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第1回

はじめに――心に振りまわされない生き方を学ぼう!

2020.09.04更新

読了時間

  ブッダの教え(仏教)とは、私たちが「心」の正体を知って、心を正しく用いて、究極の幸福に達するための教え。ブッダが説いた「心」の仕組みをイラスト図解を交えてわかりやすく紹介します。
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生命は「心」に支配されている

 ある人がブッダ(お釈迦(しゃか)さま)に質問しました。「この世界(生命)を支配している主人は誰ですか?」ブッダは「心ですよ」と答えました。「命あるものは、心に言われるままに生きている。“心”という唯一のものに導かれ、管理され、すべてを握られているのです」と。
 いかがでしょうか? 命あるものは、心に導かれている。私たちの行動のすべては、心が主導権を握っている。このことは、私たちも日々の生活のなかで、実際に確かめられる事実・真理ではないでしょうか?
 たとえば食事のシーンを想像してみてください。何を食べるかを決めるのは心です。
 心で「パスタを食べたい」と思ったら、その人はパスタを食べます。しかし、心は「でもなあ……太るとイヤだから、豆腐サラダにしようかな」などと、絶えず揺れ動きます。「やっぱりパスタはやめておこう」と心変わりしたら、その人は心に言われたとおり、他のメニューを選ぶのです。

 食事のメニューで迷うくらいは些細なことですが、心の決定はしばしば私たちの人生を大きく左右します。心が決めたとおりに行動したために、苦労したり不幸になったりすることもあります。
 Eコマースのサイトで最新のガジェットを見つけたとします。どうしても手に入れたいと思って「買っちゃえ」と心に決めたら、もうどうしようもありません。ローンを組んででも無理に買ってしまいます。そして、あとからローン残額を見て頭を抱えるはめになるかもしれません。
「そんなことはない。私なら、たとえ気に入っても、支払いが大変と思ったら買わない。そのくらいの自制心はあるよ」とおっしゃる方もいるでしょう。その場合も、自制心を働かせたのは、その人の心なのです。

  私たち人間に限らず、生命たるものはすべて、心に命じられたら、どんなことでもやってしまう性質を持っています。まさに、この世界を支配している主人は「心」なのです。
 ですから、自分という存在について明確に理解したければ、唯一の方法は「心」について知ることです。そして、ブッダの教え(仏教)とは、私たちが「心」の正体を知って、心を正しく用いて、究極の幸福に達するための教えなのです。

仏教のアビダンマは、心について知るための学問


 仏教は、今から2600年以上前、ブッダによって開かれ、時代の流れとともにさまざまな流派に分かれて、全世界へひろまってゆきました。
 日本に伝わったのは、いわゆる「大乗仏教」です。ブッダが涅槃(ねはん)に入られてから数百年経って成立した教えで、チベットや中国、朝鮮半島を経て伝わったので北伝仏教ともいわれます。
 一方、ブッダの時代からの伝統を受け継いできた仏教を、テーラワーダ仏教(上座仏教、初期仏教)といいます。パーリ語(古代インドの言語)で“長老の(thera(テーラ))教え(vada(ワーダ))”という意味で、スリランカ、タイ、ミャンマーなどに伝わったことから南伝仏教ともいわれます。

 これから皆さんにご紹介するのは、そのテーラワーダ仏教で研究されてきたアビダンマ(論)という学問の一部です。アビダンマは、ブッダの教えをまとめた経典(経)と僧侶たちの生活規則をまとめた戒律(律)と並んで、経・律・論の三蔵のひとつに数えられています。現代風に解説すれば、経典で臨機応変に説かれたブッダの教えからエッセンスを抽出して体系化した「ブッダの実践心理学」ですね。
 現代社会の心理学は、精神的な病に陥った人々を治療したり、うまく他人を出し抜いたりするために利用されています。心理学といっても、アビダンマはそのような世界とは無縁のものです。私たちが自らの心を成長させ、智慧(ちえ)を開発して、究極の幸福にまで達するためにまとめられた、聖なる心理学なのです。

自分の心を知ることが、幸せに生きる近道

 

 アビダンマを学問として研究しようとすると、主要なテキストだけで7種類あるので大変です。秀才の僧侶が一生かけても学び尽くせないほど膨大な先行研究に圧倒されるかもしれません。しかし、私たち一人ひとりが幸福に達するために、アビダンマの学者になる必要はないのです。
 ブッダは、ご自身の教えのエッセンスを「すべての悪をやめること。善を完成すること。自分の心を清らかにすること。それがブッダたちの教えです」(ダンマパダ183偈)という短い詩にまとめられました。
 何が悪いことなのか、何が善いことなのか、心を清らかにするにはどうすればよいのか──、そのために必要なことだけを学べば、個人が幸福になるためには十分なのです。

心所(心の中身)を学びましょう

 

 この本では、アビダンマの膨大な教えのなかから、「心所(しんじょ)」という心の中身・心の成分に関する分析をご紹介します。心の中身について知るのは、自分の心を正しい方向に育てるためです。心はいつでも働いているものですが、その働きは心を構成する成分が変わることで目まぐるしく変化します。そのときそのときの心にどんな心所が混ざるかによって、心は悪に染まったり、善のエネルギーを起こしたり、智慧の開発に向けて動きだしたりするのです。
 心の中身について学ぶことで、私たちは「すべての悪をやめること。善を完成すること。自分の心を清らかにすること」というブッダのガイドラインに従って幸福への道を歩むことができるのです。

 一つひとつの心所の名称は、古い伝統を持つ仏教の専門用語です。原語のパーリ語も翻訳された漢字の単語も、皆さんにはとっつきにくいかもしれません。それでも、いとうみつるさんの楽しいイラストの力を借りながら、なるべくわかりやすく解説したいと思います。
 自分の心について理解することで、皆さんの毎日が少しでも明るく、発見に満ちたものになることを願っています。この本をお読みになって、心に関する仏教の教えやアビダンマの詳しい中身について興味を持たれた方は、アビダンマを全体的に解説した『ブッダの実践心理学 アビダンマ講義シリーズ』など、他の本にも挑戦してみてください。


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著者

アルボムッレ・スマナサーラ・著 いとうみつる・イラスト

アルボムッレ・スマナサーラ・著:スリランカ上座仏教(テーラワーダ仏教)長老。1945年、スリランカ生まれ。13歳で出家得度。国立ケラニヤ大学で仏教哲学の教鞭をとったのち、80年に国費留学生として来日。駒澤大学大学院博士課程で道元の思想を研究。現在、宗教法人日本テーラワーダ仏教協会で初期仏教の伝道と瞑想指導に従事し、ブッダの根本の教えを説きつづけている。朝日カルチャーセンター(東京)の講師を務めるほか、NHKテレビ「こころの時代」などにも出演。著書に『自分を変える気づきの瞑想法【第3版】』『ブッダの実践心理学』全8巻(藤本晃氏との共著、以上、サンガ)、『怒らないこと』『無常の見方』『無我の見方』(以上、サンガ新書)、『執着の捨て方』(大和書房)など多数。 いとうみつる・イラスト:広告デザイナーを経てイラストレーターに転身。ほのぼのとした雰囲気のなか、“ゆるくコミカル”な感覚のキャラクターが人気。おもな著書は、『栄養素キャラクター図鑑』をはじめとするキャラクター図鑑シリーズ(日本図書センター)、『ベニクラゲは不老不死』(時事通信社)、『こどもおしごとキャラクター図鑑』(宝島社)、『キャラ絵で学ぶ!仏教図鑑』、『キャラ絵で学ぶ!神道図鑑』(すばる舎)ほか多数。

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