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第91回

220〜222話

2021.08.02更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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13‐1 親孝行は当たり前のことであり、親の葬儀は大事な節目である


【現代語訳】
孟子は言った。「親の生存中に、孝養を尽くすことは当然であるが、これは平常の道徳であってそれほど大事とするにはあたらない。ただ、親が死に、その葬儀をするのは人生の大事にあたるものである」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、生(せい)を養(やしな)うは、以(もっ)て大(だい)事(じ)に当(あ)つる(※)に足(た)らず。惟(ただ)死(し)を送(おく)るは、以(もっ)て大事(だいじ)に当(あ)つべし。

(※)大事に当つる……大事とする。本文のように解釈するのが通説。これに対して、江戸時代前期の儒学者・思想家である伊藤仁斎は、次のように解釈する。「自分の命を大切に思い守りたがる者には大事を任せられない。ただ、死ぬことを恐れない(君のため、国のために奉げる)者に、大事を任せられる」(野中訳)。「当つる」は「当たる」と読み、任せるの意味だとする。西郷隆盛の有名な言葉にも「命(いのち)もいらず、名(な)もいらず、官位(かんい)も全(すべ)ていらぬ人(ひと)は、仕末(しまつ)に困(こま)るものなり。この仕末(しまつ)に困(こま)る人(ひと)ならでは、艱難(かんなん)を共(とも)にして国家(こっか)の大業(たいぎょう)は成(な)し得(え)られるなり」というのがある。この仁斎解釈は、面白いが(かつ成り立ち、説得力もあるが)、日本人の好みに合わせたものと解される。

【原文】
孟子曰、養生者、不足以當大事、惟送死、可以當大事。

 

14‐1 自得したことが何をするにも根源となる


【現代語訳】
孟子は言った。「君子がいろいろな方法を尽くして深く道を追求していくのは、道徳の正しい真実の道を自得したいと思うからである。その道が自得できれば、自分自身が安定し、ぐらつくことはない。こうして安定すれば、その道を自分の深いよりどころとすることができる。深いよりどころがあれば、左から右から問題がどんどん出てきても、その根源の道にあてはめられる。ゆえに君子はまず道を自得しようと思うのである」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、君子(くんし)の深(ふか)く之(これ)に造(いた)る(※)に道(みち)を以(もっ)てするは(※)、其(そ)の之(これ)を自得(じとく)せんことを欲(ほっ)すればなり。之(これ)を自得(じとく)すれば、則(すなわ)ち之(これ)に居(お)ること安(やす)し。之(これ)に居(お)ること安(やす)ければ、則(すなわ)ち之(これ)に資(と)ること深(ふか)し。之(これ)に資(と)ること深(ふか)ければ、則(すなわ)ち之(これ)を左右(さゆう)に取(と)りて其(そ)の原(みなもと)に逢(あ)う(※)。故(ゆえ)に君子(くんし)は其(そ)の之(これ)を自得(じとく)せんことを欲(ほっ)するなり。

(※)深く之に造る……深く道を追求していく。
(※)道を以てするは……この「道」は方法の意味である。
(※)左右に取りて、其の原に逢う……左から右から問題がどんどん出てきても、その根源の道にあてはめられる。なお、「左右逢原(さゆうおうげん)」という四字熟語が使われることがあるが(中国ではよく使われるようである)、ここにその語源がある。

【原文】
孟子曰、君子深造之以道、欲其自得之也、自得之、則居之安、居之安、則資之深、資之深、則取之左右、逢其原、故君子欲其自得之也。

 

15‐1 詳しく学ぶのは、正しい要点を理解するためである


【現代語訳】
孟子は言った。「広く学んで、こと細かに説明するのは、自分の博学をひけらかすためでなく、道理の根本に立ち返って正しい要点を説明するためのものであることを忘れてはならない」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、博(ひろ)く学(まな)んで詳(つまび)らかに之(これ)を説(と)くは、将(まさ)に以(もっ)て反(かえ)りて(※)約(やく)(※)を説(と)かんとすればなり。

(※)反りて……道理の根本に立ち返って。
(※)約……要点。なお、吉田松陰は本章について「大抵(たいてい)、博(はく)より約(やく)に帰(き)し、約(やく)より博(はく)に至(いた)る。二(ふた)つの者(もの)、常(つね)に相(あい)待(ま)ちて功(こう)をなす」とする(『講孟箚記』)。つまり、広く詳しく学び知識を得ていくことは、物事に対処できる意味を持つ正しい要点を導き出すためである「博(広く学ぶ)」と「約(要点を導き出す)」の二つが相まって、意味ある考察、学問ができるというのだ。つまり、『孟子』を詳しく学ぶのは、「誠」の大切さや王道主義、性善説、孔子の教えの正しさを学ぶためであるが、その要点は、また『孟子』を詳しく学んでいくための指針ともなると考える。

【原文】
孟子曰、愽學而詳説之、將以反説約也。


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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