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第3回

心の「知る」機能と「心の中身」の関係

2020.09.18更新

読了時間

  ブッダの教え(仏教)とは、私たちが「心」の正体を知って、心を正しく用いて、究極の幸福に達するための教え。ブッダが説いた「心」の仕組みをイラスト図解を交えてわかりやすく紹介します。
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心の「知る」機能と「心の中身」の関係


 ブッダは、「心が命である」ことを発見しました。
 しかし、心を発見しただけではなんの役にも立ちません。心に振りまわされないために、心の働きを分析し、心を維持管理しなくてはならないのです。それができて、はじめて私たちは幸せに生きられるのです。

 ブッダが発見した「心」は、単純なものではなく、とても複雑な構造をしています。まず、心の働きを2つに分けてみるとわかりやすいです。
 心の働きには、見る、聞く、嗅ぐ、味わうなど身体が持つ感覚器官によって「知る」機能と、心の中身によって「感じる・思う・考える」機能があります。
 たとえば目の前にケーキがあると、心は「ケーキがある」と知ります。鳥のさえずりが聞こえると、「鳥の鳴き声だ」と知ります。カレーライスのにおいがすると、「カレーライスだ」と知ります。これが心の「知る」機能です。
 しかし、知るだけでは生きられません。心には、「知る」機能と同時に、「心の中身」に従って「感じる・思う・考える」機能が働きます。
 ある人は、目の前のケーキを見て「おいしそうなケーキだな」と感じます。しかし、「まずそうなケーキだな」と感じる人もいます。同じケーキを見たのに、認識が異なりました。それは、「ケーキがある」という「知る」機能に入りこんだ「心の中身」がちがったせいです。

「心」と「心所」は切り離すことができない


 心の「知る」機能と「心の中身」は、けっして離れることがありません。
 パーリ語で「心(こころ)」を指す同義語はいくつもありますが、アビダンマでは「心(しん)」(citta(チッタ))という用語を使います。
 心の中身のことは「心所(しんじょ)」(cetasika(チェータシカ))といいます。「心にあるもの」「心によるもの」というような意味です。ここからは「心所」の語を使って、心の中身について説明します。

「心」と「心所」の関係は、水と水の成分にたとえるとわかりやすいです。
 心所とは、「心の中身」です。言い換えれば「心の成分」のようなものです。
 世の中に100%純粋な水は存在しません。水には、微量であっても必ずなんらかの成分が含まれています。水道水、海水、コーヒー、みそ汁、血液……などなど、なかに溶けている成分によって、まったくちがった水になります。

 水に毒が入ると、毒水になります。薬が入ると、薬水になります。
 水と、水に溶けている成分は、切り離せないのです。
 同様に、なかに溶けている心所によって、いろいろな心が成り立ちます。心と心所は切り離せません。純粋で混じりけのない心は存在しません。心は必ず、心所とともに生まれるのです。
 喜んだり、怒(おこ)ったり、悩んだり、悲しんだり、好きになったりするのは、心所の働きです。悲しんでいるときは、心のなかに「悲しませる心所」が生まれています。同様に、うれしい心、悔(くや)しい心、悩んでいる心など、無数の心があるように感じるのは、すべて心所がさせているのです。
 つまり、私たちが「心」と感じているのは、心所の働きなのです。

人間の価値は「心所」によって決まる


 人間の性格は、「その人の心に、どういう心所が溶けやすいか」ということで決まります。
「慈悲」の心所が溶けやすい人は、やさしい人になります。
「怒(いか)り」の心所が溶けやすい人は、怒りっぽい人になります。
 ただし、心は流動的で、常に変化しています。ですから、性格は固定されたものではありません。条件によって、ころころ変わります。
 不善(悪)の心所が溶けやすい人も、訓練すれば、善の心所を溶けやすくすることができます。たとえば、怒りっぽい人であっても「慈悲」の心所を育てると、やさしい人になります。

 ここまでの説明でおわかりのように、人間の価値は、その人の心に生じている「心所」によって決まります。
 心のなかに、清らかな善の心所があれば、皆から尊敬される人になります。ですから、私たちにとって最も大切なのは、善の心所を育てることです。

 心所は、全部で52あります。
 不善(悪)の心所は、心を暗く狭く弱くします。
 善の心所は、心を明るく広く強くします。
 ブッダが推奨する、物事をありのままに観(み)るための「ヴィパッサナー瞑想」も、善の心所を育てるための修行です(142ページ参照)。
 心を暗く狭く弱くする心所が生まれないようにし、心を明るく広く強くする心所を育てあげていく──それが、ブッダの教えの実践です。
 次章からは、52の心所を一つひとつ見ていくことによって、一般的に理解し難い「心の中身」をやさしく解説します。

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著者

アルボムッレ・スマナサーラ・著 いとうみつる・イラスト

アルボムッレ・スマナサーラ・著:スリランカ上座仏教(テーラワーダ仏教)長老。1945年、スリランカ生まれ。13歳で出家得度。国立ケラニヤ大学で仏教哲学の教鞭をとったのち、80年に国費留学生として来日。駒澤大学大学院博士課程で道元の思想を研究。現在、宗教法人日本テーラワーダ仏教協会で初期仏教の伝道と瞑想指導に従事し、ブッダの根本の教えを説きつづけている。朝日カルチャーセンター(東京)の講師を務めるほか、NHKテレビ「こころの時代」などにも出演。著書に『自分を変える気づきの瞑想法【第3版】』『ブッダの実践心理学』全8巻(藤本晃氏との共著、以上、サンガ)、『怒らないこと』『無常の見方』『無我の見方』(以上、サンガ新書)、『執着の捨て方』(大和書房)など多数。 いとうみつる・イラスト:広告デザイナーを経てイラストレーターに転身。ほのぼのとした雰囲気のなか、“ゆるくコミカル”な感覚のキャラクターが人気。おもな著書は、『栄養素キャラクター図鑑』をはじめとするキャラクター図鑑シリーズ(日本図書センター)、『ベニクラゲは不老不死』(時事通信社)、『こどもおしごとキャラクター図鑑』(宝島社)、『キャラ絵で学ぶ!仏教図鑑』、『キャラ絵で学ぶ!神道図鑑』(すばる舎)ほか多数。

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