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第48回

114〜115話

2021.06.01更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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7‐1 師でも疑問を尋ねる


【現代語訳】
孟子が斉にいたとき(客卿であったとき)、母が斉の地で死んだので、魯に帰って母の葬儀をした。葬儀が終わって、斉に戻る途中、嬴という村に滞在した。そのとき、(弟子の)充虞が孟子に尋ねた。「先日は、ふつつか者の私にもかかわらず、棺椁(かんかく)をつくることの世話役をさせてくださいました。そのときは、何分取り込んでいたのでお伺いすることを差し控えました。今となっては、少し聞きたいことがあります。それは、棺椁をつくる木材がずいぶん立派すぎたのではないかということです」。

【読み下し文】
孟子(もうし)斉(せい)より魯(ろ)(※)に葬(ほうむ)る。斉(せい)に反(かえ)り嬴(えい)に止(とど)まる。充虞(じゅうぐ)請(こ)いて曰(いわ)く、前日(ぜんじつ)は虞(ぐ)の不肖(ふしょう)なるを知(し)らず、虞(ぐ)をして匠事(しょうじ)(※)を敦(おさ)め(※)しむ。厳(げん)なり。虞(ぐ)敢(あえ)て請(こ)わざりき。今(いま)願(ねが)わくは窃(ひそ)かに請(こ)うこと有(あ)らん。木(き)以(はなは)だ(※)美(び)なるが若(ごと)く然(しか)り。

(※)魯……孔子の生地で、孟子も学んだ場所である。孟子の故郷は隣の小国鄒であるが、祖先は魯の孟孫子であるとされているので、確たる証拠はないがその郷里の魯に帰ったとも思われる。
(※)匠事……棺椁(内棺と外棺)をつくること。
(※)敦め……世話役をする。
(※)以だ……ずいぶん。なお、梁恵王(下)第十六章でも見たように、孟子の母への葬儀が、前に死んだ父のときよりかなり立派だったのではないかとの批判話は有名であったようだ。いつでも(現在も)そうだが、どんな点でもそれをうまくあげつらって足を引っぱりたい人たちは存在するものである。その噂話を信じ、弟子の充虞が孟子に尋ねたのである。『孟子』全体にこうした弟子たちの師への率直な疑問を尋ねる話が多いのであるが、それだけ風通しの良い師弟関係だったとも言えよう。

【原文】
孟子自齊葬於魯、反於齊、止於嬴、充虞請曰、前日不知虞之不肖、使虞敦匠、事嚴、虞不敬請、今願竊有請也、木若以美然。

 

7‐2 葬儀についての考え方


【現代語訳】
〈前項から続いて〉。孟子は言った。「大昔は、内棺も外棺も寸法の決まりはなかった。中古になって内棺は厚さ七寸で外棺はこれに合わせてつくるようにと決めた。このことは天子から庶民まで、同じであった。このように棺を厚くするということは、ただ外観が立派であるというだけでない。それは人の子たる者の親への気持ちを表し尽くすものであった。決まりで、立派な棺をつくることができないとなれば、子の心として気持ちが満足できない。決まりではよくても、財産がなくては、やはり立派な棺をつくることはできなくて、子の心は満足できない。決まりでも許されて、つくるだけの立派な資材も手に入れられるのなら、昔の人は皆立派な棺椁をつくった。どうして自分だけがこれをしないでおられようか。そのうえ、死者のために棺椁を厚くして、土を死者の肌に近づけないようにすることは、人の心において気持ちの良いことではなかろうか。私は次のようなことを聞いている。『君子は、天下のためになるからといって、親の喪に倹約はしないものだ』と」。

【読み下し文】
曰(いわ)く、古(いにしえ)は棺椁(かんかく)(※)度(ど)無(な)し(※)。中古(ちゅうこ)は棺(かん)七寸(しちすん)、椁(かく)之(これ)に称(かな)う。天子(てんし)より庶人(しょじん)に達(たっ)す。直(ただ)に観(かん)の美(び)を為(な)すのみに非(あら)ざるなり。然(しか)る後(のち)人(ひと)の心(こころ)を尽(つ)くすなり。得(え)ざれば以(もっ)て悦(よろこ)びを為(な)すべからず。財(ざい)無(な)ければ(※)以(もっ)て悦(よろこ)びを為(な)すべからず。之(これ)を得(え)て財(ざい)有(あ)りと為(な)さば、古(いにしえ)の人皆之(ひとみなこれ)を用(もち)う。吾(わ)れ何(なん)為(す)れぞ独(ひと)り然(しか)らざらん。且(か)つ化者(かしゃ)(※)の比(ため)に(※)、土(つち)をして膚(はだ)に親(ちか)らしむる無(な)きは、人(ひと)の心(こころ)に於(お)いて独(ひと)り恔(こころよ)きこと無(な)からんや。吾(わ)れ之(これ)を聞(き)く、君子(くんし)は天(てん)下(か)を以(もっ)て(※)其(そ)の親(おや)に倹(けん)せず、と。

(※)棺椁……「棺」は内棺、「椁」は外棺。
(※)度無し……寸法の決まりはない。
(※)財無ければ……財産がなくては。「財」を材木とし、「ざいもく」と読む説も多い。ただ、財産と読むのが素直だし、梁恵王(下)第十六章の話との関係からも、財産とするほうがわかりやすい。
(※)化者……死者。
(※)比に……ために(梁恵王(上)第五章参照)。なお、これに対し、「比」を「までに」と読む説(伊藤仁斎など)もある。
(※)天下を以て……天下のために。

【原文】
曰、古者棺椁無度、中古棺七寸、椁稱之、自天子逹於庶人、非直爲觀美也、然後盡於人心、不得不可以爲悦、無財不可以爲税、得之爲有財、古之人皆用之、吾何爲獨不然、且比化者、無使土親膚、於人心獨無恔乎、吾聞之、君子不以天下儉其親。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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