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第3回

専業で活動できる作家を増やすための「話します会」

2024.05.20更新

読了時間

一生、絵だけを描くことに専念したいと考えた著者は、専業で絵を描く画家として、画商さんとの契約も、百貨店での個展も、アートフェアでの展示経験もなく、無所属でさまざまな創作活動を展開しています、本書は、創作者が活動するときに直面する「お金」の問題、接客方法など、今まで語られなかった著者の20年分の手の内を、本文から一部ですが特別公開します!
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3 江戸時代の絵師も、もちろん専念して活動していた

あらためて文章にすると少し不思議な気持ちにもなりますが、当然、江戸時代の絵師は、日々描くことに専念して活動していたはずです。江戸時代には、狩野派などの絵師集団や、伊藤若冲・池大雅・円山応挙など今でもよく名前が知られている絵師や画家が活躍していました。今とは時代が違うとは言え、別の仕事に多くの時間を割き、残りの時間で絵を描いていたわけではありません。
イメージしていただきたいのは、その有名な絵師たちのほかに、もっとたくさんの無名の絵師たちが活動していたということです。それぞれの時の中で絵師同士が刺激しあい、切磋琢磨して、日々研究して、美のレベルを向上させていったはずです。そして、たくさんの美が制作され、町の人々や寺社などが所蔵し、大切にされました。紛失や災害に遭わなかった一部の「運がよい作品」だけが今に伝わっています。
ここでは江戸時代を例に挙げましたが、私たちは、太古から現代までの人々がつくりあげた数々の文化によって、同じ土地にいる人として、プライドのようなものを感じています。誇れる文化は、私たちの心を強くしてくれています。時には、これらの文化は、世界の人々の心までつかみ、日本をリスペクトしてくれるきっかけになっています。
このように、私たちは、過去の「専念した人」がつくりあげた美の恩恵をたくさん受けています。

思いがけない美の恩恵もある

芝の増上寺と東京タワー、日本橋とその上を通る高速道路のように、新しいものと古いものが不思議な融合をしながら、新しい価値を生んでいます。
「日本橋の上に高速道路がつくられて景観が損なわれた」という声も聞きますが、外国の人からは逆に、「小さなスペースに機能的におさまっているところが日本ならでは」などと、私たちが気づかない美を見つけ、価値を見いだしてくれたりもします。

4  未来の人の文化力のために、今の私たちも、がんばらなければならない

過去の文化にかかわった大勢の人の努力によって、今の私たちの誇れる文化が成立しているように、「未来の人の文化力」のために、私たちもせいいっぱい努力する必要があります。
過去の人が専念して高水準の美をつくりあげたように、私たちも専念して、人生を捧げて美をつくりあげていくのが理想なのです。

兼業で活動している人の中には、「自分も人生をかけて努力している」という方もおられるかもしれません。しかし、数々の美をつくりあげた専業の先人に対し、正面から同じことを言えるでしょうか。本当の意味での美の追究は、そんなに簡単なことでしょうか。
私は、ほかの業種と同じように「プロ」でないとたどりつけない領域があると思います。
もっと専念して活動する人が増えて、お互いが刺激し合い、切磋琢磨してこそ、もっと高水準な美をつくり出すことができ、未来の人に高水準な美を、いくつかだけでも届けることができると考えます。
私は、現在の人に作品を楽しんでもらい、求めてもらえるように努力していますが、未来の人のためにもがんばっています。それでも一人でできることは限られています。同じような想いで美に専念する作家が増えて、美のレベルを高め合う必要があると思います。
そして、描いた絵の中からわずかでも未来に届き、「未来の人の文化力を支える小石の一つぶ」になることができたら、とても幸せです。
その専業で活動できる作家の仲間づくりのために、私は「話します会」をはじめました。

5 専業で活動できる作家を増やすための「話します会」――情報交換が大切だという話

作品にとても魅力があって、高水準の美をつくり出せる人でも、生活のためにほかの仕事をしている作家さんが多いのが現状です。美術大学の教授や講師をしていても、または別ジャンルの職業でも、それぞれの仕事の間に創作して、展示をして活動しています。
兼業作家さんたちも、きっと基本的には描くこと・創ることに専念したい、という想いがあると思うのです。ただ、簡単に生活できるだけの糧を生んでくれない創作と発表を繰り返し、歳月を重ねた結果、どこか諦めのムードが広がっているのだと感じています。
その諦めムードをくつがえし、専業で活動できる人を増やすために、若い作家さんを主な対象に、私が活動で経験し、蓄積してきたノウハウなどを素直に話し伝え、情報を共有することができる「話します会」をはじめました。
活動のノウハウを若い作家が共有すれば、私がこのノウハウ獲得に要した約10年の時間を、若い作家さんは短縮することができると考えています。魅力ある作品をつくれる人がこの活動の方法を知り、より若くから専業画家として活動できるようになることを望んでいます。
今までは、活動のノウハウを、作家が個々に時間を使って獲得するばかりで、情報交換されてきませんでした。
そのことが、問題だったのです。作家同士が情報交換することが当たり前になって、もっと多くの専念して活動する作家が手の内を明かしてくれるようになれば、各作家が生活できる「よりよい活動方法」を早く見つけることができるはずです。
制作に専念できる作家が増えていくことを強く願って「話します会」の活動を行った結果、運よく、この本を出版していただくことになりました。

謎の魔術――諦めムードが広がる一つの要因

今までの活動の中で、さまざまなスタンスの作家さんたちに出会ってきました。そして、会話をする中で、私の活動や、ほかの専業作家の活動について、あまり賛同せず、次のような指摘をする方々もおられました。いくつか例を挙げます。
・大きな作品を描かなければ、上手にならない。小さな作品を描いてもだめ
・同じテーマを描き続けて、深掘りしないと、そのテーマの本質が描けない
・よい絵具や筆を使用しないと、よい絵は描けない
・美術館に展示して、立派に見える作品でないと、あまり価値がない
・ほかの仕事をして描き続けるほうが、心おだやかに制作できるので、よい作品をつくることができる
などなど、個々への反論は避けますが、このようなことを正しいと考えている作家さんがいることも事実です。
絵で生活することができない、既成概念の魔術のように、私には聞こえました。
自分が何を大切にしているのか、自分は本当に何がしたいのかを常に考え、活動をすることが大切だと考えます。

自主的な活動ができる人ほど柔軟な考えをもっている

私の個展で作品を知って、技法や活動方法について直接質問してくださる作家さんが時々おられます。その作家さんたちは、自分の知りたいという欲求に正直で、専業で活動できている人、または兼業であってもそのうち専業になれそうな魅力を感じさせる人が多いように感じています。
作家はそれぞれ、何かしらのプライドをもっていますが、この作家さんたちは柔軟性も合わせもっているようです。
もし、あなたが自分の活動について、かたくなな考えをもち続けていたら、進化のスピードはとても遅くなってしまいます。
いろいろな考えや技を吸収して、利用できることは利用するという柔軟さは大切なことです。

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著者

福井 安紀

画家・絵師。1970年京都府生まれ。サラリーマンを経たのち、30歳から絵だけで生活する道へ進む。土と石の自家製絵具で制作を続け、2013年、42歳で髙砂神社能舞台の鏡板の松を制作する機会をいただく。45歳のときに、江戸時代の絵師にあこがれ、安価に、すばやくふすま絵を描く「ふすま絵プロジェクト」を立ち上げる。各地の住宅、店舗、ホテル、寺院などでふすま絵、壁画、天井画などさまざまな種類の絵を描き続けている。2023年までに個展150回以上、多数のふすま絵制作など画家活動の限界に挑んでいる。

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