恩を主として、君臣の間では敬を主とします。私(丑)は、(斉)王が先生を敬しているのを見ました。しかし、先生が王を敬しているところは見ていません」。孟子は言った。「ああ、これは何ということを言われるのか。斉の人は誰も仁義の道をとって王と話す人はないのですか。まさか仁義の道をつまらないものと考えてのことではないでしょうね。しかし、斉の人たちの心のなかでは、『この王は、ともに仁義について語り合うに足る人物だろうか、そうじゃないのではないか』と思っているのではないですか。もし、そう言うのであれば、それはこれ以上の不敬はないというべきです。私は、聖王であった堯舜の道(仁義の道)でないものは、王の前では言うことがありません。だから、斉の人で、王を敬するということにおいて私よりまさる人は誰もいないでしょう」。

【読み下し文】
景子(けいし)曰(いわ)く、内(うち)は則(すなわ)ち父子(ふし)、外(そと)は則(すなわ)ち君臣(くんしん)は、人(ひと)の大倫(たいりん)(※)なり。父子(ふし)は恩(おん)を主(しゅ)とし、君臣(くんしん)は敬(けい)を主(しゅ)とす。丑(ちゅう)は王(おう)の子(し)を敬(けい)するを見(み)る。未(いま)だ王(おう)を敬(けい)する所以(ゆえん)を見(み)ざるなり。曰(いわ)く、悪(ああ)、是(こ)れ何(なん)の言(げん)ぞや。斉(せい)の人(ひと)は仁義(じんぎ)を以(もっ)て王(おう)と言(い)う者(もの)無(な)し。豈(あに)仁義(じんぎ)を以(もっ)て美(び)ならずと為(な)さんや。其(そ)の心(こころ)に曰(わく)、是(こ)れ、何(なん)ぞ与(とも)に仁義(じんぎ)を言(い)うに足(た)らんや、と。爾(しか)云(い)えば、則(すなわ)ち不敬(ふけい)是(これ)より大(だい)なるは莫(な)し。我(われ)は堯舜(ぎょうしゅん)の道(みち)に非(あら)ざれば、敢(あえ)て以(もっ)て王(おう)の前(まえ)に陳(ちん)せず。故(ゆえ)に斉(せい)の人(ひと)は我(われ)の王(おう)を敬(けい)するに如(し)く莫(な)きなり。

(※)大倫……人の道で最も大切な道徳。

【原文】
景子曰、内則父子、外則君臣、人之大倫也、父子主恩、君臣主敬、丑見王之敬子也、未見所以敬王也、曰、惡、是何言也、齊人無以仁義與王言者、豈以仁義爲不美也、其心曰是何足與言仁義也、云爾、則不敬莫大乎是、我非堯舜之道、不敢以陳於王前、故齊人莫如我敬王也。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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