第113回
112〜114話
2020.06.11更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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112 冬来たりなば春遠からじ
【現代語訳】
草や木が枯れて葉が落ちると、根元のところには芽生えが現れている。四季はめぐり冬の寒さは厳しくはなるが、冬至になれば竹筒に入れた灰が飛び出し一陽来復(いちようらいふく)を知らせる。このように草や木を枯れさせる厳しさのなかに次の生き生きとした生命が宿り、常にそれが主となり動いていく。すなわちこれが天地自然の心である。
【読み下し文】
草木(そうもく)纔(わず)かに零落(れいらく)すれば、便(すなわ)ち萌穎(ほうえい)(※)を根底(こんてい)に露(あら)わす。時序凝寒(じじょぎょうかん)(※)と雖(いえど)も、終(つい)に陽気(ようき)を飛灰(ひかい)に回(まわ)す(※)。粛殺(しゅくさつ)(※)の中(なか)に、生生(せいせい)の意(い)、常(つね)に之(これ)が主(しゅ)と為(な)る。即(すなわ)ち是(こ)れ以(もっ)て天地(てんち)の心(こころ)を見(み)るべし。
(※)萌穎……芽生え。なお、本項のタイトルは、イギリスのロマン派詩人であるP・B・シェリーの「西風に寄せる歌」という詞のしめくくりの句である。日本人にも愛されている言葉である。まさに本項もそのことを述べ、人々を励ましている。
(※)時序凝寒……四季はめぐり、冬の寒さは厳しくなる。
(※)陽気を飛灰に回す……冬至になれば竹筒に入れた灰が飛び出し、一陽来復を知らせる。昔、中国では、灰を竹筒のなかに入れておくと、一陽来復する冬至の候になると灰が自然と飛び出すとされていた故事による。
(※)粛殺……厳しい季節が草や木を枯れさせること。
【原文】
草木纔零落、便露萌穎於根底。時序雖凝寒、終回陽氣於飛灰。肅殺之中、生生之意、常爲之主。卽是可以見天地之心。
113 雨上がりは美しい(つらいあとの喜びは一層増す)
【現代語訳】
雨上がりの山の景色は、新鮮な美しさが一段と増す。夜深く静かになって聴く鐘の音は、いつにも増してとても清らかで澄んでいる。
【読み下し文】
雨(う)余(よ)に山色(さんしょく)を観(み)れば、景象(けいしょう)便(すなわ)ち新姸(しんけん)(※)なるを覚(おぼ)ゆ。夜(よる)静(しず)かなるとき鐘声(しょうせい)を聴(き)けば、音響(おんきょう)尤(もっと)も清越(せいえつ)(※)と為(な)す。
(※)新姸……新鮮な美しさ。
(※)清越……とても清らかで澄んでいる。
【原文】
雨餘觀山色、景象便覺新姸。夜靜聽鐘聲、音响尤爲淸越。
114 高い山、川の流れ、自然の魅惑などが人を高めてくれる
【現代語訳】
高い山に登ると心は広々となり、川の流れを見つめていると、この世の広がりと自分の小さなことを考えさせてくれる。また、雨や雪の夜に書を読めば、心清らかで気高い気持ちにさせてくれるし、丘の上で詩を口ずさむと心が大いにはずんでくる。
【読み下し文】
高(たか)きに登(のぼ)れば人(ひと)をして心(こころ)曠(ひろ)からしめ、流(なが)れに臨(のぞ)めば人(ひと)をして意(い)遠(とお)からしむ。書(しょ)を雨(う)雪(せつ)の夜(よる)に読(よ)めば、人(ひ)とをして神(しん)清(きよ)からしめ、嘯(しょう)を丘阜(きゅうふ)の巓(いただき)に舒(の)ぶ(※)れば、人(ひと)をして興(きょう)邁(ゆ)かしむ(※)。
(※)嘯を丘阜の巓に舒ぶ……丘の上で詩を口ずさむ。陶淵明(潜)の「帰去来辞(ききょらいじ)」にある。「東皋(とうこう)に登(のぼ)りて以(もっ)て嘯(しょう)を舒(の)べ、清流(せいりゅう)に臨(のぞ)んで詩(し)を賦(ふ)す」を踏まえている。「丘」はおか、丘陵。「阜」も「丘」よりは大きい丘のこと。
(※)邁かしむ……はずませる。
【原文】
登高使人心曠、臨流使人意遠。讀書於雨雪之夜、使人神淸、舒嘯於丘阜之巓、使人興邁。
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