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孫子コンプリート 全文完全対照版 野中根太郎 訳

第24回

67話~69話

2018.02.16更新

読了時間

【 この連載は… 】 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孫子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。

67 敵情を見抜く

【現代語訳】

砂塵が高く上がり前方がとがっているのは、敵の戦車が攻めてくるからである。
砂塵が低く広がっているのは、敵の歩兵がやってくるからである。
砂塵がばらばらに上がり、ところどころで細長く動くのは、敵が薪を集めているからである。砂塵が少しだけあがって行ったり来たりするのは、敵が軍営をつくろうとしているからである。
敵の使者の言葉がへりくだっているのに、その防備を強化しているのは、進撃の準備をしているのである。敵の使者の言葉が強気で進撃してくるかのようにしているのは、退却しようとしているからである。
敵の軽戦車が前に出て両側面に配置されているのは、陣を構えて戦機をうかがおうとしているのである。
敵が困っている状況でもないのに講和を申し入れてくるのは、何か謀略があるはずである。
敵が慌ただしく走りまわって軍隊を配置しているのは、近く決戦しようと準備しているのである。
敵の軍隊が半分進んだり、半分退いたりしているのは、こちらを誘っているためである。

【読み下し文】

塵(ちり)高(たか)くして鋭(するど)きは、車(くるま)来(き)たるなり。卑(ひく)くして広(ひろ)きは、徒(と)来(き)たるなり。散(さん)じて条達(じょうたつ)(※)するは、憔採(しょうさい)するなり。少(すく)なくして往来(おうらい)するは、軍(ぐん)を営(いとな)むなり。辞(じ)卑(ひく)(※)くして備(そな)えを益(ま)すは、進(すす)むなり。辞(じ)強(つよ)(※)くして進駆(しんく)するは、退(しりぞ)くなり。軽車(けいしゃ)先(さき)に出(い)でて其(そ)の側(かたわら)に居(お)るは、陣(じん)するなり。約(やく)(※) 無(な)くして和(わ)を請(こ)うは、謀(はか)るなり。奔走(ほんそう)して兵(へい)(※)を陳(つら)ぬるは、期(き)するなり。半進半退(はんしんはんたい)するは、誘(いざな)うなり。

  • (※)条達……細長い、砂塵の筋。
  • (※)辞卑……「辞」は言葉のこと。「卑(ひ)」はいやしい、低いこと。ここではわざとへりくだったことを指し、ごまかそうとすることをいう。
  • (※)辞強……「辞」は言葉。「強」はここでは強気のこと。ここでは強気の言葉と態度をわざと示すことを指している。
  • (※)約……約窮、困窮の意味。
  • (※)兵……単に「兵」とする説と「兵車」とする説がある。本書では前説にしたがった。どちらも意味が通る。後説だと「戦車を配置しているのは」と訳することになる。

【原文】

塵高而銳者、車來也、卑而廣者、徒來也、散而條逹者、樵採也、少而徃來者、營軍也、辭卑而益備者、進也、辭彊而進驅者、退也、輕車先出居其側者、陳也、無約而請和者、謀也、奔走而陳兵車者、朞也、半進半退者、誘也、

68 敵の疲労を見抜く

【現代語訳】

兵士が杖をついて立っているのは、飢えているからである。
水を汲んだ兵士が自分からすぐ飲むのは、水が不足しているからである。
有利とわかっても進撃してこないのは、兵士が疲労しているからである。
鳥が集っているのは、そこ(敵の軍営)に兵士がいないからである。
夜に敵陣から大声が出るのは、恐怖を感じている(動揺している)からである。
軍が乱れ、騒々しいのは、将軍の威厳がなくなっているからである。
軍旗が不必要にやたらと動くのは、秩序が乱れているからである。

【読み下し文】

杖(つえ)つきて立(た)つは、飢(う)うるなり。汲(く)みて先(ま)ず飲(の)むは、渇(かっ)するなり。利(り)を見(み)て進(すす)まざるは、労(つか)るるなり。鳥(とり)集(あつ)まるは、虚(むな)しきなり。夜(よる)呼(よ)ぶは、恐(おそ)るるなり。軍(ぐん)擾(みだ)るるは、将(しょう)重(おも)からざるなり。旌旗(せいき)動(うご)くは、乱(みだ)るるなり。

【原文】

杖而立者、飢也、汲而先飮者、渴也、見利而不進者、勞也、鳥集者、虛也、夜呼者、恐也、軍擾者、將不重也、旌旗動者、亂也、

69 敵の混乱を見抜く

【現代語訳】

部将が兵士たちにむやみに怒っているのは、兵士たちが戦いに倦(う)み疲れ、士気をなくしている証拠である。
兵の食糧を軍馬に食べさせ、輜重車を引く牛を殺して兵の食糧にし、鍋や釜は壊してしまって兵舎にかけることもない。そうしながら兵舎にも戻らないのは、進退窮まった軍隊だからである。
部将がねんごろで下手に出ながら兵士に話しかけているのは、部下の信望を失っているからである。
やたらと兵士に褒賞(ほうしょう)を与えているのは、なす術がなくなっているからである。同じくやたらと罰を与えるのも、行き詰まってどうしようもなくなっているからである。
始めは兵士を乱暴に扱っておきながら、後に離反を恐れるというのは、極めていい加減な上官である。
敵の使者がやってきて謝罪をし、礼を尽くすのは、しばらく休戦して兵士を休ませたいと望んでいるからである。
敵の兵が気勢をあげて出陣したのに、いっこうに戦おうとせず、かといって退こうともしないのは、何か訳があるので必ず慎重に観察して状況を見定めないといけない。

【読み下し文】

吏(り)(※)怒(いか)るは、倦(う)みたるなり。馬(うま)に(ぞく)して肉(にく)食(しょく)し(※)、軍(ぐん)に懸缻(けんふ)(※)なくして、其(そ)の舎(しゃ)に返(かえ)らざるは、窮寇(きゅうこう)なり。諄諄翕翕(じゅんじゅんきゅうきゅう)(※)として徐(おもむろ)に人(ひと)と言(かた)るは、衆(しゅう)を失(うしな)うなり。数〻(しばしば)賞(しょう)するは、窘(くる)しむなり、数〻(しばしば)罰(ばっ)するは、困(つか)るるなり(※)。先(さき)に暴(ぼう)にして後(のち)に其(そ)の衆(しゅう)を畏(おそ)るるは、不精(ふせい)の至(いた)りなり。来(き)たりて委謝(いしゃ)(※)するは、休息(きゅうそく)を欲(ほっ)するなり。兵(へい)怒(いか)りて相(あい)迎(むか)え、久(ひさ)しくして合(あ)わず、又(また)相(あい)去(さ)らざるは、必(かなら)ず謹(つつし)みてこれを察(さっ)せよ。

  • (※)吏……本書ではわかりやすく「部将」と訳したが、これを「幹部」と訳す説もある。また、「吏」とは君主が軍の監督のために派遣した「官僚」「軍吏」と解する説も多い。
  • (※)馬に粟して肉食し……「粟」は一般に穀物の総称だが、ここでは兵士に与えられる食糧のこと。その食糧を馬に食べさせ、輜重車を引く牛を殺して食べるのは、もはや先のことを考えていないことを指している。
  • (※)懸缻……「懸」は「かける」こと。「缻」は「缶(かん)」と同じ。酒や水を入れた缶。ここでは、「もはやなす術がなく、鍋や釜などの炊事道具を捨てたり、壊したりする」を意味する。
  • (※)諄諄翕翕……「諄諄」は繰り返してねんごろに話すこと。「翕翕」は縮むこと、下手に出ること。
  • (※)困るるなり……ここでは「行き詰まってしまっている」を意味している。「困(くる)しむ」や「困(くる)しめる」と読む説もある。
  • (※)委謝……ここでの「委」は委質のことで仕官をするときに礼物をあげることをいう。「謝」は謝ること。

【原文】

吏怒者、倦也、粟馬肉⻝、軍無懸缻、不﨤其舍者、窮寇也、諄諄翕翕、徐與人言者、失衆也、數賞者、窘也、數罰者、困也、先暴而後畏其衆者、不精之至也、來委謝者、欲休息也、兵怒而相迎、久而不合、又不相去、必謹察之、


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術-相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(共に誠文堂新光社)などがある。

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