第8回
勧進帳
2017.11.21更新
歌舞伎を見る前に知っておきたい基礎知識として演目の種類や独特な演出の仕方から、上演頻度の高い人気演目のあらすじと鑑賞ポイントを、マンガでじっくりと解説します。
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- 作者
- 作詞=三世並木五瓶(なみきごへい)、作曲=四世杵屋六三郎(きねやろくさぶろう)
- 初演
- 歌舞伎では一八四〇(天保十一)年三月、江戸・河原崎座。
- 概要
- 「歌舞伎十八番」の一つ。能の『安宅(あたか)』を原作とした松羽目物。
七代目團十郎のチャレンジ精神から生まれた
元禄時代に初代市川團十郎が演じていたが台本が残っていなかったため、七代目團十郎が作り直すことに。その際、大きな松を描いた松羽目(まつばめ)の背景があるだけの舞台にするなど、舞台装置や衣裳に能の要素を取り入れ、天保十一年に上演。それが勧進帳の初演とされている。
幕府から高待遇を受けている能を、身分の低い扱いを受けていた歌舞伎に取り入れるというチャレンジングな試みに、当時の人々は驚いたそうだ。その後、明治時代に九代目團十郎が洗練させ、現在に至っている。
長唄の名曲の一つ
勧進帳の音楽は長唄で、三味線の他、大鼓、小鼓、太鼓、笛の囃子(はやし)が入る。後半、富樫にふるまわれた酒を弁慶が飲む場面での「人の情けの杯を、受けて心を留むとかや…」の一節をはじめ、聞かせどころが随所にある。
白紙の勧進帳※1を読むのはそんなにすごい?
勧進帳は、寺院を建てたり修理するときの寄付金を集めるために、その趣旨を記した文書のことで、難しい言葉が長々と書かれている。弁慶がもとは比叡山延暦寺の僧だったとはいえ、相当の知識がなければできない。なおかつ、ウソがばれないよう落ち着いて読むには、勇気と思慮深さ、知識があればこそだ。
山伏問答※2
弁慶が勧進帳らしい文句を堂々と読み上げても、富樫は簡単には信じない。そして、次々に鋭い質問を投げかける。例えば「山伏の恰好にはどんな意味がある?」と聞くと、「不動明王のありがたい姿にあやかっている」と即答。スピード感あふれる緊迫したやり取りは「山伏問答」と呼ばれる。能の『安宅』にはない歌舞伎独自の演出の一つ。
見得のオンパレード
弁慶、富樫、義経の三人で決める「天地人の見得」。勧進帳を読み終えたとき決めるのは、不動明王の姿勢の「不動の見得」。問答を終えたときに決めるのは、荒事でよく使われる「元禄見得」。石を投げたような格好になる「石投げの見得」、ラストは弁慶の「飛び六方」と、さまざまな見得や六方を見ることができる。
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