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孫子コンプリート 全文完全対照版 野中根太郎 訳

第33回

94話~96話

2018.03.01更新

読了時間

【 この連載は… 】 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孫子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。

94 将軍の治め方が大事

【現代語訳】

こうして馬を並べてつなぎとめた上で、戦車の車輪を地に埋めて防備を固めてもまだ十分でない。兵士たちを奮い立たせ一丸とするのは、まつりごと(制度の整備、法令の整備、政治指導など)のやり方による。
強い者も弱い者も力を出し切って戦うことができるようにするのは、地勢の道理による。
だから戦争をうまく行う者が、兵士の皆を一致協力させ、一つにして、一人の人間のように使えるのは、兵士がそうならざるをえないように仕向けるからである。

【読み下し文】

是(こ)の故(ゆえ)に馬(うま)を方(つな)ぎて輪(わ)を埋(うず)むるとも、未(いま)だ恃(たの)むに足(た)らざるなり。勇(ゆう)を斉(ととの)えて一(いつ)の若(ごと)くするは、政(まつりごと)の道(みち)なり。剛柔(ごうじゅう)皆(みな)得(う)るは、地(ち)の理(り)なり。故(ゆえ)に善(よ)く兵(へい)を用(もち)うる者(もの)、手(て)を攜(たずさ)(※)うること一人(いちにん)を使(つか)うが若(ごと)きは(※)、已(や)むを得(え)ざるなり。

  • (※)攜……「たずさ」と読む。「携(けい)」の本字で、手をたずさえること。
  • (※)手を攜うること一人を使うが若きは……原文にある「使」と「一」が誤倒ではないかとの説もある。その立場からは「手を攜うること一の若くするのは、人をして已むを得ざらしむるなり」と読むことになる。

【原文】

是故方馬埋輪、未足恃也、齋勇若一、政之衜也、剛柔皆得、地之理也、故善用兵者、攜手若使一人、不得已也、

95 将軍の仕事

【現代語訳】

将軍の仕事というのは、表面上は平静を装いつつ、誰にも知られないように奥深く行われ、厳正に進められていくので軍隊もうまく治まるのである。
兵の耳目をくらまして、将軍がこれから何を行おうとしているか読めないようにする。軍の計画を変更し、謀りごとを改めることで、人々には将軍の意図がわからないようにする。軍隊の駐留している場所を変え、軍隊の進む道をわざと迂回(うかい)するなどして、兵たちにも軍隊がどこに進むのかわからないようにする。

【読み下し文】

将軍(しょうぐん)の事(こと)は、静(しず)かにして以(もっ)て幽(ふか)(※)く、正(せい)にして(※)以(もっ)て治(おさ)まる。能(よ)く士卒(しそつ)の耳目(じもく)を愚(ぐ)にして、これをして知(し)ること無(な)からしむ。其(そ)の事(こと)を易(か)え、其(そ)の謀(はかりごと)を革(あらた)め、人(ひと)をして識(し)ることを無(な)からしむ。其(そ)の居(きょ)を易(か)え、其(そ)の途(みち)を迂(う)にし、人(ひと)をして慮(おもんばか)ること得(え)ざらしむ。

  • (※)幽……隠れる、暗い、奥深いなどを意味する。ここでは「奥深く」という意味。
  • (※)正にして……厳正に。公正に。正しく適切に。

【原文】

將軍之事、靜以幽、正以治、能愚士卒之耳目、使之無知、易其事、革其謀、使人無識、易其居、迂其途、使人不得慮、

96 将軍は全知全能をめざさなければならない

【現代語訳】

軍隊を率いて戦いの時が来たならば、高い所に登らせておいてから、そのはしごをはずしてしまうようにし、また軍隊を率いて諸侯の領土内に深く侵入し、戦いを始めるときには、今まで乗ってきた舟を焼き払い、食事に使っていた釜を打ち壊し(ひくにひけない状況にして)、あたかも羊の群れを追いやるように兵士を動かすが、兵士はどこに向かっているのかはわからない。
このようにして全軍の兵士を集めて、決死の覚悟を持たざるをえない危険な状況に投入する。これが将軍たる者の仕事なのである。
九地の変化(九つの地勢に応じた変化)、状況に応じた進撃や退却の利害、それらに応じておこる人情の自然の道理などについて、将軍はよくわかっていなければならない。

【読み下し文】

帥(ひき)いてこれと期(き)(※)すれば、高(たか)きに登(のぼ)りて其(そ)の梯(はしご)を去(さ)るが如(ごと)く、帥(ひき)いてこれと(※)深(ふか)く諸侯(しょこう)の地(ち)に入(い)りて、其(そ)の機(き)を発(はっ)し、舟(ふね)を焚(や)き釜(かま)を破(やぶ)り(※)、群羊(ぐんよう)を駆(か)る(※)が若(ごと)く、駆(か)られて往(ゆ)き、駆(か)られて来(き)たるも、之(ゆ)く所(ところ)を知(し)る莫(な)し。三軍(さんぐん)の衆(しゅう)を聚(あつ)めて、これを険(けん)に投(とう)ずるは、此(こ)れ将軍(しょうぐん)の事(こと)(※)と謂(い)うなり。九地(きゅうち)の変(へん)、屈伸(くっしん)の利(り)(※)、人情(にんじょう)の理(り)、察(さっ)せざるべからざるなり。

  • (※)期……決める。とき。約束する。ここでは戦いの時がきたと決断すること。戦機がきたと判断すること。
  • (※)「帥與之」(帥いてこれと)……原文にある「帥與之」の三文字は、重複だとして削除して読む説もある。
  • (※)「焚舟破釜」(舟を焚き釜を破り)……原文にある「焚舟破釜」の四文字についても古い注がまじって入ったと見て、省いて読む説がある。
  • (※)群羊を駆る……従順に動く羊の群れを追いやること。そのように軍の兵士を動かすことのたとえ。
  • (※)将軍の事……将軍の仕事。将軍の役目。なお、孫子は将軍の重要な仕事として「勢いをつける」ことを挙げている(第一章・計篇4話、第五章・勢篇参照)。ここでも「九地の変」「屈伸の利」「人情の理」を総合的に考察しながら、軍隊に「勢いをつけることが重要」と述べていると思われる。
  • (※)屈伸の利……状況に応じての進撃や退却の利害(判断)。

【原文】

帥與之期、如登高而去其梯、帥與之深入諸侯之地、而發其機、焚舟破釜、若驅羣羊、驅而徃、驅而來、莫知所之、聚三軍之衆、投之於險、此謂將軍之事也、九地之變、屈伸之利、人情之理、不可不察、


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術-相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(共に誠文堂新光社)などがある。

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