第12回
助六
2017.12.19更新
歌舞伎を見る前に知っておきたい基礎知識として演目の種類や独特な演出の仕方から、上演頻度の高い人気演目のあらすじと鑑賞ポイントを、マンガでじっくりと解説します。
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- 作者
- 不詳
- 初演
- 一七一三(正徳三)年、江戸・山村座で二代目市川團十郎が『花館愛護桜(はなやかたあいごのさくら)』の助六を演じたのが原型と言われている。
- 概要
- 「歌舞伎十八番」の一つだが、世話物の要素を持つ。上演時間はたっぷり二時間。
町人が武士をやっつける
粋ないい男の助六はスーパーヒーロー。意地と張りを備えた揚巻は理想の恋人。江戸町人を代表する二人が、武士代表の意休をやっつける。その心地良さに江戸の観客は大喝采だっただろうと想像するのも、助六を観る楽しさの一つ。
助六は和事(わごと)も備えた役柄
二代目團十郎が活躍した当時、「團十郎といえば荒事」というイメージがあったが、二代目はあえて和事のエッセンスを加えた。例えば出端(では)(登場が独立した見せ場になっていること)の振りのやわらかさに、和事を兼ね備えた性格が見られる。
本名題と出端の音楽は家で違う
市川團十郎家が助六を務めるときの本名題は『助六縁江戸桜』で、出端の音楽は河東節(かとうぶし)。尾上菊五郎家は『助六曲輪菊(すけろくくるわのもよぐさ)』で清元節、松本幸四郎家は『助六曲輪江戸櫻(すけろくくるわのえどざくら)』で長唄となる。河東節が演じられる場合、幕開きは口上から始まる。
個性的なキャラが次々登場
ただの憎まれ役ではない大人の風格を感じる意休。おっとりした和事の役柄だが、お茶目な一面もある白酒売り(実は兄十郎)。いばりキャラなのに憎めない、くわんぺら門兵衛など、魅力的なキャラばかり。随所に笑いのある、飽きない二時間だ。
鉢巻の結び方でキャラを表現(※1)
紫色の鉢巻きを左側に巻くことを病鉢巻(やまいはちまき)と呼び、病んだ状態を表す。助六は逆の右側に巻くことで、奇抜ないでたちでかぶき者(アウトロー)の粋を表している
宣伝マンを兼ねていた!?
意休の手下・朝顔仙平(あさがおせんべい)は、十七世紀後半に確立した「道化方(どうけがた)」と呼ばれる笑いを誘う役柄。髪型から着物まで朝顔づくしなのは、初演当時に実在した「朝顔せんべい」の宣伝用。朝顔仙平の役名も、ここからきている。
通人(つうじん)・里暁(りぎょう)はアドリブOK
助六と白酒売りが、通人にケンカを売って股くぐりを強要するところは、息抜き的な場面。この役はアドリブで何をしゃべってもいいことになっており、通人役の役者はそれぞれ工夫して観客を笑わせる。
紙衣(かみこ)(※2)
紙で作った着物。助六が激しいケンカをしないよう気遣う母・満江(まんこう) の思いが込められている。
その後のあらすじ
現在はほとんど上演されない、最後の<水入(みずいり)の場>。意休を切った助六は天水桶(てんすいおけ)(防火用水)の中に隠れる。出てきて気を失った助六を揚巻が介抱する。追手(おって)が来て、助六と揚巻による引っ張りの見得で幕。
助六寿司は助六が由来 !?
「いなり寿司」は揚巻の揚げ、「巻き寿司」は揚巻の巻きにちなみ、「助六寿司」と呼ぶのは江戸っ子らしい洒落(しゃれ)という説がある。また、助六が紫の鉢巻きを巻いていることから助六を「巻き寿司」に見立て、二人を寿司で添い遂げさせたという説もある。
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