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第76回

179〜180話

2021.07.09更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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5‐1 まずは自分の身を治めることが肝心


【現代語訳】
孟子は言った。「人がいつも口にする言葉がある。皆は言う、『天下国家』と。しかし、天下の本は一国にある。国の本は一家にある。一家の本は一身にある」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、人(ひと)恒(つね)の言(げん)有(あ)り。皆(みな)曰(いわ)く、天下(てんか)国家(こっか)、と。天下(てんか)の本(もと)は国(くに)(※)に在(あ)り。国(くに)の本(もと)は家(いえ)に在(あ)り。家(いえ)の本(もと)は身(み)(※)に在(あ)り。

(※)国……ここの場合は、諸侯の国という意味であろう。諸侯の国々が集まって天下を成している。当時、中国社会が世界のほとんどと考えられていたので、中国全体イコール天下だったのであろう。
(※)身……ここの場合は、我が身ということである。なお、本章は、儒教のいわゆる修己治人を言っており、『大学』にある「修身、斉家、治国、平天下」と同趣旨のものである。『大学』は、曾子の作といわれてきたが、実は後の漢時代に書かれたものといわれ、孟子のこの文を整理し、理論づけしたものと解される。孔子も『論語』で次のように言っていた。「或(あ)るひと孔子(こうし)に謂(い)いて曰(いわ)く、子(し)は奚(なん)すれぞ政(まつりごと)を為(な)さざるや、と。子(し)曰(いわ)く、書(しょ)に云(い)う、孝(こう)なるか惟(こ)れ孝(こう)、兄弟(けいてい)に友(ゆう)なり、有政((ゆうせい)に施(ほどこ)す、と。是(こ)れ亦(ま)た政(まつりごと)を為(な)すなり。奚(なん)すれぞ其(そ)れ政(まつりごと)を為(な)すことを為(な)さんや」(為政第二)。「子(し)曰(いわ)く、苟(いやし)くも其(そ)の身(み)を正(ただ)しくせば、政(まつりごと)に従(したが)うに於(お)いて何(なに)か有(あ)らん。其(そ)の身(み)を正(ただ)しくするに能(あた)わずんば、如何(いかん)ぞ人(ひと)を正(ただ)さん」(子路第十三)。

【原文】
孟子曰、人有恒言、皆曰、天下國家、天下之本在國、國之本在家、家之本在身。

 

6‐1 正しい行いをすれば、おのずと慕われるようになる


【現代語訳】
孟子は言った。「君主が政治をするということは、そう難しいことではない。自分の身を正しく修めることで、代々続いている重臣たちから怨みや怒りを受けないようにすればよいのだ。重臣たちが心服し慕うようであれば、一国の人々も皆慕うようになるからである。一国の人々が慕うようになれば、天下も慕うようになるものだ。このように、まるで水が溢れ流れていくように、我が身の徳は重臣たちに、重臣たちから一国中の人々に、一国の人々から天下の人々に伝わり、教化されていくのである」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、政(まつりごと)を為(な)すことは難(かた)からず。罪(つみ)を巨室(きょしつ)(※)に得(え)ざれ。巨室(きょしつ)の慕(した)う所(ところ)は、一国(いっこく)之(これ)を慕(した)う。一国(いっこく)の慕(した)う所(ところ)は、天下(てんか)之(これ)を慕(した)う。故(ゆえ)に沛然(はいぜん)(※)として徳(とく)教(きょう)四海(しかい)に溢(あふ)る。

(※)巨室……代々続いている重臣。
(※)沛然……水が溢れ流れていくように。

【原文】
孟子曰、爲政不難、不得罪於巨室、巨室之所慕、一國慕之、一國之所慕、天下慕之、故沛然德教溢乎四海。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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