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第45回

107〜108話

2021.05.27更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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3‐1 お金の援助は難しい


【現代語訳】
(孟子の弟子の)陳臻が問うて言った。「先日、斉で王が良質の金を百贈られましたが、先生はそれを受け取られませんでした。しかし、宋においては七十鎰を贈られ、それを受け取られ、薛でも五十鎰を贈られ、それを受け取られました。前に受け取らなかったのが正しいことだとすれば、後の受け取ったことは正しくないことになります。反対に、後の受け取られたのが正しいとすれば、前の受け取らなかったことは正しくないということになります。先生の行為の、どちらが正しいのでしょうか」。

【読み下し文】
陳臻(ちんしん)問(と)うて曰(いわ)く、前日(ぜんじつ)、斉(せい)に於(おい)て、王(おう)、兼金(けんきん)(※)一百(いっびゃく)(※)を餽(おく)りしも、而(しか)も受(う)けず。宋(そう)に於(お)いては、七十鎰(しちじゅういつ)を餽(おく)られ、而(しか)して受(う)く。薛(せつ)に於(お)いても、五十鎰(ごじゅういつ)を餽(おく)られ、而(しか)して受(う)く。前日(ぜんじつ)の受(う)けざるが是(ぜ)ならば、則(すなわ)ち今日(こんにち)の受(う)くるは非(ひ)なり。今日(こんにち)の受(う)くるが是(ぜ)ならば、則(すなわ)ち前日(ぜんじつ)の受(う)けざるは非(ひ)なり。夫子(ふうし)必(かなら)ず一(いつ)に此(ここ)に居(お)らん。

(※)兼金……良質の金。
(※)一百……一百鎰。鎰については梁恵王(下)第九章二を参照。

【原文】
陳臻問曰、前日、於齊、王、餽兼金一百、而不受、於宋、餽七十鎰、而受、於薛、餽五十鎰、而受、前日之不受是、則今日之受非也、今日之受是、則前日之不受非也、夫子必居一於此矣。

 

3‐2 君子はお金で買収されない(賄賂は受け取らない)


【現代語訳】
〈前項から続いて〉。孟子は言った。「どちらも正しいのだ。というのは、宋にいたときは、私はちょうど遠くに旅行しようとしていた。旅行に行く者に餞別(せんべつ)を出すのが礼である。使者が持ってきた宋の言葉にも、『餞別を贈る』とあった。私は受け取らざるを得なかった。また、薛にいたときには、私に危険があって警戒しなくていけなかった。使者が持ってきた王の言葉にも、『警戒の必要があると聞いた。故、そのため兵備にかかるお金を贈る』とあった。やはり、私は受け取らざるを得ないではないか。ところが斉にいるときには、お金を必要とする事情がなかった。理由もないのにお金を贈るのは、こちらを買収しようという意味、つまり賄賂(わいろ)である。君子たる者、お金で買収されてはならないのだ(賄賂は受け取ってはいけないのだ)」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、皆(みな)是(ぜ)なり。宋(そう)に在(あ)るに当(あ)たりてや、予(われ)将(まさ)に遠(えん)行(こう)有(あ)らんとす。行(い)く者(もの)には必(かなら)ず贐(はなむけ)(※)を以(もっ)てす。辞(じ)に曰(いわ)く、贐(はなむけ)を餽(おく)る、と。予(われ)何(なん)為(す)れど受(う)けざらん。薛(せつ)に在(あ)るに当(あ)たりてや、予(われ)戒心(かいしん)(※)有(あ)り。辞(じ)に曰(いわ)く、戒(いまし)めを聞(き)く。故(ゆえ)に兵(へい)の為(ため)に之(これ)を餽(おく)る、と。予(われ)何(なん)為(す)れぞ受(う)けざらん。斉(せい)に於(お)けるが若(ごと)きは、則(すなわ)ち未(いま)だ処(しょ)する有(あ)らざるなり。処(しょ)する無(な)くして之(こ)れを餽(おく)るは、是(こ)れ之(こん)を貨(か)にする(※)なり。焉(いずく)んぞ君子(くんし)にして貨(か)を以(もっ)て取(と)らるべき有(あ)らんや。

(※)贐……餞別。この風習は日本でも昭和三十年代、四十年代ぐらいまであった。
(※)戒心……警戒しなくてはいけない。
(※)貨にする……買収する。賄賂を送る。なお、儒教国の中国や韓国では、賄賂の文化が当たり前のように言われている。しかし、ここで孟子ははっきりと、賄賂を否定している。儒教が賄賂を拡げているとよくいわれるが、それの論はおかしいのではないか。ついでに言うと、儒教が中国、韓国をダメにしたという論者も多いが、これも強引すぎる。以上の理由に加え、日本のことも考えると(日本こそ儒教の良いところの中身が定着している)、ほかの納得できる根拠を提示するべきであろう。「君子にして貨を以て取らるべき有らんや」は堂々たる主張そして名文である。

【原文】
孟子曰、皆是也、當在宋也、予將有遠行、行者必以贐、辭曰、餽贐、予何爲不受、當在薛也、予有戒心、辭曰、聞戒、故爲兵餽之、予何爲不受、若於齊則未有處也、無處而餽之、是貨之也、焉有君子而可以貨取乎。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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