第118回
130〜132話
2020.06.19更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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130 出家して偉そうにしている人も中身は問題がある人が多い
【現代語訳】
淫乱な多情女が男狂いの果てに尼となり、のぼせやすく目立ちたがりの男が、一時の感情で思いつめて仏門に入る。このようにして神聖と思われているところであるのに、実際にはみだらな女やよこしまな考えの男たちの巣窟となってしまっている。
【読み下し文】
淫奔(いんぽん)の婦(ふ)は、矯(きょう)して(※)尼(あま)と為(な)り、熱中(ねっちゅう)(※)の人(ひと)は、激(げき)して道(みち)に入(い)る。清浄(せいそう)の門(もん)、常(つね)に婬邪(いんじゃ)の淵藪(えんすう)(※)と為(な)るや、此(かく)の如(ごと)し。
(※)矯して……狂ってしまって極端になる。
(※)熱中……のぼせる。舞い上がる。
(※)婬邪の淵藪……みだらな女やよこしまな考えの男たちの巣窟。
【原文】
淫奔之婦、矯而爲尼、熱中之人、激而入衜。淸淨之門、常爲婬邪之淵藪也、如此。
131 心を外に置き客観的に見ることも必要
【現代語訳】
大波が天まで届くかのように荒れているとき、舟のなかにいる人は案外平気であるが、舟を外から見ている人はかえって肝を冷やす。酒ぐせの悪い人間が酔っぱらって大声を出しているとき、同席しているその仲間は案外気にしてないが、同席していない外部の人が見ると苦々しく思っている。このように、君子たるものはたとえ身は事のなかにあったとしても、心は外から客観的になって物事を見られるようになることが必要である。
【読み下し文】
波浪(はろう)の天(てん)を兼(か)ぬるや、舟中(しゅうちゅう)、懼(おそ)るるを知(し)らずして、舟外(しゅうがい)の者(もの)、心(こころ)を寒(さむ)くす。猖狂(しょうきょう)(※)の座(ざ)を罵(ののし)るや、席上(せきじょう)、警(いそし)むるを知(し)らずして、席外(せきがい)の者(もの)、舌(した)を咋(か)む(※)。故(ゆえ)に君子(くんし)は、身(み)は事中(じちゅう)に在(あ)りと雖(いえど)も、心(こころ)は事外(じがい)に超(こ)えんことを要(よう)するなり。
(※)猖狂……たけり狂う。
(※)舌を咋む……苦々しく思う。なお、本項の解釈については前集119条も参照。
【原文】
波浪兼天、舟中不知懼、而舟外者寒心。猖狂罵座、席上不知警、而席外者咋舌。故君子、身雖在事中、心要超事外也。
132 少し減らすことの効用
【現代語訳】
人生においては、少しだけ減らすことを考えることができると、その分だけ世俗のもたらす害も少なくなる。例えば、人との交際を減らせば、その分だけ面倒くさいもめごとも少なくなる。また、言葉を減らせば、過失も少なくなる。さらに、思慮することを減らせば、精神は消耗しないし、聡明さ(余計な知識、知恵)を減らせば、自分の良き本性の心をまっとうできる。それなのに、人は減らすことをしないで、毎日増やすことをしている。これでは自分で人生を手かせ足かせで束縛しているようなものである。
【読み下し文】
人生(じんせい)は一分(いちぶ)を減省(げんせい)せば、便(すなわ)ち一分(いちぶ)を超脱(ちょうだつ)す。如(も)し交遊(こうゆう)減(げん)ずれば便(すなわ)ち紛擾(ふんじょう)を免(まぬが)れ、言語(げんご)を減(げん)ずれば便(すなわ)ち愆尤(けんゆう)(※)寡(すくな)く、思慮(しりょ)減(げん)ずれば則(すなわ)ち精神(せいしん)耗(こう)せず(※)、聡明(そうめい)減(げん)ぜれば則(すなわ)ち混沌(こんとん)(※)完(まっと)うすべし。彼(か)の日(ひ)に減(げん)ずるを求(もと)めずして日(ひ)に増(ま)すを求(もと)むる者(もの)は、真(しん)に此(こ)の生(せい)を桎梏(しつこく)(※)するかな。
(※)愆尤……過失。
(※)耗せす……消耗しない。
(※)混沌……本書の前集178条参照。
(※)桎梏……手かせ足かせで束縛。
【原文】
人生減省一分、便超脫一分。 如交遊減便免紛擾、言語減便寡愆尤、思慮減則精神不耗、聰明減則混沌可完。彼不求日減而求日增者、眞桎梏此生哉。
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