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全文完全対照版 老子コンプリート 野中根太郎 訳

第39回

法本第三十九

2019.01.30更新

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日本人の精神世界に多大な影響を与えた東洋哲学の古典『老子』。万物の根源「道」を知れば「幸せ」が見えてくる。現代の感覚で読める超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
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法本第三十九

39 低があるから高がある

【現代語訳】

「一」は唯一の根源である「道」と一体のことをいう。その「一」を昔から得た者を見てみよう。天は「一」を得てどこまでも清く、地は「一」を得て安寧(あんねい)(安らか)であり、神は「一」を得て霊妙であり、谷は「一」を得て水が満ち、万物は「一」を得て生まれ、諸侯や王たちは「一」を得て天下の長となった。このようにすべての根源となるものは「一」なのである。
もし天が清くなかったら、裂けてしまうであろう。もし地が安寧でなければ、崩れてしまうであろう。もし神が霊妙でなければ、力はなくなってしまうであろう。もし谷が水で満ちなければ、涸(か)れてしまうであろう。もし万物が生まれなくなると、すべては滅びることになろう。もし諸侯や王たちが、天下の長としての役割を果たせないと、倒れてしまうことになろう。
したがって貴いものは賤(いや)しいものを根本としており、高いものは、低いものを基本としている。だから諸侯や王たちは、自らを称するときに、「弧(孤児)」とか、「寡(一人者)」とか「不穀(ろくでなし)」とへりくだっていうのである。これは貴いものは、賤しいものを根本としているからではないか。そうではないか。
だからたびたび栄誉を求めて高貴になろうとすると、かえって栄誉を失うことになるのだ。美しい宝石のようであろうとしたり、つまらない石のようであろうとするのは、どちらも望むことではない(どちらももとは同じなのだ)。

【読み下し文】

昔(むかし)の一(いつ)(※)を得(え)る者(もの)、天(てん)は一(いつ)を得(え)て以(もっ)て清(きよ)く、地(ち)は一(いつ)を得(え)て以(もっ)て寧(やす)く、神(しん)は一(いつ)を得(え)て以(もっ)て霊(れい)に、谷(たに)は一(いつ)を得(え)て以(もっ)て盈(み)ち、万物(ばんぶつ)は一(いつ)を得(え)て以(もっ)て生(しょう)じ、侯王(こうおう)は一(いつ)を得(え)て以(もっ)て天下(てんか)の貞(てい)(※)と為(な)る。其(そ)のこれを致(いた)すは一(いつ)なり(※)。
天(てん)は以(もっ)て清(きよ)きこと無(な)ければ、将(まさ)に恐(おそ)らくは裂(さ)けん。地(ち)は以(もっ)て寧(やす)きこと無(な)ければ、将(まさ)に恐(おそ)らくは発(くず)(※)れん。神(しん)は以(もっ)て霊(れい)なること無(な)ければ、将(まさ)に恐(おそ)らくは歇(や)(※)まん。谷(たに)は以(もっ)て盈(み)つること無(な)ければ、将(まさ)に恐(おそ)らくは竭(つ)(※)きん。万物(ばんぶつ)は以(もっ)て生(しょう)ずること無(な)ければ、将(まさ)に恐(おそ)らくは滅(ほろ)びん。侯王(こうおう)は以(もっ)て貞(てい)なること無(な)ければ(※)、将(まさ)に恐(おそ)らくは蹶(たお)れん。
故(ゆえ)に貴’とうと)きは賤(いや)しきを以(もっ)て本(もと)と為(な)し、高(たか)さは下(ひく)きを以(もっ)て基(もとい)と為(な)す。是(ここ)を以(もっ)て侯王(こうおう)は自(みずか)ら弧(こ)、寡(か)、不穀(ふこく)と謂(い)う。此(こ)れ賤(いや)しきを以(もっ)て本(もと)と為(な)す耶(や)、非(ひ)なる乎(か)。
故(ゆえ)に数〻(しばしば)誉(ほ)むるを致(いた)さば誉(ほまれ)無(な)し。琭琭(ろくろく)(※)として玉(たま)の如(ごと)く、珞珞(らくらく)(※)として石(いし)の如(ごと)きを欲(ほっ)せず。

  • (※)一……「道」のこと。能爲第十、益謙第二十二参照。一というと根源とか、始まりを指しているようなニュアンスがある。つまり、発展性と根源のバランスを感じるが、結局それは根源たる「道」につながる。同じものであるということになろう。
  • (※)貞……万民の長のこと。なお、『帛書』では「正」とあるが、意味はほぼ同じであろう。
  • (※)其のこれを致すは一なり……一なり(原文は「一也」)については、これを入れるのが通説。「一也」をはずす説もある。
  • (※)発……崩れること。
  • (※)歇……消失するの意味。力がなくなる。
  • (※)竭……尽きるの意味。涸れてしまう。
  • (※)侯王は以て貞なること無ければ……「貞」の字を「貴高」とするのが通説ではあるが、すると上文と合わなくなるので「貞」と解したい。
  • (※)琭琭……玉の美しいさま。
  • (※)珞珞……石の硬いさま。

【原文】

法本第三十九

昔之得一者、天得一以淸、地得一以寧、神得一以靈、谷得一以盈、萬物得一以生、侯王得一以爲天下貞。其致之一也。
天無以淸、將恐裂。地無以寧、將恐發。神無以靈、將恐歇。谷無以盈、將恐竭。萬物無以生、將恐滅。侯王無以貞、將恐蹶。
故貴以賤爲本、高以下爲基。是以侯王自謂孤・寡・不穀。此非以賤爲本耶、非乎。
故致數譽無譽。不欲琭琭如玉、珞珞如石。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術-相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(共に誠文堂新光社)などがある。

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