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第140回

334話〜335話

2021.10.14更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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7‐3 五ヵ条を犯した今の諸侯は覇者の罪人である

【現代語訳】
〈前項から続いて孟子は言った〉。「五人の覇者のなかでは、(斉の)桓公のときが一番盛んであった。桓公が主催した葵丘の会合では、諸侯が集まって、犠牲(いけにえ)は縛ったままにし、その上に誓約書を載せただけで、犠牲を殺して血をすするまでもなく、一同で誓約した。その誓約書は次のような内容となっている。
第一条 親不孝者は誅罰し、一度決めた世継ぎは変えない。妾を本妻としてはならない。
第二条 賢者を尊び、才能ある者を育成して、有徳者を表彰せよ。
第三条 老人を敬い、幼い者をいつくしみ、賓客や旅人を粗略に扱わない。
第四条 士は官職を世襲させない。官職は兼任させてはならない。必ず立派な士を採用せよ。勝手に大夫を殺してはならない。
第五条 堤防を曲げてつくってはならない。他国の買い入れ米を妨害してはならない。臣下に領地を与えたら必ず報告しなければならない。
以上の五ヵ条を誓い、そして言った。『すべて我が同盟の人たちは、すでにこの誓いをなしたのであり、お互いに仲良くしていこう』と。ところが、今の諸侯は、この五ヵ条を犯している。だから、今の諸侯は、五覇の罪人というべきなのである」。

【読み下し文】
五覇(ごは)は、桓公(かんこう)を盛(さか)んなりと為(な)す。葵丘(ききゅう)(※)の会(かい)に、諸侯(しょこう)牲(せい)(※)を束(つか)ね、書(しょ)を載(の)せて、血(ち)を歃(すす)らず(※)。初命(しょめい)に曰(いわ)く、不孝(ふこう)を誅(ちゅう)せよ。樹子(じゅし)(※)を易(か)うること無(な)かれ。妾(しょう)を以(もっ)て妻(さい)と為(な)すこと無(な)かれ。再命(さいめい)に曰(いわ)く、賢(けん)を尊(たっと)び才(さい)を育(やしな)い、以(もっ)て有(ゆう)徳(とく)を彰(あら)わせ。三命(さんめい)に曰(いわ)く、老(ろう)を敬(うやま)い幼(よう)を慈(いつく)しみ、賓(ひん)旅(りょ)(※)を忘(わす)るること無(な)かれ。四命(しめい)に曰(いわ)く、士(し)は官(かん)を世〻(よよ)にすること無(な)かれ。官(かん)の事(こと)は摂(せっ)しむること無(な)かれ。士(し)を取(と)ること必(かなら)ず得(え)よ。専(ほしいまま)に大夫(たいふ)を殺(ころ)すこと無(な)かれ。五命(ごめい)に曰(いわ)く、防(つつみ)(※)を曲(ま)ぐること無(な)かれ。糴(かいよね)(※)を遏(とど)むること無(な)かれ。封(ほう)ずること有(あ)りて告(つ)げざること無(な)かれ。曰(いわ)く、凡(およ)そ我(わ)が同(どう)盟(めい)の人(ひと)、既(すで)に盟(ちか)うの後(のち)、言(ここ)に(※)好(よしみ)に帰(き)せん、と。今(いま)の諸侯(しょこう)は、皆(みな)此(こ)の五禁(ごきん)を犯(おか)せり。故(ゆえ)に曰(いわ)く、今(いま)の諸侯(しょこう)は、五覇(ごは)の罪人(ざいにん)なり。

(※)葵丘……今の江南省にある地名。
(※)牲……犠牲(いけにえ)。
(※)歃らず……すすらない。
(※)樹子……世つぎ。世子。
(※)賓旅……賓客と旅人。
(※)防……つつみ。堤防。吉田松陰は、「この一句(いっく)、防(つつみ)のみに非(あら)ず、すべて己(おのれ)を利(り)し人(ひと)を害(がい)することをなすなかれ」という意味であるとする(『講孟箚記』)。
(※)糴……「てき」とも読む。米などの穀物を買い入れること。
(※)言に……「ここに」と読んで、助語と解する。「げん」と読んで誓約の言とする説もある。

【原文】
五霸、桓公爲盛、葵丘之會、諸侯束、牲載書、而不歃血、初命曰、誅不孝、無易樹子、無以妾爲妻、再命曰、尊賢育才、以彰有德、三命曰、敬老慈幼、無忘賓旅、四命曰、士無世官、官事無攝、取士必得、無專殺大夫、五命曰、無曲防、無遏糴、無有封而不吿、曰、凡我同盟之人、既盟之後、言歸于好、今之諸侯、皆犯此五禁、故曰、今之諸侯、五霸之罪人也。

7‐4 今の大夫は今の諸侯の罪人である

【現代語訳】
〈前項から続いて孟子は言った〉。「君の悪事をいさめることもなく、かえって増長させているのは、臣下として罪ではあるものの、その罪はまだまだ小さい。しかし、君の悪心をそそのかして、導き出させることは、罪が大きい。今の大夫は皆君の悪心を導き出している。だから、今の大夫は、今の諸侯に対しての罪人というべきである」。

【読み下し文】
君(きみ)の悪(あく)を長(ちょう)ずる(※)は、其(そ)の罪(つみ)小(しょう)なり。君(きみ)の悪(あく)を逢(むか)うるは、其(そ)の罪(つみ)大(だい)なり。今(いま)の大夫(たいふ)は、皆(みな)君(きみ)の悪(あく)を逢(むか)う。故(ゆえ)に曰(いわ)く、今(いま)の大夫(たいふ)は、今(いま)の諸侯(しょこう)の罪人(ざいにん)なり。

(※)長ずる……増長させる。

【原文】
長君之惡、其罪小、逢君之惡、其罪大、今之大夫、皆逢君之惡、故曰、今之大夫、今之諸侯之罪人也。


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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