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第6回

売れっ子地下アイドルを参考にする

2024.06.03更新

読了時間

一生、絵だけを描くことに専念したいと考えた著者は、専業で絵を描く画家として、画商さんとの契約も、百貨店での個展も、アートフェアでの展示経験もなく、無所属でさまざまな創作活動を展開しています、本書は、創作者が活動するときに直面する「お金」の問題、接客方法など、今まで語られなかった著者の20年分の手の内を、本文から一部ですが特別公開します!
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売れっ子地下アイドルを参考にする

数年前に深夜番組で地下アイドルを特集したものがあり、興味をもって観ていました。内容は、地下アイドルの中には、地下アイドルの活動で生活ができている「売れっ子地下アイドル」という存在があって、その活動をドキュメントしたようなものだったと記憶しています。
番組では、その「売れっ子地下アイドル」が、ステージを借りて、チケットを売り、ライブを行い、関連商品を物販している姿が紹介されていました。そして彼女は、十分な生活の糧を得ているのです。この「売れっ子地下アイドル」の活動は、私のような、画廊を借りて、作品を並べ販売する絵描きと、共通点がとても多いと感じました。
アイドル業界のメジャーと地下の構造と同じような構造がアート業界にもあり、画商や有力な企画画廊・アートフェアなどが主体のメジャーの活動と、それ以外の地下(インディーズ)に分けて考えることができます。「売れっ子地下アイドル」の活動は、絵に専念して生活ができる「売れっ子地下絵描き」になるためのヒントになると感じました。

「売れっ子地下アイドル」を例にとってみると、メジャーアイドルよりお客さんとの距離感が近く、お客さんの「自分が支えている」という満足感が生まれやすくなっています。先ほどの番組には、さらに次のようなシーンがありました。
「ぼったくり物販」と銘打って、100円ショップのTシャツなどを1000円で販売し、ファンがどんどん買っていく。自宅でダビングした、サインもラベルも入っていない白いCDもたくさん買われていく。買い求めているファンに「こんな無地のCDで満足なのか」というようなことを取材記者が質問したのですが、そのファンが「この無地のCDは、彼女の部屋で夜な夜な寝息と共にダビングされている神聖なものだ」と強く主張するシーンが映っていました(「ビートたけしのTVタックル」2015年12月7日放映)。
とても参考になると感じました。
表現にこそ違和感がありますが、「夜な夜な寝息と共に」つくられたCDが地下アイドルの魅力であって、工場で生産されるメジャーの世界の立派なCDとは、価値のポイントが違います。
この距離感の近さやストーリー性が、地下アイドルに求められる価値内容なのです。

自分も含めメジャーでない多くの画家の作品も、「夜な夜な」自分の画室(生活空間)などでつくったものであり、作品の完全さよりも、不完全でも努力した痕跡のような「人間味のある活動」そのものに価値があるはずなのです。
私たちメジャーでない絵描きも「価値ある無地のCD」に相当するものをつくればよいのです。
作家の日常や率直な心から、価値は生まれると考えています。万人に賛同を得るものではないはずです。作家の「本当の自分」がさらけ出された時、作家に共感し、価値を見いだす人が現れるのだと考えています。数は少なくても、強い共感の獲得が大切です。
つい、メジャーの世界の価値観で作品や活動を考えてしまいがちですが、そうではありません。
画家の「本当にしたいこと」や生きる姿勢の香りのする作品こそが、「地下絵描き」に求められている価値や作品像だと考えます。
異なる業界も参考にして、何が私たちの活動の中で価値になっているのか、あなたの活動を支えてくれている人が本当の意味でどのようなことを求め、楽しんでくれているのか、ということをイメージすれば、自分が提供できる価値で、まだ自分が気づいていない要素を発見できるのではないかと思います。

メジャーの葛藤

芸能界で、メジャーで活動しはじめた時、「活動の方向性」にとても悩んだという人がいます。
「所属会社やマネージャーの指示する通りに仕事をすると、自分の考えを曲げることになる。自分の考えを通すと、仕事がもらえなくなるかもしれない。でも指示通りに仕事をしていた同僚や先輩アイドルで、消えていく人もいる」
望まれる姿と自分が実現したい姿の差が生まれやすいのも、メジャーの特徴なのかもしれません。

「有名」について

あなたがメディアなどでピックアップされたりして、一時的に有名人になることがあるかもしれません。たくさんの知らない人たちが、あなたの個展に押しかけると思います。
その時に大切にしてほしいのは、急なたくさんの出会いの中から、「あなたの特別なお客さん」になってくれる人を発見することです。ブームが去ってしまえば、多くの出会いは消えていってしまいます。あなたの価値観や考え方に、本当の意味で共鳴してくれる人を探すことが大切です。
きっとその大切な方とは、多くの人が去ったあとも、長くお付き合いができると思います

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著者

福井 安紀

画家・絵師。1970年京都府生まれ。サラリーマンを経たのち、30歳から絵だけで生活する道へ進む。土と石の自家製絵具で制作を続け、2013年、42歳で髙砂神社能舞台の鏡板の松を制作する機会をいただく。45歳のときに、江戸時代の絵師にあこがれ、安価に、すばやくふすま絵を描く「ふすま絵プロジェクト」を立ち上げる。各地の住宅、店舗、ホテル、寺院などでふすま絵、壁画、天井画などさまざまな種類の絵を描き続けている。2023年までに個展150回以上、多数のふすま絵制作など画家活動の限界に挑んでいる。

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