第9回
菅原伝授手習鑑
2017.11.28更新
歌舞伎を見る前に知っておきたい基礎知識として演目の種類や独特な演出の仕方から、上演頻度の高い人気演目のあらすじと鑑賞ポイントを、マンガでじっくりと解説します。
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- 作者
- 竹田出雲(たけだいずも)、三好松洛(みよししょうらく)、並木千柳(なみきせんりゅう)による合作。
- 初演
- 人形浄瑠璃で一七四六(延亨三)年八月、大坂・竹本座。歌舞伎では翌九月、京都・中村喜世三郎座。
- 概要
- 義太夫狂言三大名作の一つ。平安時代が舞台の時代物。全五段の中でも四段目の『寺子屋』は単独上演が多い。
ワイドショー的なニュースをいち早く取り込んだ
平安時代、菅原道真が藤原氏の陰謀で失脚した事件をベースに、初演当時、大阪で三つ子が誕生したニュースを取り込み親子の別れを描いた作品。
流罪(るざい)は娘のスキャンダルが原因?
菅丞相(かんしょうじょう)と謀反(むほん)の心がある藤原時平(ふじわらのしへい)はライバル関係だったが、大序(だいじょ)の<加茂堤(かもづつみ)>で丞相に不利な事件が起こる。恋仲の斎世親王(ときよしんのう)と丞相の娘・苅屋姫(かりやひめ)の密会を、斎世親王の家来・桜丸が手助けした際、二人は駆け落ち。このスキャンダルがもとで、丞相は謀反の心があると時平に濡れ衣を着せられ、大宰府へ流罪となる。
動きのない演技で高潔さを表現
大序の<筆法伝授(ひっぽうでんじゅ)>では、禁止の社内恋愛のため破門になった武部源蔵(たけべげんぞう)が丞相に呼ばれ「伝授は伝授。勘当は勘当」と、筆道の奥義を伝授される。この場の丞相は動きがほとんどない「静」の演技で、品格や高潔を見せねばならない難役と言われている。
覚寿(かくじゅ)は「三婆(さんばばあ)」の一つ
二段目の通称<道明寺(どうみょうじ)>では、大宰府へ向かう途中の丞相が、苅屋姫をかくまっている伯母・覚寿の館へ立ち寄る。時代物の老母役のうち、演じるのが難しいとされる三役を「三婆」と言うが、覚寿はその一つ。
荒事の魅力が詰まった「車引」
三段目の<車引>は単独上演もある人気演目。梅王丸&桜丸松王丸で牛車の押し合いになるという単純なストーリーだが、荒事の演出が見どころ。器の大きな人物に使われる「二本隈(にほんぐま)」の松王丸、荒事の代表的隈な「筋隈(すじぐま)」で力強さを見せる梅王丸、「むきみ」だが和事のやわらかさも含んだ桜丸と、隈取もそれぞれの性格を表す。三つ子が牛車を引っ張り合い、鳴物にあわせて首を振る型、梅王丸の「飛び六方」など、短い上演時間内に荒事の様式美が満載。
「寺子屋」の松王丸は病気?
「寺子屋」の松王丸は、五十日鬘(ごじゅうにちかづら)に病鉢巻(やまいはちまき)※1という姿。髪が伸び放題の状態を表す五十日鬘は、盗賊や病人、浪人などの役に使われる。紫縮緬(むらさきちりめん)の鉢巻きを頭の左で結ぶ病鉢巻は、病気である演出表現。松王丸が病気の装いなのは、時平やその部下をあざむくための仮病。登場するときに籠に乗ってくるのは病気(実は仮病)だから。そのため、時平の部下が怪しむと、咳(せき)をしてごまかしたりしている。
首実検とは
切り首が本人かどうかを見て確かめることを首実検という。『寺子屋』のように、身分の高い人の首を差し出す場合、身替りの首を用意する。ウソの証言をするわけだから、緊迫感あふれる場面となる。
菅丞相は松王丸を信じていた!?
和歌のキーワード通り、梅王丸は丞相のもとへ飛び、桜丸は自害。和歌の「松のつれなかるらん」には、「どうして冷たいことがあるだろうか」という意味が込められている。つまり、丞相は松王丸を信じていた。結果、悪人のふりをしていた松王丸が『寺子屋』で忠義を果たす。
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